第92話 旅は道連れ


「いやです」


「っ!?」

「ぇ…?」

「ルイ!?」


 一夜明けて、翌朝。おはようの挨拶から今しがたまで、レヴィもシャロレも何だか妙な雰囲気だなとは思っていたのだが。朝食の最中にレヴィから、王都まで護衛してほしいという話があった。


 お断りさせていただいたのだが、三人は三者三様の反応を見せている。目を見開いて驚くレヴィ、戸惑うシャロレまでは分かるけど、何でエリエルがそんなに驚いてるんだ?


「何で!?ルイ、王都に行けるんだよ!二人とも綺麗だし可愛いじゃない!ワウミィほどじゃないけど、シャロレのお胸も大っきいよ!?何で護衛を受けないの?」

「エリエル…お前というやつは本人の前で…。まぁ理由の説明は要るんだろうけど、お前にはあとでお仕置きが必要だな?(ニッコリ)」

「ひぅっ!?」


 俺の爽やかな笑顔に何かを感じ取ってくれたようだが、どこまで伝わってることやら。気持ちを切り替えて二人の方に向き直ると…シャロレが少し恥ずかしそうに頬を赤らめ、胸を手で隠している。エリエルめ…。


 ふぅ、それはさておき。断られるとは思っていなかったのか?少し怒っているような、少し悲しそうな、二人とも、そんな複雑な表情をしている。こういうの、俺みたいな性格の人間には、断るのも理由を説明するのもストレスなんだが。仕方ないけど。


「まず、話したと思うけど、俺はすでに依頼を受けてる。先約を放り出して新しい依頼を受けたりはしないよ」

「それなら、トルヴで今の依頼を完了したあとにでも…」

「依頼を完了したあとも、転職やら加工の勉強やら、たぶん、やりたいことがメジロ押しだ。俺も王都にはいずれ行ってみたいとは思うけど、トルヴを満喫してからでも遅くないし」

「でも、こんなに素敵な女の子たちが困って…へぅっ!?」

「(ジトリ)…はぁ。確かに俺だって若くて健全な青少年だからして、綺麗なお姉さんも可愛いお姉さんも好きだし、お胸にも大小問わず興味があるお年頃ではある。むさくるしいおっさんの護衛よりは、やる気もでるだろう」

「それなら…」

「…が、そもそもソロでの護衛は難しいんだ。それに加えて王都までの道のりも、その旅程の敵の強さも知らない。そんな状態で護衛依頼なんか受けて良い訳が無いだろ?素敵な女の子と旅行したいからって理由で無責任に依頼を受けるほど、俺は落ちぶれちゃいないよ」

「「「…。」」」


 少しキツい言い方になってしまったが、この二人はちょっと世間知らずで危ういと思う。エリエルが茶化してくれるから程よく雰囲気が和らぐけど、ちょっと強めに言ってでも、ちゃんと分かってもらわないと。


「悪かったわね。次からはちゃんと、相手を選んで依頼するわ」

「すみませんでした…」

「おう、そうしてくれ。さ、朝飯が冷めちまうから、食った食った」


 うん。意図が伝わったみたいで何よりだ。しかもちゃんと相手の言い分を聞き入れる度量と、素直さがある。二人とも、根は良い人たちなんだよな。それこそ、一緒に旅ができたら楽しいんだろうけど。


「…さて、エリエル。お前にはデリカシーの何たるかについて、じっくり、たっぷり、教えてやる。地獄のマナー特訓付きで、だ」

「あぅあぅあ」


 ・・・


「ごめん、待たせた。余計な時間くっちゃったな。出発するか?」

「えぇ」

「はい」

「クルゥ」

「うぁい」


 エリエルへの説教を終えて、みんなと合流する。勘違いかもしれないが、少し品が無かったとはいえ空気を読んでくれてたようにも思えたので、だいぶ手加減はしたつもりだ。ちょっと様子がおかしいが。


 …なんか途中からバイトの新人研修みたいになってしまったけど、この流れも含めて女神さまが想定していたエリエルの研修ってことは無いよな?残念な新人バイトを押し付けられた的な?…いや、この件は深く考えないようにしよう。


 レヴィとシャロレとはトルヴまで同行して、そこで別れることになった。王都へはフェムから伸びる街道で行けるらしい。そのため、二人はトルヴ経由でフェムに向かい、フェムで改めてその先の護衛を雇うかどうかを検討することにしたそうだ。


 ちなみに二人はマジックバッグなどを持っておらず、大きめのザックを背負っていたので、少しでも負担を減らすために俺のインベントリに荷物を入れてあげている。


「トルヴまで、よろしくね」

「よろしくお願いします」

「あぁ、よろしくな!」


 ルカはポワ・クルー、エリエルはミニ天使。なので今まで他人と旅してるって感覚は無かったんだけど。レヴィとシャロレが加わったことで、一気に団体行動みたいな雰囲気になった。


 自分以外の人が歩く姿が目に映り、自分以外の人同士の話し声がする。時には話しかけられたりもして、やっぱりソロの旅とは空気感が違う。人と一緒にいるのは妙な緊張感があって少し疲れるけど、少しだけ安心感もある。


 本音を言うと、護衛ルートのことをもっと俺が知ってたら、あるいはそんなの関係ないくらい俺が強ければ護衛してあげたい気持ちもあるんだけど。こればっかりはしょうがない。


 短い間だけど、トルヴまではちゃんと送り届けてあげることにしよう。

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