第86話(閑話)天上にて
<ユニークモンスター:アングラウが討伐されました>
<トヴォ村への教会設置申請が届いています>
<海洋コンテンツ解放ポイントが増加しました>
<夏季のイベント期間が終了しました。イベント報酬を配布します>
「ソヨ、教会の申請届いているから処理しといて。ナコ、海洋コンテンツの進行度合いは?」
「ちょっと予定外ねー。ここのポイントって、あと10年はかかるはずだったんだけどなー。何があったんだろ?」
「ノア、申請、許可しといた」
「ん。ありがと、ソヨ。ナコは一応、周辺を調べといて」
「はいはいー」
3人の天使がテキパキと作業をこなしている。モニターに次々と浮かんでは流れる文字列を確認しながら、並行して端末の操作などの処理を行っているようだ。
「夏季イベント報酬の花火って、何これ?あと、この…男性用の水着…」
「あー、それ。ゲームとかのシステムらしいんだけどー。参加者が飽きないように、シーズンごとにイベントを開催するのー。報酬を用意して、特定のモンスターを倒したりとかの特別な依頼を配信するんだよー」
「報酬。可愛いコスチューム。今まで多かったけど。苦情きて」
「そりゃ不公平だもんね。男の子たちも何か欲しいってなるか…」
「女の子たちから」
「え?」
「女の子たちから、男の子に着せたいって苦情きてー。人気の転生者が何人か居るみたいでー。着てるの、見たいってー」
「…。ま、まぁそれは良いんだけど、水着のデザインが際どいブーメランタイプなのは何で?」
「女の子たちから」
「え?」
「こんな感じが良いってー、女神さまの像にお祈りしてきたんだよー」
「…。は、そう!花火は?」
「エリエルの置き土産でね、降下する前に仕込んでたみたいなんだけどー。打ち上げ花火だけど、設定ミスが多くてねー。地上で爆発したりして、死に戻りする転生者が続出ー」
「苦情が多くて大変だった」
「設定ちゃんと、し直したんだけどー、今度はそれを使って打ち合いをする転生者が出始めてー。ダメージが全くない花火にしたら、それはそれで楽しくないって言うしー。今は、ダメージは無いけどほどほどに熱い花火にしてるんだー」
「自信作」
「ほんと、何やってるの?転生者も、貴女たちも」
・・・
「でもノアって他の世界の担当でしょー?レナっちと交代ー?」
「トイレ?」
「違うわよ。レナは、ほら、例のアレ。エリエルへのお仕置きと転生者救済計画について、女神さまへのプレゼン」
「あー、あれねー」
「納得」
「ルイだっけ?転生者の一人くらい放っておいても良いと思うんだけど」
「女神さまは、お優しいからねー」
「それが良いところ」
「確かにそうなんだけどね。けど、地上に降りた天使にお仕置きするのがシステム的に困難だからって、何もレナが自分で降りる必要は無くない?」
「直接行けばエリのお仕置きも、その後の指導も、ルイの救済も確実に可能だからって、ねー」
「一石三鳥」
「そうだとしても天使が1つの世界に次々ほいほい降りるなんて、女神さまもお認めにならないんじゃない?」
「他の世界も含めて、ひと段落したからー。向こう10年20年は天界も忙しくならないだろうってー。あと、強制送還とかもシステム内に組み込んで、万が一の時にはすぐに戻れるようにしておくんだってー」
「レナ、真面目」
「まーね。それがあの娘の良いところ、なんだけど…。あの格好は貴女たちが奨めたって聞いたわよ」
「お仕置きといえばー、ね?」
「カワイイ」
「ナコはまだしも、ソヨまで…。あの娘、真面目だけど騙されやすいところあるんだから。まぁ女神さまが止めてくださるとは思うけど」
「格好までは、プレゼンに入ってないよー?」
「ないよ?」
「…え?」
・・・
「いよいよですね。プレゼンは完ぺきだったけど、天使の追送は気軽にやることではないし…女神さまがお認めくださって良かった」
レナエルはゲート前で緊張した面持ちを見せている。自分で計画し、提案した事ではあるが、いざ下界に降りるとなれば勇気が要る。
「108通りの代案を考えたけど、これが最善でした。ルイは不確定要素だから、エリエル周りのシステムを改修すればどうしても影響がでる可能性がありましたし。その時点で、直接行く以外の選択肢は選びにくいんですよね。我ながら大胆な考え…大胆と…いえば…」
設定済みの、下界での自分の姿を思い出す。ナコエル、ソヨエルのアドバイスに従ったので間違ってはいないとは思うのだが…。
「くっ…恥ずかしい!でもこれが最善、我慢しないと!」
誰に見られているわけでもなく、ましてまだその格好にもなっていないというのに、メガネごと顔を両手で隠して身悶える。
エリエルとは違う格好をしないと見分けがつかない、お仕置きをするなら雰囲気が重要、下界ではこの程度の露出は当たり前、などなど。数々の理由を並べたてられた。多少は疑問に思う部分もあったのだが、試着イメージを見せた二人がすごい、カワイイ、似合ってると褒め讃えてくれたので、あとに引けなくなったのだ。
「格好は、まぁ良いでしょう。大切なのは行動して、結果を残すこと。エリエルの研修と、ルイの救済を遂行するだけ」
赤い顔でズレてしまったメガネの位置を直しながら、友人の顔を思い浮かべる。元からレナエルは真面目だったが、今よりも輪をかけて大人しい性格であり、他の天使と話すことさえも苦手なタイプだった。そんな自分にエリエルは積極的に話しかけてくれたし、下界の文化なども教えてくれた。
メガネも、エリエルがファッションに凝った時期に奨めてくれたものだ。自分にフィルターをかけて自分以外の存在にしてくれるかのように、外界にフィルターをかけて別世界にしてくれるかのように。メガネをかけることで引っ込み思案な自分が、苦手な世界が、変わったように感じられた。
それ以来、エリエル以外の天使とも話せるようになり、女神さまとも物怖じせずに話せるようになった。ダメなところが多々ある友人だが、感謝しているのである。本人には口が裂けても言わないが。
「しょうがないから、助けてあげます。待ってなさい」
顔を上げてゲートを見つめるレナエルの表情には、もはや迷いは欠片も無かった。
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