第77話 漁の手伝い


「大漁じゃ!」

「「「大漁だ!オイッ!オイッ!」」」

「豊漁じゃ!」

「「「豊漁だ!オイッ!オイィーッ!!」」」


 アングラウ戦のあの日から1ヵ月ほど経った。俺は午前は村人たちの漁を手伝ったり、釣りを教えてもらったり、子どもたちと遊んだりして過ごし、午後は槍の訓練をする毎日だ。


 今日は夜明け前から一本釣りの船に乗せてもらい、沖へ出ていた。昼前、まさに大量の魚を船一杯に載せて村へと帰ってきたのだが…。


「なぁ、掛け声は分かるんだが。合の手と共にいちいち村に向かってマッチョポーズをキメるのは何でだ?」

「あぁ?教えてなかったか?浜に居る女衆に、今日は大漁だって知らせてやってんだよ。水揚げ荷捌きの段取りがあるからな」

「大漁旗とかだけでも分かるんじゃ?」

「馬鹿お前ぇ!そんな心意気で漁師が務まるとでも思ってんのか!?大漁の時は全身全霊を込めて祝う、感謝する、これが漁師ってもんだ。まぁ、あとは女衆へのアピールだな。カカァが居る奴は無事の知らせ、居ない奴ぁ浜の女に惚れてもらえるようにアピールしてんだよ!」

「あぁ、そういう…。まぁノリと勢いが楽しいから良いけど」


 せっかくだからと俺も参加して、船べりから乗り出すように競い合いながらポーズをキメ、声を上げつつ賑やかに入港。笑顔で出迎える女の人たちと共に水揚げの作業だ。


 新鮮な魚が次々と選別され、魔道具の保冷箱や普通の籠、ザルなどに移されていく。さすがに手慣れたもので、流れるように進められ、あっというまに運ばれていく。


「ルイ君!ポージング最高だったよ!このあと、お昼どう?たまにはワウミィの家じゃなくて、私の家でご飯食べようよ」

「あ、こら!抜け駆けはダメよ!…なら、ご飯が終わったら私の家に来なよ。布団敷いて待ってるから!」

「何言ってるの!ルイ君の手料理を食べた後は、私がそのままルイ君も美味しくいただくに決まってるじゃない。あんたの出番は一生来ないわよ」

「ワウミィじゃないんだから、独り占めなんてダメに決まって…」

「ほぅ?わちが何を独り占めにしたとな?」

「「ワウミィ!?」」

「あ、あの…そう、あれ!スイカ!行商人からたくさん買ってたでしょ?」

「そうそう。食べ過ぎるとお腹壊すんだから、気を付けないとねー…あ、あははー」

「…ふう、お主ら。この作業が終われば昼からの海女漁の準備じゃろう?ここでサボっていては海女頭に叱られようぞ」

「はーい。ルイ君、またねー」

「はいはい。ルイ君、今度一緒に潜ろうね」


 話についていけずに状況を見守っていたが、手を振られたのでとりあえず振り返す。海女さんたちは時々ご飯に誘ってくれるのだが、何故か、そのたびにワウミィが現れる気がする。


「まったく、しようのない奴らじゃ。ちょっと目を離すと、すぐにルイに色目を使いおる。…ルイは時折、海女漁にも顔を出しておるが、よもや不埒な気持ちで参加してはおるまいな?」

「誘われたからってのはあるけど、お目当ては魚介だよ」


 エリエル用のウニのほか、アワビやサザエなどの貝類、エビやカニなどの甲殻類もかなりストックが貯まってきた。頼めば分けてもらえるけど、やっぱり自分で素潜りした方が楽しいし。


 …海女さんたちもワウミィほどではないが若くて美人な人が多く、海から上がると服が濡れていたり、はだけていたりするのが何とも眼福であることは確かだが…。


「ルイ?今、良からぬことを想像してはおらなんだか?」

「イイエ?ソンナコトナイデスヨ?トリアエズソノ、モリヲシマッテクレマセンカ?」


 ワウミィは何で俺の頭の中が分かるんだ?冒険者の経験的な勘とか何かとかで、心を読まれてたりするのか?


「ルイ、鼻のあな、膨らんでたよ?」

「エリエル、教えてくれてありがとう」


 ・・・


「「「ただいまー」」」

「さて、軽く手足を流して昼飯にしよう。…しかし、お主、すっかりその姿が板についてきたの」

「ルイは元々色白なんだし、ムキムキでもないんだから。何もそんな格好しなくてもいいのに」

「そうか?よう似合うておるぞ。ふふっ」

「笑われてるうちは、まだまだだなー」


 ワウミィに苦笑を返しながら、水場へと向かう。漁の手伝いの初日、他に服も無いしといつものローブ姿で行ったら、”そんなヒラヒラした服で漁ができるか馬鹿野郎ぅ” と言われ、羽織とふんどしに着替えさせられたのだ。


 それ以来、訓練の時以外はこの漁師スタイルで過ごしている。最初はかなり恥ずかしかったのだが、周囲の漁師たちが皆この格好だったこともあり、すぐに慣れた。トヴォの夏は意外と暑く、このほぼ全裸スタイルはその意味でも快適なのだ。


「今日も午後は訓練か?」

「あぁ、そのつもりだよ」

「ふむ、ならば後で様子を見に行こう」

「え?珍しいな。最初に少し見てくれて以来、自主練習だったのに」

「お主のことを信じておるからな。しっかり訓練していれば、そろそろ基礎はできていよう」

「うえぇー。そう言われると緊張するな。まぁ大丈夫だとは思うけど」

「であろ?わちも楽しみじゃ」


 この一月ほど、真面目に取り組んだという自信はあるが、久しぶりに見てもらえるとなれば、ガッカリさせるわけにもいかない。復習の時間も欲しいし、気持ち早めに昼食をかきこんで、浜へと向かおう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る