第66話 サハギンの狩場

 今の俺のレベルだと、サハギンを同時に相手にするには最大でも2匹。3匹同時は無理だろう。沼の外縁から、足元の小石を拾って慎重に、慎重に見極めて、投げつける!


 上手く1匹だけのヘイトを稼げたようだ。少し離れたところにいる他のサハギンは気づいていない。石が当たってざばざばと音を立てながら寄ってきた1匹を、アクアハンマーで手早く仕留める。サハギンは仲間に声をかけたりしない。


 さらにはあまり目も耳も良くないらしく、一定の距離があればこちらで戦闘していても近づいてこないようだ。よしよし。これなら今の俺でも安全マージンを取って戦える。まずはこの調子で適正レベルの最低である20あたりを目指すことにしよう。


 そのまま数匹、距離的な検証を含めて戦った後、少し沼から離れてから弁当を広げ、お昼休憩にした。


「どう?やれそう?」

「あぁ。この調子なら大丈夫そうだ。暇ならオフでのんびりしてて良いぞ?」

「んーん、大丈夫。ルイが楽しそうにハンマーで殴打してるのを見てるよ」

「もう少し言葉を選んでくれるか?」


 午後は、ほぼ作業のようになったが、レベル上げとはそういうものと割り切る。一応アクアハンマーの波紋の習熟、回避とパリィの使い分け、2連撃を出すタイミングなど、その時々で課題を設定して戦った。時々うっかり2匹同時に襲われることもあったが、何とか捌くことが出来た。


 だが不幸にも再配置リポップと重なってしまい、3匹同時に襲われたときは沼の縁沿いにダッシュで逃げた。一定の距離をとったら諦めて元の位置に戻ってくれたから良かったものの、この仕様じゃなかったら危ないところだった。


 相手の方が高レベルなのと、ひたすら戦えることから、経験値的にかなり効率が良い。今日一日でレベルは3つ上がり、18になった。とはいえ慎重に戦うために神経を使うし、さすがに疲れたので今日は早めに切り上げて帰る。


 途中、神社にお供えしたおにぎりを回収しようとしたところ、綺麗さっぱり無くなっていた。この辺りの動物にでも食べられたのかな?野生の動物に餌付けのエサをあげたみたいになったら良くないかもしれないから、お供えを続けるならワウミィに塩とか酒とか相談するか。などと考えながら背を向け、社を後にしようとしたところ、


(甘露…)


 何か聞こえた気がする。社に振り返っても誰もいないが、おにぎり気に入ってもらえたのかな?明日以降もお供えはおにぎりにしてみるか。


 階段を下りて、そのまま浜辺に出る。サハギンとの戦いで泥が跳ねていたので、軽く海水で流す。…しまった。海水は塩気でべたべたするな。おおざっぱに泥を流す分にはいいんだけど、ワウミィの家に帰ったらお湯を使わせてもらおう。


「戻ったぞ」

「おかえり。勝手に夕飯の支度してるぞ」

「…くっ、良い匂いじゃ。長く独りで暮らしていると、”行ってきます” やら ”お帰りなさい” だけでも心にクるというのに、夕飯の香りで出迎えられた日には、わちが陥落しても仕方あるまい、の?」

「何が “の?” か知らんが。あぁ、すまない。先にお湯も使わせてもらったぞ」

「!!湯上り…だと!?お主、この上、わちをどうするつもりじゃ!」

「何を興奮しているのかさっぱりだが、良いからきれいきれいになってこい。湯上りには、ちょうど夕飯も出来上がるだろうから」

「末恐ろしいやつ…」


 何だかぶつぶつ言っていたが、ひとまず大人しく引っ込んでくれた。今日の夕飯はサバ。サバは秋が旬だが、何故かワウミィ家の保管庫で見つけた。


 果実の採取やハチミツの採取もそうだったが、魚も旬はあまり関係なく獲れるのか?それとも保管庫は長期保管できるのか。見つけてしまうと、食べたくなってしまう。昨日のうちに保管庫の中身は自由に使って良いと許可は得ていたので、調理開始。


 まずはみそ煮。サバは熱湯をかけて霜降り。余計な脂やぬめりを取り除く。あとは味噌に砂糖や酒などを入れて温め、頃合いをみて一片のしょうがとサバを入れ、煮汁をかけながら煮立たせる。


 並行して別のサバを塩焼き。焼きあがったサバと昆布を適量の水をはった生米に投入し、酒や醤油を加えて炊く。炊きあがったらネギを加えて、サバ飯の完成だ。


「「「いただきます」」」


「サバのうま味と、そのうま味を吸った米。ネギもまた格別に合うし、何とも堪らん。みそ煮も甘やかで、口の中で柔らかくほどけていきよるわ」

「お気に召したようで何より」

「サバうまー!」

「お前はもう少し、コメント 力を磨け」


 今日も賑やかな夕食だ。ワウミィは今日は海女さんの乗合船での手伝いだったらしい。自分では潜らないのかと聞いたら、意外に泳ぐのは苦手だそうな。普段とは違う可愛い感じの顔でそっぽを向いてたが、別に恥ずかしがることはないと思うんだけど。


 話題を変えるように狩場について聞かれたので、何とかなりそうだという話をする。こちらは納得の表情。レベル的には無理そうでも、浜辺での石割りを見ていて何となくいけるだろうと感じていたらしい。


「あの沼は、わちが修行に使ったと話したと思う。あそこで通用するレベルになれば、あやつとの戦いで戦力とは言わないまでも、足手まといにはなるまいよ。間に合うか分からんが、励むとよい」

「あぁ、頑張ってみるよ。ありがとな」

「しかし、長杖で戦うとは奇特なやつじゃ」

「ん?いや、メインはハンマーだぞ?」

「何?長杖ではないのか?見たところ技術的にはレベル以上であろ?」

「あぁ、一時期世話になった猫獣人に長杖の扱いを鍛えてもらったんだけどな。職業的にも俺はウォリアーだし、好みの都合上、ハンマー使いなんだよ」

「ふむ、やはり」

「ん?何が?」

「いや。ま、お主の好みならそれで良い。色々な武器の熟練度をあげておくのは、戦術の幅が広がるゆえ悪い事ではないからの。ただ、中途半端にはならないようにすることじゃ」


 食後も囲炉裏を囲んでお茶をしながら話をした。ワウミィは流石に冒険者らしく、戦闘や育成に関して、いくつかアドバイスをくれた。体格もどちらかと言えば細い方だけど、こう見えてきっと強いんだろう。経験も豊富そうで、話を興味深く聞いているうちに、あっという間に就寝時間となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る