第37話 エンの街の冒険者ギルド

「そういえば、お前ガングロやめたんだな」

「そーなの。本当はそのまま来ようと思ったんだけどね。レナちんが、あ、レナはあたしの友達で、ほら、あの時トイレに行ってた娘ね」

「少ない情報量で可哀そうなイメージを植え付けるのヤメロ」


 その天使の声も姿も形も分からず、ただトイレ行ってただけの天使イメージになるじゃないか。


「まーまー、そのレナちんに ”真っ黒な顔で研修に行く馬鹿がどこにいますか” って怒られちゃって」

「ごく常識的な天使もいるようで何よりだ」


 俺の中でレナちんは “トイレに行ってた常識的な天使” にランクアップした。そんなことを話しながら、焼きもろこし風の何かを食べつつ歩く。エリエルも食事可能とのことなので少し分けてやった。


 家事道具の店も教会への道のりで見つけてあったので、ホウキにチリトリ、雑巾とバケツを購入。洗剤はバルバラが改良した、泡が出るものを分けてもらっているから大丈夫だ。


「家事スキーってホントだったんだね」

「誰のせいだ、誰の」

「えーっ!?でもほら、そのおかげで美形で家事が得意って、ちょっとイケメンぽいよ?きっとモテモテだね!」

「お、ま、え、が、言うなー!!!」

「いひゃい、いひゃいから!もろこし出るから!」


 くそ、顔小さいから頬っぺたも引っ張りにくいな。ちなみに ”オン” で ”周りから見えない” 状態のエリエルに、フードを目深にかぶった俺だ。周囲からどう見えているかは分からないが、独り言を言いながら怪しい挙動をしているように思われていないことを祈りたい。


 わぁわぁと騒ぎながら、冒険者ギルドに到着。今日は依頼の様子を見て、簡単なものがあれば受けたいが、どうだろう。


 受付で話を聞きたいので、フードは外してギルドの中に入る。転生者もいるかもしれないが、多少のリスクは仕方ない。


 ギルドの中は閑散としているが、数人の冒険者が掲示板や飲食スペースにいる。悪いことをしているわけでもないのに、ドキドキする。できるだけ他人と目を合わせないように、受付へ。


「すみません、話を聞きたいのですが」

「はい、どのようなご用件でしょうか」

「このエンの街周辺ではどのような依頼が多いのですか?あと、よく出没する魔物の情報なども知りたいのですが」


「承知しました。まず依頼ですが、周辺の農場、牧場とのやり取りがあるので、配達依頼が多いですね。次に森での採取、最後に魔物の討伐です。魔物は緊急で指定された期限付きの依頼よりは、常時ある討伐依頼の方が多いです。これは街周辺および農場、牧場区域の安全確保。いわゆる ”間引き” です。ただし常時依頼も先にギルドで受注しておかないと、冒険者カードには記録されません。よく現れるのはゴブリン、次に農作物を狙うワイルドボア、稀にグレートディアが見つかります。グレートディアは、この辺りでは強敵になりますからご注意ください」


 担当の受付嬢は真面目そうなお姉さんだった。必要な情報を的確に教えてくれる感じ。ワイルドボアはイノシシに似た魔物、グレートディアは鹿に似た魔物。この世界では牛や馬といった通常の動物もいるし、それらが変異したかのような魔物もいる。動物の方のイノシシやシカも、ちゃんと別に存在するのだ。


「グレートディアはレベルどれくらいの人なら倒せるのですか?」

「ソロなら10は欲しいですね。3人パーティなら8くらいでしょうか」


 いざとなったら杖に頼るけど、適正レベルは気にかけておきたいし、危なさそうならちゃんと逃げよう。転生者は死に戻りができるらしいけど何となく怖いし、できるだけ死なないようにしたい。


「ちょっといいかな?」


 礼を言って受付を離れようとしたら、見知らぬ男に声をかけられて緊張が走る。マズイことになったかな?ただの絡まれイベントとかならいいんだけど。

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