セックスフレンド

三郎

プロローグ

 クリスマスイブ。恋人同士が行き交う街を、スマホをいじりながら一人寂しく歩く。キリストが誕生したという聖夜は、現代は恋人同士の特別な日とされて、だなんて揶揄されることも。

 スマホには数人のから会いたいというメッセージが届いている。別に暇だから会ってあげても良いのだけど、今日は恋人同士の特別な日だ。特別扱いしたくて会いたいというならお断りだ。私はそういうのは求めていない。そう、全員に同じ返事を送り、スマホをしまおうとすると、チロンとメッセージが届く音がした。私に会いたがっていた友人の一人からだ。


「……はぁ」


 その熱意のこもった文面を見て思わずため息を吐く。彼曰く、本気であたしを愛しているらしい。結婚したいほどらしい。残念だが、あたしに結婚願望はない。一人の人間を死ぬまで、あるいは契約を解除するまで愛し続けなければいけない契約なんて、重苦しくて耐えられない。あたしは人が好きだ。その好きという感情の矛先を一人に絞ることが出来ない。結婚には向いていないことは自覚している。あたしは一人の人間だけを愛せない。だから『俺だけを愛して』と言われることに耐えられない。そう言われた瞬間、その人に対する熱は冷めてしまう。

『ごめんね。今まで楽しかったよ。ありがとう。さようなら』

 あっさりとした別れのメッセージを送って、ブロックする。画面の向こうでキレ散らかしている、あるいは泣きじゃくっている彼を想像して、再びため息を漏らす。

 だけどあたしは、最初からそう伝えている。あたしの恋は一方通行でしか成立しないと。それなのに、話が通じない人が多すぎる。強がりなんかじゃない。別に愛されることにトラウマがあるわけでもない。ただただ『自分一人を愛してほしい』という想いに応えられるほど器用ではないだけだ。

 それを理解してくれた人は、今のところ二人しかいない。一人は恋を知らないという九つ下の男の子。最近になって、自分はアロマンティックという性質の人間だと友人に教えてもらったらしい。他者に対して恋心を抱かない人の総称だそうだ。

 そしてあたしも、リスロマンティックという性質の人間らしい。他者に対して恋心を抱くことはあるが、相手から恋心を向けられることは望まないという人らしい。まさに自分はそれだった。そんな言葉があるということは、あたしのような人は世界中を探せばいるということだ。今のところ会ったことはないが、いつか出会えたら話をしてみたい。

 そして、もう一人の理解者というのが——


「りんりん」


 声をかけると振り返り、「うわ」とあからさまに嫌そうな顔をした彼女。

 彼女の名前は加藤かとう鈴歌りんか。彼女とは高校の同級生で、付き合いはもう十年になる。

 仲良くなったきっかけは確か……

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