09話.[納得できません]

「納得できません」


 藍ちゃんのお部屋でごろごろとしていたら急にそんなことを言われてしまった。

 なにがと聞こうとする前に覆いかぶさってくる彼女。


「どうして藤村さんを選んだんですか?」

「……それは好きになったから、かな」


 そんな当たり前だろ、としか言えないことしか返せなかった。

 だって一緒にいたいって思っちゃったんだもん、自分に正直になっただけだ。


「私じゃ駄目なんですか?」

「だめだよ」


 だめじゃないとかそういうことを珍しく言わなかった。

 だって私が好きなのは貢君だ、藍ちゃんを好きな気持ちはそれとは違う。


「……ごめんなさい」

「ううん」


 どいてくれたからちゃんと座っておくことにした。

 いやでも、こうして藍ちゃんと過ごせる時間も私は好きだ。

 この前はっきりと言ってきていたから藍ちゃんからしたら分からないけど。


「でも、その割には藤村さんといませんよね」

「うっ、放課後にいられるときは絶対にいるようにしているけど……」

「藤村さんは多分寂しいと思いますよ、あ、私もそうですけど」


 な、なんでだろう、藍ちゃんの言葉が信じられない。

 それに貢君が寂しいと感じてくれていることは……あるのかなあ?

 私といられないときは彼女といるか、廊下の途中のところで外を見ているかをしている貢君のことだからなんとも思っていないんじゃ……。

 やばいな、あまりに他のことばかりに意識を向けていたら飽きられてしまうかもしれない。

 そうでなくても好きでいてくれているわけではないんだから余計に不安になってしまう。


「ら、藍ちゃんは貢君のことどう思っているの?」

「嫌いではないですね、痛いところを突かれても逆ギレしないところがいいですね」

「確かにそうかも、変えれるようにって動ける子だよね」

「はい、そういう点はいいと思います」


 いまぐらいの状態がいいのかもしれない。

 多分、貢君は「無理するなよ」としか言わないから。

 隠しているというわけではないはずだ。

 まあだからといって他の子ばかりを優先するようなことはしないけど。


「いまから行ってあげてください」

「え、いいよ、今日は藍ちゃんを――」

「甘いですね、積極的にアピールしていかないとあの人は、はぁ……」


 え、なんでそこでため息をつくんだろう……。

 あ、でも、確かになにもかも私からしているだけだ。

 たまには貢君の方から手を繋いだりとかしてほしい……。

 そのためには一緒にいる時間を増やすしか……ないよね?


「ごめん藍ちゃんっ」

「いえ、気をつけてくださいね」

「ありがとう!」


 彼女と過ごす時間も大切なことには変わらない。

 それでもいまは貢君との時間を増やしたかった。

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