放浪の名づけ師と消し去られた町 4
「エマエマたち……、『少女三人』はすでに亡くなっていて、私やシアラの罪業には一切の関わりがない」
「マ行・
さらなる言及があるものと待ち受けるクミたちだったが、しばらく経って続きがないと判ると、幻燈術者に振り返り、確認する。
彼女が返してきたのは、「首振り」――「トジロの発言はウソである」との答えだった。
「……どの部分が虚偽なのかな?」
ニクラは、呆れて
「『関わりがない』のところかと……」
「……ふぅ」
あからさまなため息を吐いてから、ニクラは、トジロに向き直った。
相手は悪びれもせず、無表情を保っている。
「『正偽』の効果は知ってるはずだよね? 君の言葉が真実かどうか、それを見極める魔名術じゃない。君の自意識に『ウソ』を吐いたという認識があるかどうか……。自覚あって『ウソ』を吐いたとき、幻燈術者は、君に青色の光を
「……」
「『
味方ながら、あくどい取引を続けるニクラ。
しかし、彼の
トジロにはまだ、故意に隠す事柄がある――。
レイドログやシアラに繋がる手掛かりをどんなに些細なことでも手に入れ、これ以上の凶事を避けたい一同は、黙って見守るよりほかになかった。
やがて、トジロは観念したのか、深く長い息を吐く。
「話すのは……、エマエマたちと私たちとがどういう関係にあったか、それと、彼女たちの最期までだ。それでいいんだな?」
「内容にもよるね」
「……モモノがいてくれたら、このような屈辱……。いや……。モモノがいたからこそ、か……」
それから、名づけ師トジロは、「少女三人」について語り出した。
*
かつて、第八教区北部、
「あった」と過去の話になるのは、すでにこの町は存在していないためである。今より三十年前、この町に大火があり、このときに住民のほとんどが死亡。建物の損壊も
三十年前のトジロは、この町に「家族」を持っていた。
名づけ師になったばかりの頃、彼は、たまたま訪れたこの町の荒々しい海の景色に魅せられ、
家族ができたとはいえ、彼は名づけ師。
生まれたばかりの愛娘に後ろ髪をひかれつつ、トジロは、この海沿いの町に家族を残し、旅を続けることにした。
もちろん、まったくの離別というわけではない。
名づけ師としての旅の折々、オンジの町に戻れる機会は何度もあった。
それでも、年に一、二回程度である。文通を絶えず交わしてはいたものの、遠く離れるあいだ、残してきた家族をトジロが心配しないわけがなかった。
だが、小さかったエマエマは、父親の心配には及ばず、再会するたびにひとまわりもふたまわりも成長しており、同年代の娘たちとも交流を深めていくようだった。
「少女三人」とは、エマエマとこの友人ふたりのことであり――トジロも町に帰るたび、少女らに手を引かれ、あちこちを連れ回されたりしたものである。
そうこうするうち、エマエマの誕生から十三年のときが経った――「三十年前の大火災」の直前である。
この頃、エマエマを含む「三人娘」といえば、ちょっとした有名人になっていた。
オンジの町は、陸地での農業や狩猟、
そこをいくらか明るくしたのが「三人娘」である。
不景気を嘆く住民に対し、少女らは無邪気なイタズラを仕掛け、笑いを呼び込む。家の稼業の手伝いにも出れないほどに年少の子らは、彼女らが主体となってひとところに集め、遊んだり、読み書きや簡単な魔名術を教えたり、おおいに面倒を見てやる。頼まれれば、憎まれ口のひとつを零しはするものの、住民の仕事を手伝ってやりもしていた――。
少々
そして、「三人娘」が面倒を見ていた子どもらのなか、とある少年もいた。
孤児堂に身を置く赤毛の少年――のちのホ・シアラである。
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