秘密集会の地下室と黒頭巾 1
「……おい、ゲイル。ちゃんと説明してくれ」
相手は顔だけは振り向いたが、目線はキョロキョロと定まらず、気もそぞろな様子である。
「……ああ。どこに
「そうじゃない……。この状況を説明しろと……」
友人の言葉の途中でゲイルは黒い垂れ幕の方に目を向けると、「しっ」と仕草をつけ、明良に沈黙を促す。
「『定刻』だ……」
「『定刻』……?」
明良も前方へと目を遣る。
周囲の人々もささやき合いを
(なんだ……? アイツ……あの格好は……)
その者は頭部すべてをすっぽりと覆うように、黒頭巾を身に着けていた。
白く縁どられたのぞき穴から、鋭い眼光で群集を見渡す黒頭巾。
ひとしきり見渡した後、黒頭巾から「みんな」と声が発せられる。地下にある部屋で、聴衆は息も止めたように静まり返っているため、その低音はよく響く。声音からすると黒頭巾の
「……
事態が掴めない明良と、いくらかのヒトを除いて、室の者たちは
「……
黒頭巾の言葉のあと、周囲がそれを復唱する。
ひとりひとりの声量は小さいものだが、揃えられた言葉の重なりは、室の地面を揺らすかのように響いた。
「
ふたたびの復唱に囲まれながら、明良は辺りを見回す。
(……どういうことだ?)
皆、揃えたように瞑目し、揃えたように「
右手を左胸に当てた格好をし、揃えて「祈り」をあげている。
(これは一体、なんなんだ……?)
似ているが、違う。
一見、魔名教の集会と同じようだが、異なる。
魔名を持たず、地域の魔名教会に所属しているわけでもない明良でも、魔名教集会に参加した経験は少なからずある。大体において、集会の始まりは、今まさに行われているように、進行の者の先導によって祈りが捧げられる。
では、この
違う。
似ているが、「祈りの言葉」の内容がまったく違う――。
「主神――『ン』の名と
「自由と平等を――」
魔名教の「祈り」では、明良が知る限り、「主神」という言葉は出てこない。「自由」と「平等」などという言葉も、聞いたことがない。
進行するヒトにより、場合により、さまざまに言葉は違うが、大抵において「魔名」、「響き」、「
(魔名教じゃ……ないのか……?)
目を
少し距離があるが、自身が黒頭巾に値踏みされたことを、少年は鋭敏に感じ取った。
「……直ってよし」
黒頭巾の言葉により、聴衆は「襟手」の出来損ないを解き、目を開く。
「……毎度のことではあるが、今宵も新たな御子がいるようだね」
予め定めていたかのように、黒頭巾は聴衆の中の特定の者を見つめる目線を送る。
三、四のヒトをその目線でビクリとさせたあと、黒頭巾は明良にもふたたび視線を寄越した。少年は目つきをさらに険しくすることで応える。
「……結構。主神の
「さて」と仕切り直すと、黒頭巾は明良から目を離して、聴衆の全体を見渡すようにする。
「諸君、喜んでくれ。
黒頭巾の言葉に、静まり返っていたはずの群集が色めき立つ。
(烽火……?
「四日後の夜、
続く言葉で、群集のどよめきはさらに勢いづいた。
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