海霧と火球の雨 2
「おっかしぃなぁ……。
帆を上げ、各所に
舟番頭、ル・ゴウラも神妙な顔をしながら美名とクミのところに戻って来た。
「霧がかりの中で船を動かすわけにはいかねぇ。ひとまず、この場に留まって様子を見るからな。美名ちゃんとクロにはワリィが帰りは少し遅くなるかもしれんぞ」
「はい、それは構いませんが……」
(少し、嫌な予感がする……)
美名は無意識に「
「寒いわね……」
ヒゲ毛をピンと張り、シャラシャラと首元を鳴らしながら、小さなクミが震える。
「こんな気温が下がるわけもねぇんだがなぁ……」
その時だった。
ゴウラの
「……危ないッ!」
叫びとともに「嵩ね刀」を
直後、一同の両脇を明滅の光線が横切り、霧の中に消えて行く。
「……なに、なに? 今の、ナニ?!」
「皆、固まって! 襲われてるッ!」
「お、襲われてるぅ?!」
「『
「『焔矢』ぁ……?」
その魔名術の名に、クミは美名と出会ったときのことを思い出す。
自身を捕まえようとしてきた悪漢の中に「カ行動力」の魔名術者がいたのだ。
寒さのためか、その記憶を思い出したためか、クミの身体はもうひとつ、身震いをする。
「
「……来たわ! 伏せてて!」
事態の急転を未だうまく呑み込めず、美名の言う通りに身を寄せ、腰を落とす一同。
そんな一同に向け、
その射線は船を取り巻くあらゆる方向から。
その数は瞬きする間に
「嵩ね刀ァッ!」
そんな火球の集中を、美名は「嵩ね刀」を振るって撃ち落としていく。
クミは友人のその
「美名ぁッ! ダイジョブ?!」
「……『焔矢』が! 重い!」
「……重い?」
首を傾げたクミに、禿頭の舟番頭が「
「同じ魔名術でも、熟達に伴って、段が上がるにつれて、威力や効果が上がる。美名ちゃんがこれまでに相手にした『動力』術者がどの段かは知らねぇが、少なくとも、それよりは上の段の魔名術者が襲ってきてやがるんだ……」
「そ、そんな……」
クミは想い起す。
悪漢の「動力使い」は「キ」――「カ行の
(……今、私たちを襲ってきてるのは、『ク』以上の魔名術者?)
「だぁっ!」
銀髪の少女は呼吸を荒く、肩を上下させている。
「美名……。お、終わったの……?」
「判らない……。霧のせいか、術者がどこにいるか、まだ近くにいるのか、判らない……」
「まさか……この霧も……魔名術?」
クミが思い至ったのと、くぐもったような打ち鳴らしの音が聴こえてきたのは、同時だった。
音の正体はどうやら、
「素晴らしい動きです」
続けて、これもまたくぐもった低い声。
美名を褒めながらも、その言葉が淡々としていることにクミは不気味さを覚える。
「『
不気味な声が襲撃の目的を告げるや否や、次の瞬間には霧の囲みの中に数十に及ぼうかという炎の色が灯った。
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