赤ずきんちゃん
ちい。
第1話
「はぁはぁはぁ……」
狭く曲がりくねった路地。
大切に何か大きな物を抱え逃げている少女のその後ろから、圧倒的な数で押し寄せてくるトランプ兵士達。少女へと口々に罵声を浴びせている。
少女は開けた場所へとたどり着いた。
そこは四方を建物で囲まれた袋小路。
行き止まりである。
しかし、普通なら絶体絶命のピンチなのであろうそんな場面においても、少女の顔には余裕を感じさせる笑みを浮かべている。
「良いねぇ、筋書き通りじゃん?」
くるりとトランプ兵士達の方へと振り返った少女は漆黒のH&K MG4をしっかりと抱え込むようにして構えていた。
先程から大切に抱えていたのは、この機関銃であったのだ。
「さあ、ド派手にいこうじゃないの?」
大きな掃射音が空気を震わせる。
飛び散る薬莢。
火を吹く銃口。
辺りへと広がる硝煙と血の臭い。
ケタケタと少女の甲高い笑い声と、トランプ兵士達の怒号と悲鳴が静かだった田舎町に響き渡り、将棋倒しの様に倒れていくトランプ兵士達。
「トランプなのに将棋倒しっておかしくね?笑えるんですけど」
笑いながら銃を発砲している少女の様子を側で心配そうに見つめる小さな女の子がいた。
大きな筒を背負っている女の子。
くるりと癖のある濃い銀色の髪の毛にややつり目の大きな瞳。ひくひく動いている可愛らしい鼻。そして、その頭には犬の様な獣の耳が生え、お尻には怯えているのか、髪の毛と同じ色をした尻尾が太股の間に挟まっている。
「赤ずきんちゃぁん……」
小さな震えた声で機関銃を撃ち続ける少女、赤ずきんちゃんへと声を掛ける。
赤ずきんちゃんはちらりとその女の子へと視線をやるが、ふふんっと鼻で笑うとまた前を向いた。
「ぼさっと立ってんなよ、狼ちゃん‼ お前も、得意のあれで援護してくれよ?」
「はぁい……」
狼ちゃんと呼ばれた女の子は、よいしょっと掛け声を掛けると背負っていた大きな筒にロケット弾をセットすると、肩に担ぎトランプ兵士達へと照準を合わせ引き金を引いた。
大きな音と共に、後方へと燃焼ガスが噴射される。
爆発音が辺りの空気をビリビリと振動させる。それと同時に数人のトランプ兵士達が宙に舞う。そして、また弾頭をセットし続けて撃つ狼ちゃん。
「かぁっ‼ 相変わらず盛大だなぁ、狼ちゃんのM3E1♥」
「余所見しないで、赤ずきんちゃん……」
赤ずきんちゃんと狼ちゃんの猛攻に手も足も出ないトランプ兵士達が、ジリジリと後退していく。
剣&槍VS機関銃&カールグスタフ無反動砲。勝ち目が無いことは最初から分かっていた。
しかし、まさかこんな少女達がその様な武器を携帯しているなど誰が思うのか?
なすすべもなく撤退を余儀なくされたトランプ兵士達が、一人、また一人と逃げ出して行く。
そして、赤ずきんちゃん達の目の前には撃ち殺され、吹き飛ばされてしまったトランプ兵士達の死体のみが残されていた。
よいしょよいしょとM3E1を片付ける狼ちゃんに、赤ずきんちゃんがとんとんと肩を叩く。赤ずきんちゃんの方へと振り返る狼ちゃん。
「片付けるには、まだ早いみたいだ。見てみろ?」
赤ずきんちゃんが指差す方へと視線を向けた狼ちゃんの視界に、ド派手な服を着たお世辞にも趣味の良いとは言えないおじさんが立っていた。
そのおじさんはぎりぎりと歯をくいしばりながら、湯気の立ち上りそうな程に顔を真っ赤にし怒りに満ちた表情で二人を睨んでいる。
「狼ちゃんの知り合い?」
「嫌だぁ、赤ずきんちゃん。あんな変な格好のおじさんの知り合いなんていませんよぉ」
赤ずきんちゃんの質問に、けらけらと笑い答える狼ちゃん。
そんな二人の様子に全身をわなわなと震わせているおじさんが、とうとう堪えきれなくなったのか大声で怒鳴った。
「ワシはトランプ兵士達を指揮する白ウサギやでぇ‼」
おじさんはそう言うとシルクハットを退かし、頭の上に生えている二本の長い耳を二人に見せた。白くて長い耳である。
おじさんの長い耳を見てにたりと笑う赤ずきんちゃん。
そして、白ウサギのおじさんを指差し、狼ちゃんへとこう言った。
「狼ちゃんの大好物のウサギだぞ?運動後は腹が減っただろうから思う存分食べてきたらどうだ?」
じゅるり……可愛らしい狼ちゃんの口許から涎が垂れる。赤ずきんちゃんと同じ様ににたりと笑う狼ちゃんの口の中に、太くて立派な牙が見えた。
「……ちょい待ち、ちょい待ち。おかしいやろ?な?ここはどかーんと銃撃戦なりおっ始めるところやで?確かに、おっちゃんなウサギや。せやかてな、仔ウサギと違うてな、年寄りで肉も固うなってまずいんやで?喰ったところで後悔しかせぇへんと思うなぁ……」
だらだらと汗が滝の様に吹き出す白ウサギ。
そんな白ウサギの様子など構わずに舌舐めずりをしながらにじり寄る狼ちゃん。
それを楽しそうに眺めていた赤ずきんちゃんは急に真顔になると、腰のホルダーからM45A1を抜き発砲し、白ウサギの眉間に銃弾を命中させた。
西瓜が破裂したように弾け飛ぶ後頭部、辺りへとその肉片を撒き散らす。
「……赤ずきんちゃん、酷いよぉ」
「後で新鮮で柔らかい肉を買ってやるからさ」
涙目で睨む狼ちゃんを宥めるように頭を撫でる赤ずきんちゃんは、がさごそと白ウサギの懐を探りだした。
そして、一枚の封書を見つけると、にやっとした笑みを浮かべ狼ちゃんをみた。
「あったぞ。お茶会への案内状だ」
そう言うと、封書を開き中を読み始める赤ずきんちゃん。それを覗きこむ様にして一緒に読む狼ちゃん。
「あらぁ……これは私達二人では厳しいですねぇ……」
「確かになぁ…久し振りにあの二人に応援を頼むかなぁ。少し出費は痛いけどな」
「今回はしょうがないですよ?相手が相手だし」
赤ずきんちゃんは封書を懐にしまいこむと、狼ちゃんを連れて路地を後にした。
二人の去った後すぐに、その路地裏にあったトランプ兵士達と白ウサギの死体がいつの間にか何者かにきれいさっぱりと片付けられてしまった事など、二人は知るよしもなかった。
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