穴の中にいたのは?

「ミーア、あの人達を助けに行くよ。」


「うん。」


穴の直径は20mくらいか。その中に20名程の人間が横たわっている。


穴の真ん中辺りには今にも消えそうな青白い文様。上に人が被さっているので見えにくいが、恐らく転移の魔方陣っぽい。


元々ここに魔方陣があって落雷の衝撃で起動してしまったのか?


たまたまどこかで行われた転移が落雷によりここに引き付けられたのか?


日本の山中であることを考えると前者はほぼあり得ないと思うので、落雷により本来の転移されるべき場所ではないここに間違って転移させられてしまったのだろう。


転移してきた人達をパッと見る限り老若男女問わず揃っている。


皆一様に痩せ細っているのが痛々しい。


「ゴーレム生成!みんなを家に運んで!」


ゴーレムを人数分生成し、家にまで運ぶように指示する。


幼い子供の中には息も絶え絶えな子もいる。


「とりあえず回復をさせなきゃ。たしかまだ昔作ったのが収納に残っているはず。」


エレクトス時代に作成して収納に入れっぱなしだった回復薬を取り出し、幼女の口に含ませる。


少しづつ咽ない様に口に含ませていくと徐々に効果が表れてきて、何とか息使いも落ち着いてきたようだ。


「そうだ、ヒロシー、ベットの準備ができてないよー。」


「そうか、ベットの準備もしなきゃね。」


急いでゴーレム達よりも先に家に戻り、ゴーレム生成の要領でベッドを作成。


一番先に着いたゴーレムが抱いている女性を寝かせる。


連れてきたゴーレムはベッドに変化させ、次のゴーレムが抱えている男の子を寝かせる。


これを繰り返し最後の幼女を寝かせたところで、全員の口に回復薬を含ませた。


「この衰弱具合だと、きっと栄養を取れていないんだろうな。とりあえず栄養のあるものを用意しよう。


ミーアみんなをお願いね。」


「わかったよー。気が付いたら回復薬を飲ませていくねー。」



「さて、何を作るかなあ。いきなり重いものもなんだし、とりあえず栄養があって胃にやさしいものといえば...」


キッチンに向かいお粥を作る。米と塩だけのシンプルなヤツだ。人数が多いので鍋を2つ用意し、1つは普通のもの、もう1つには少し水気の多いもの。


衰弱の状態によって食べ分けてもらえばいいだろう。


「ヒロシー。気が付いた人達が何人かいるよー。あー、お粥を作っていたんだねー。

畑から三つ葉を取ってくるねー。」


「ミーア頼んだよ。」


部屋に戻ると最初に運んだ女性と比較的体力が残っていそうだった男性が目を覚ましていた。


女性は大きく首を左右に振り、必死に何かを探しているようだ。


男性の方はじっと俺を睨みつけ警戒感を露わにしている。


「お2人共大丈夫ですよ。ここは日本という国で、俺はヒロシって言います。

どうも皆さんは、誤ってこちらに転移されてきたようですね。」


女性は必死に声を出そうとしているが声を出せないようだ。


2人共、立とうとしても身体が弛緩していて上手く動けないようだし。


俺は女性に近づき喉の辺りを観察する。


「やっぱり。」


声帯が切り裂かれている。このせいで声が出せなくなっているのだ。


「これを飲んで下さい。回復薬です。」


手渡された回復薬を恐る恐る口に含む女性。どうやら言葉は通じているみたいでひと安心だ。


やがて女性の切り取られた声帯が回復していき声が戻る。


「ピーーターっ!ピーーターーっ!」


女性の呼び掛けに少し離れたところにいる幼児が反応した。


こちらも顔だけを女性の方に向け涙を流している。もちろん声は出せないから喉から血が出るのではないかと思われるほどヒューヒューという悲痛な音が聞こえている。


「お子さんですね。こちらに連れてきますね。」


「あ、あり、が、トウ、ゴザイマス。」


幼児を慎重に抱きかかえ母親の元へ連れていくと、俺の手から子供を奪い取るように持って行った。


「ピーーターー。よかった、よかったね~。」


泣きながら子供にしがみ付き子供の加減を窺がう女性。


その子にも回復薬を与えると声が戻ってきて、しばらく泣きじゃくっていたが母親の腕の中にいることに安心したのか、やがて安らかに眠りについたようだ。


「ミーア、みんなに回復薬を飲ませてあげて。一気に口に入れると吐き出してしまうかも知れないからゆっくりね。」


人数分の回復薬を収納から出してミーアに渡すと「わかったよー」とミーアが回復薬を配り出した。


やがてあちこちから嗚咽交じりの喜びの声が聞こえだした。


安心しきって眠りについた子供を見て、女性は安らかな顔を見せる。


「あ、あり、が、トウ、ゴザイマス。なんとオレイを言えばヨイカ。」


「いいんですよ。他の方も皆さんご存じの方達ですか?」


いつの間にか威嚇するような眼差しから安堵の表情に変わっている男性と2人を見比べながら質問する。


「えぇ、同じ村の住人デス。突然村が隣国の兵士達に襲われなすすべもなく捕らえられた私達は隣国の奴隷収容所に連行されマシタ。


数日間、満足な食事も与えられず衰弱した私達をどこかに奴隷として転送しようと思っていたのデショウ。


私達は全員魔方陣に乗せらたところで、魔方陣が起動したのデス。」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る