時間にきっちりした性欲強めの彼氏のかわし方。
小糸味醂
本編
「シオリ先輩!俺、先輩とセックスがしたいです!」
「うん、それはまだちょっと早いんじゃないかなぁ?」
後輩のカズトくんから告白され、お付き合いを始めたのがつい30秒ほど前。
っていきなりエッチかよ!?
気が早いな、おい!
「でも恋人同士だしセックスは義務でしょう」
「私はそんな義務感でエッチしたいだなんて思わないよっ!?」
だいたいこういうのって普通段階を重ねてある程度お互いの事を知り尽くしてからするもんじゃないの!?
いや、全く興味がないって言ったら噓になるけどもっ!
「おかしいな。昨日読んだ雑誌では、恋人同士で気持ちの良いセックスをしましょうって書いてあったのに……」
「って、カズトくんっ!?いったいどんな雑誌を読んでるの!?逆に興味が湧いてくるんだけどっ!」
本当、とんでもない内容の雑誌もあったもんだよ。
こうなったらこれからのお付き合いの為にも、彼にはちゃんとした性教育を施さないと……。
「えっとね、カズトくん。そういうのはまず段階を踏んでから進めるものなの!だいたい告白されてまだ1分も経ってないのにさ」
「ふむふむ。では先輩。まずはどんな段階が必要なんでしょうか?」
え?そ、それを聞いちゃう?
わ、私も男の子とのお付き合いなんて初めてだから、わかんないよ……。
あ、でも、まずは……。
「うん、まずはデート!デートからしようよ、カズトくん!」
そう、せっかく彼氏彼女になったんだから、最初はデートだよね。
付き合っていきなりエッチだなんて、そんな爛れた関係、高校生の私達にはまだ早い。
いや、そんな爛れた関係には未来永劫なりたくない。
「はい。デートですね。じゃあ先輩。今からデートをしましょう。俺についてきてください」
「あ、う、うん」
こうして流されるまま、私はカズトくんと放課後デートにしゃれ込む事になったのだった。
「って事で、先輩。セックスしましょう!」
「いやいや、そりゃ段階は踏めって言ったよ?言ったけど、デート即エッチとは言ってないっ!」
街中のカフェで出されたカフェラテを一気飲みし、カズトくんはギラギラした目を私に向ける。
だいたい私のミルクティーは全部飲めてないし!
って言うか、まだ入店して5分しか経ってないんだよ?
話が早すぎるだろう!
「じゃあ、先輩。そろそろ次の段階に進みましょう!」
「お、オーケー!取り敢えず、ミルクティーを飲み終わるまで次の段階は待ってくれる?」
「はい、俺、あと1分程なら待ちます!」
って待ち時間短いな、おい!
「って、私が1分で飲み切れなかったらどうするつもり?」
「あ、その場合、強制的にセックスが始まっちゃいます!」
って無理やりかよっ!?
「あのさ、このミルクティー、まだホカホカだから、せめて2分くれないかな?」
「しょうがないですね」
貞操の危機を感じた私は猫舌なのに頑張って2分以内にミルクティーを飲み干す。
って言うか、ここのカフェのミルクティーって美味しくて有名なのに、焦りからか全く味わえなかった。
しょうがない。
また今度、時間的に余裕のある時にこの店に1人で訪れて、今度はしっかり味わおう。
いや、それよりもだ。
「さあ、先輩!次の段階は何でしょうか!?」
「え、えっと……手をつないで歩く……かな?」
そりゃ私も夢見る乙女。
彼氏と手つなぎデートをするってのは、ある意味夢だったりする。
「はい、じゃあ先輩!早速ここを出て歩きましょう!」
「あ、う、うん!」
こうして私達は精算するのももどかしく、そのお洒落なカフェを出たのだった。
「では、先輩。手を繋ぎましょう!」
いきなり差し出される彼の左手。
私はそんな彼の手を、恐る恐る掴む。
あ、案外温かい。
それに触り心地も……。
「はい、先輩!三歩程歩きましたね!さあ、セックスしましょう!」
「って
「いや、だから三歩……」
「いやいや、そんなシャレ言ってもダメ!」
いや、なんでそこでしょぼん顔をするのよ?
「じゃあ先輩。あと何歩必要なんですか?」
「そ、そうね。取り敢えず、公園を歩くぐらいだとして……」
私が昔よく遊んだ団地内の遊具置き場。
確かみんなはあそこを公園って呼んでたから……。
「うん、10歩ぐらいかなっ!?」
「あ、はい。4、5、6、7、8、9、10!さあ、セックスしましょう!」
しまった!
せめて公園だったら日本一大きな木曽三川公園を想定したらよかった!
あそこなら1日では済まない距離だったのに……!
「ちょ……ちょっと待って!まだまだ段階が足りない!つ、次はね……そ、そう、キス!キスをしなきゃ次の段階には………………!!」
私がまだ話している最中にいきなり唇が塞がれる。
え……ちょ……し、しかも舌が私の口に入ってきてるんですけど!!
って何、これ……初めてのキスだったけど……なんだかすごく気持ちいい……。
長い長いキスを終え、私達は口を離す。
「な、何なわけ?もしかして、キス、すごく慣れてない?」
「いえ、初めてです。ただ雑誌にキスのしかたが載ってたもので……」
ってだから何よ!?その雑誌!
めっちゃ興味そそられるんですけど!
「さあ、先輩。それではセックスしましょう!」
くっ……これはさすがにもう詰みか!?
いや、カズトくんの事は大好きだけど……だけど……!
「ご、ゴムっ……!」
「はい!コンドームなら持ってます!薄くて破れない、しかも長持ちするように0.03mmを一箱!これも雑誌に載ってました!」
って用意いいな!
しかもその雑誌、案外まともな事も書いてあるじゃん!
でも……でも……!
「ば、場所は……?」
「はい、すぐそこに!」
ってなんでそんなおあつらえ向きにラブホがあるのよ!?
「しょ、しょうがないわね……じゃ、じゃあ、私のバージン、カズトくんにあげるわよ……」
「あ、あざぁっす!」
って、カズトくん、喜びすぎ……。
でも……私とエッチする為にそこまで情熱を燃やしてくれるなんて、それはそれで悪い気がしない。
「って事で、行くわよ?」
「はい。よろしくお願いします!」
こうしてすごく緊張しつつも、私はカズトくんとともにラブホに並んで入ろうとする。
ピリリリ♪
いきなり鳴り響くアラーム音。
い、いったい何?この音。
「……先輩。残念です。門限になってしまいました……」
「へ?門限」
「俺の家、門限が厳しくて、1秒でも遅れたら、30分ずつ門限が前倒しになるシステムなんです!では先輩。明日。明日は必ずセックスしましょう!さようなら!」
そう言ってカズトくんは風のように去っていったのだった。
翌日。
「門限が30分短くなりました……」
「あ、間に合わなかったんだ」
悔しそうにするカズトくん。
それはそれはすごく悔しかったのだろう。
彼の握る拳は、今にも血が噴き出すのではないかと思えるほどに強く握られている。
「で、でも先輩!今日こそは!今日こそはセックスしましょう!」
おおっと、そうきたか……。
だったら……!
「うん、じゃあまたデートからだね!」
結局私とカズトくんはそのままカフェデートと手つなぎとキスを毎日繰り返しつつ、体が結ばれたのはそれから9年後。
結婚初夜までお預けになったのだった。
おしまい♪
時間にきっちりした性欲強めの彼氏のかわし方。 小糸味醂 @koito-mirin
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