第94話 ダンと伯爵令嬢 その3
ダンが突き出した左手によって、一斉に襲い掛かろうとしていた男達のタイミングが強制的にずらされた。
動き出しの出鼻を挫かれた男達はちぐはぐとなってしまい、連携が上手く取れない状況へと変わる。
その間にダンは余裕を持って態勢を整えた後、自ら進んで男達に向かって一歩を踏み出した。
残る三人の内、前にいた二人が再びダンへと襲い掛かる。
ダンは最初に攻撃を仕掛けてくる男の懐に潜り込み、そのまま体を移動させながら男の足に自分の足を引っかけて豪快に転ばせた。
「よっと!」
「がはっ」
転んだ男は固い地面へと豪快にダイブを決める。
顔から突っ込んだ為、鼻からは大量の血が流れだしていた。
転がされた男の鼻の骨は折れてしまったみたいで、血が止まらない鼻を両手で抑えたまま、激痛に身もだえている。
この結果、二人目が早々に脱落する事となる。
続く三人目の男は腰からナイフを取り出して刃をチラつかせ始めた。
刃物を見た周囲からは悲鳴に満ちた声が聞こえてくる。
「なぁ…… 喧嘩に刃物を使っていいのかよ?」
しかしダンはナイフに怯える様子もなく、軽口をたたいていた。
「うるせぇぇぇんだよ。よくも仲間を痛めつけてくれたな。ここまで恥をかかされたら俺達も後には引けねぇんだよ。お前も生きて帰れると思うな!!」
そう啖呵を切ると、男はダンを逃がさない様にジリジリと間合いを詰め始めた。
「んじゃ、こっちも武器を使っても良いって事だよな?」
ダンはそう言うと左手を腰に回して、ベルトに取り付けていた物をつかみ取る。
ダンの左手には一つの武器が握られている。
その武器はラベルから渡されていた物だ。
各自の役割が決まった時、ラベルはダンを呼び寄せこの武器を託していた。
「この武器はお前に合うと思って用意していた物だ。一度使ってみてくれ」
「武器!? ラベルさん、何だよこの変な形の武器は?」
ラベルから渡された武器の形は異様と言うしかなかった。
職人の手によって加工された木の棒と呼べばいいのだろうか?
一本の棒の先端が二股に分かれており、その二股部分が繋がる様に紐がつけられている。
「これはな、スリングショットって呼ばれている武器なんだ。一般的には猟師が鳥などの小動物を狩る時に使ったりする武器で、伸縮する糸を引っ張って球を前方に飛ばすんだが、弓よりも小さいから取り回しも容易な上、素早く球を放つ事が出来る。それに使用する弾は地面に落ちている石で代用できるから弾代が掛からない」
「へぇ~」
話を聴いてみたが、中々使い勝手が良さそうな武器だとダンは感じた。
「試しに一度使ってみてくれ。アーチャーのお前なら簡単に使いこなせる筈だ。拾った石などをこの部分で挟んだ後、紐を引っ張って狙いを定める。そして指を放せば狙い通りに弾が飛んでいくって寸法だ」
ラベルは手本を兼ねて実演してみると、引っ張った紐が勢いよく戻って石を前方へと弾き飛ばす。
原理は弓と同じなので、ダンもすぐに使い方を感覚で理解していた。
「なるほど、原理は弓と同じって事でいいんだ」
「理解が早いな。その通りだ」
「ラベルさん、俺にも一度使わせてくれよ」
ダンはラベルからスリングショットを受け取ると、地面に転がっている石を拾いあげ、紐の中央部分にある布でつかみ取り、紐を思いっきり引っ張ってみた。
ダンが使っている弓よりもテンションは緩いが、思いっきり引っ張ってみると結構な力が掛かっている事がわかった。
ラベルの説明によると、この伸縮する紐には魔力が込められており、伸縮の力も後で調整できるとの事だ。
そのまま狙いをすませ、指をはなしてみると放たれた石はダンの狙い通りの場所へと飛んで行く。
「中々いいじゃん。弾が石だから魔物には効かないかもしれないけど、小さいから持ち運びにも困らないし、弾が石で何処でも手に入る上に連射が効くからこっちの方が人間や動物相手にはいいかもしれない」
「そうだろ? このスリングショットはお前に適した武器だと思う。後は自分で工夫して使いこなしてくれ」
そうやって渡された新兵器をすぐに使う事になるとはダンも予想すらしていなかった。
事前にポケットに忍ばせていた小石を掴むとスリングショットの紐を引っ張って、一瞬で狙いを定めた。
「一歩でも動いたら打つからな。大人しくしろ」
「ああん? なんだそれは? まさかそんな木の棒で俺に勝てるって思っているんじゃないよな?」
ダンの持つ武器の事を男は知らなかった。
ダンもラベルに教えて貰うまで見た事もなかったので、男がスリングショットを見ても余裕の笑みを浮かべている理由も理解できる。
「ふん、なら試してみるか?」
ダンは得意げにそう言うと、男に対して躊躇なく球を放つ。
弾は真っ直ぐに飛んでいくと、男のがナイフを持っている手にヒットしていた。
「ぎやぁぁぁあ」
男の手の甲に高速で飛ぶ石が当たり、余りの痛みで男はその場でナイフを落としていた。
ダンは男が落としたナイフを蹴り飛ばすと、男に対して超至近距離からスリングショットを構えた。
「もう一発食らっとくか?」
「ひぃぃぃっ」
男はスリングショットの威力をその身で体験したばかりだ。
こんな至近距離から頭でも打ち抜かれたら死ぬかもしれないと悟り、痛めた手を庇いながら、目を閉じ震えだした。
「糞がぁぁぁ! こうなりゃ人質を取ってでも!!」
四人組の最後の一人は勝機はないと悟り、せめてもの抵抗とばかりにミシェルに襲い掛かる。
どうやら人質を取って戦況を覆すつもりのようだった。
「させるか!!」
ダンはその場でスリングショットを構えると、一瞬で狙いを定めて背を向け、ミシェルに襲い掛かろうとしている男に対して球を発射する。
しかしダンの球が当たると同時にミシェルの前にはメイドのメアリーが立ちふさがり、男の顔面に渾身のストレートパンチを放っていた。
「ぐげっ!!」
情けない声を上げながら、ミシェルに手をかけようとした男は地面に崩れ去っていく。
「高貴なお嬢様に手をかけようとするとは…… このまま死になさい、この無法者が!!」
メアリーは捨て台詞を吐きながら自身の衣服についた埃をパタパタと叩き落としていた。
「メアリーさん。もしかして強い人だったのかよ?」
男を一撃で殴り倒したメアリーの動きを見てダンが驚愕な声を上げた。
「ふふん、当然じゃない。メアリーは私の専属メイドなのよ。この位は楽勝よ」
なぜかミシェルが勝ち誇った表情を浮かべた。
「ダンさん、貴方はお嬢様がいるのに飛び道具を放つとはどういう事ですか!! もしお嬢様に当たったらどう責任を取るつもりなんですか!?」
メアリーはそう言いながらダンを睨みつける。
「いや、だって走って追いかけたら間に合わないし、的が大きい背中を狙ったから外さねぇぇって!」
ダンは表情を一切に変えずに、メアリーの突き刺す視線を軽々と避けていた。
そしていつもの飄々とした調子を崩していない。
「はぁ…… その自信はどこから来るのでしょう…… とにかく護衛としてあるまじき行為です! 以後気を付けてください」
怒りの向けどころを失ったメアリーはため息を吐きながら、話を終わらせた。
「メアリーさんが強いってミシェル様は知っていたんだよな?」
「当然じゃない。そうじゃなかったら大人の男に殴りかかられている状態で、平然としてられないわよ」
腰に両手を当てながらミシェルは胸を張る。
ミシェルが大人相手にも動じなかった理由はメアリーがいたからだと判明する。
「でも、今回の事でダンもそこそこ強いって解ったわ。今後はちゃんと護衛しなさいよね。前任だった女の魔法使いは役立たずだったから、弱みを握ってから、毎回部屋に置き去りにしてやったのよ」
ダンはラベルからの情報でミシェル令嬢が猫を被っているという情報が間違ってないと確信した。
「とんだお転婆お嬢様だ。こりゃ兄弟たちよりも手がかかりそうだな……」
ダンのつぶやきはその後、現実へと変わっていく事となる。
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