第84話 魔法石の採掘へ
翌朝アリスと合流した後、アリスが先導する形で俺達はアリスの祖父の家に向けて歩き出した。
目的の家には此処からだとまだ少し距離があり、のんびり歩いたら一時間程度で到着するとの事だ。
向かった先は街の東側、街の端に近づくにつれて周囲は住宅街に変わって来ていた。
その住宅街の一角に高い塀に囲まれた大きな敷地が目に入って来る。
塀に近づくと家が何軒も入る位の広さがある敷地だと理解ができた。
敷地の目の前に到着すると敷地の中には二軒の家が建てられている。
最初目に付くのは外装が綺麗で大きな建物が訪問者を出迎える様に立っていた。
その建物のドアの前には目立つように看板が取り付けられている。
残る建物は綺麗な建物から隠れる様に立っており、外壁は黒く汚れており綺麗な建物とは呼べない。
屋根には煙突が取り付けられており、煙が立ち上っている。
俺は綺麗な建物の看板に視線を向けた。
看板には【シャルマン工房】と書かれていた。
「ここって!?」
「うん、おじい様はこの街で魔道具店を開いているの。おじい様自身が職人で、お弟子さんも結構いるの。今はおじい様も歳だから、お店はお弟子さんに任せて、毎日ノンビリしているみたい」
「マリーさんやアリスの家名がシャルマンだった時点で気付くべきだったな! まさかあのシャルマン工房が身内だったなんて…… あの天才職人のガリレオ・シャルマンが祖父っておい……」
シャルマン工房は装備品ではなく、魔法石を加工して作る魔法具の専門工房だ。
シャルマン工房で作られる魔法具は高い性能と使い勝手の良さから人気の魔法具店となっている。
その人気はすさまじく、新作を出せばそれがどれだけ高値であろうが一瞬にして売れてしまう。
そしてシャルマン工房を作った男がガリレオ・シャルマンであり、その名声は俺でも聞き及んでいる。
「実はそうなの。えへへ、ラベルさん驚いた?」
アリスはしてやったりと笑っていた。
「そりゃそうだよな、あのマリーさんの父親が普通の人の筈が無い。だけどまさか祖父が天才職人だなんて、お前の家系って一体どうなっているんだよ」
「おじい様が凄いだけで、私もお母様も魔法具を作る才能なんてないから」
そんな事は解っている。俺が言いたいのは、その一族全員が持っている優れた才能の事だ。
アリスの強さも超一流の血を受け継いでいるからなのだろう。
「またヤバい所に連れて来られたもんだ。とにかく早く手紙を渡して終わらせよう」
「ラベルさん、おじい様はいつも工房で何か作っているの。私に付いてきて!」
アリスは慣れた感じで奥へと進んでいくと、ノックもせずにドアを開いて中へと入って行った。
工房の中では数名の職人さんが一心不乱に作業をしていた。
ドアが開いたのに誰も俺達を見ようとしない。
各自が自分の作業に集中している。
その熱気が俺にも伝わって来ていた。
「熱意が凄いな。こういう雰囲気は好きだな」
俺はアリスの後をついて行きながら、キョロキョロと周囲を見渡しながら工房の中を見学していた。
そんな俺とは違って、慣れている様子のアリスは特に視線を移す事もなく、工房の奥へと進んだ。
その途中に若い職人に声をかけ始める。
「こんにちは、おじい様は奥だよね」
「あっ!? アリス様お久しぶりです。はい先生は奥ですよ」
「ありがと。手を止めさせてごめんね」
最奥にはドアがあり、そのドアを開くと白髪を後頭部で一つに束ねている鋭い目をした人物が作業に没頭していた。
「おじい様っ!!」
アリスのその言葉でその人物がガリレオ・シャルマンだという事がわかった。
アリスは元気よく声を出すと、そのガリレオ・シャルマンの元へとかけていく。
ガリレオ・シャルマンもアリスの声に気付き顔をあげた。
「おぉぉ、アリスか!? 元気そうじゃないか? 今日はどうした?」
「実はお母様から手紙を預かっているの」
「そうか、マリーから手紙を…… それで後の男は誰じゃ?」
そう言いながらガリレオ・シャルマンは見定める様に俺を見つめた。
俺とガリレオ・シャルマンの目があった。
このシャルマンの一族はエルフの血でも入っているのだろうか?
マリーさんの父親という事を考えると、最低でも六十歳は軽く越えている筈なのだか、見た目だけなら五十歳と言われても信じられる位に若く見える。
「えっと私一人だと危険だからって、お母様がラベルさんに付き添いをお願いしてくれて……」
アリスの紹介に合わせて俺はガリレオ・シャルマンに向かって頭を下げた。
「ほぅ……」
「それでね。おじい様に伝えたい事があるんだけど、実は私、ラベルさんのギルドでお世話になる事になったんだ」
「それじゃマリーの所から離れたと言う訳だな」
「色々あったんだけど喧嘩別れとかじゃないから、それは安心して」
「お前ももう大人だから、私はお前の意見を尊重するよ」
「ありがとう。おじい様ならそう言ってくれると思っていた。お父様は全然認めてくれなかったけど」
「アリス、頼むからあの単細胞と私を一緒にしないでくれ」
悲痛な表情を浮かべる。
その気持ちは凄く共感が持てる。
一通りの挨拶が終わった後、アリスはしっかりと封がされた手紙をガリレオ・シャルマンへと手渡した。
ガリレオさんは封を開き手紙を取り出すと読み始める。
手紙を読み終えるにはそれ程時間はかからなかった。
「なるほど…… それ程の…… ふむ」
手紙を見つめたままなにやら呟いている。
「よし。今から近くのダンジョンに潜って魔法石の採掘をするぞ。お前達も用意しろ」
突然、そう言い出したのだ。
「おじい様、何を言っているの? 私達と魔法石を取りにダンジョンに潜るって? 今から!?」
「あぁ、そうじゃ。運が良い事に街の近くにはA級ダンジョンがある。昔からこの街の近くに現れるダンジョンで取れる魔石は不思議と上質な物が多い。上質な魔石のごく一部はより純度が高い魔法石となっている場合がある。ワシがこの街に店を建てたのも上質な魔石が手に入りやすいからだからな」
「だけどどうして、今から潜るのよ? 私達も明日には戻らないといけないんだよ」
「誰もダンジョンを攻略するとは言ってないだろ? 上層でちょっとだけ魔石を集めるだけじゃ。S級冒険者のアリスならA級ダンジョンなんて余裕だろ? 採掘はワシがやるからその間を守ってくれればいい」
「もぅ……」
アリスはため息を吐きながら、俺に視線を向けた。
その意図は俺の判断を待っているのだろう。
俺は頷いて了承する。
マリーさんの借りは大きく、その返しが手紙を届けるだけなんて釣り合っていないと思っていた。
なら魔法石の採掘を手伝う位は喜んでやらせて貰いたい。
ガリレオさんは採掘だと言っているが、要は魔物を倒して魔石を手に入れる事だろう。
俺はそう考えた。
「わかったよ。それじゃ私とラベルさんはおじい様の護衛って事でいいの? 弟子の人をダンジョンに行かせた方が良いと思うけど」
「心配するな! ワシはこれでも元はA級冒険者だったんだぞ。A級ダンジョンは数えきれない程潜っているからな」
ガリレオさんは力強くそう言い切り、その場からスッと立ち上がるとそのまま歩き始める。
その後を俺とアリスは追いかけて行く。
手紙を渡しに来ただけの筈が、天才職人に会うわ、そのままダンジョンに潜る事になるわと先が読めない展開が続く。
「何もなければいいけど、これは俺も本気を出した方がいいかもな……」
俺は全力のサポートをする為に気持ちを切り替えた。
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