第75話 ジャイアントベア―の魔石
二十階層を突破した俺達は攻略階層を重ねていく。
二十一階層と二十二階層は巨大な鍾乳洞で、二十三階、二十四階層は変哲もない草原ステージだった。
しかしフロアギミックが無い階層は魔物にだけ注意すればいいので、階層は下がるがそれ程脅威と言う訳でもない。
そして俺達はその後も攻略を進め、今は二十八階層へとたどり着いていた。
十階層までは二日で到着し、二十階層までは六日でたどり着いている。
そして二十八階層には十二日間だ。
この階層にたどり着く間、俺達は他のパーティーと出会っていなかった。
途中で人の気配や離れた場所から放たれる攻撃魔法などは目にする事はあったが、どれも距離があったので会う程ではない。
それだけダンジョンは広大で更に無数の道が存在している証拠だった。
出口にたどり着く道は無数にあり、どの道を進んでも出口には着ける。
ただ選ぶ道によって難易度は大きく違うだけだ。
ルート選びも攻略速度に大きな影響を与える要因の一つであり、リーダーの腕の見せ所でもある。
この階層にたどり着くまでに、俺達はかなりの無茶をしていた。
精鋭揃いの攻略組に出遅れた俺達が追いつく為には、ただマイペースに攻略するのではなく、時には疲労を度外視して、無茶をしなければ追いつけないと判断したからだ。
★ ★ ★
「やっと二十八階層にたどり着いたが、こりゃ冒険者泣かせのステージだな」
「うぁー、凄い綺麗……」
「これは…… 確かに凄いですね。捜索組の連中がこの階層にたどり着いたらきっと踊り狂いまくっていますよ」
二十八階層にたどり着いた俺達の前には光り輝く魔水晶や黒光る鉱石が無数に生えた、煌びやかな世界が広がっていた。
ダンジョンで手に入る魔水晶は魔力を大量に蓄える事が出来るので、高値で取引される人気の鉱石だ。
それにB級ダンジョンで魔水晶は余り取れない。
魔水晶は基本、A級ダンジョンで採掘される鉱石だった。
その魔水晶がB級ダンジョンで簡単に取れる今の状態はまさに宝の山だろう。
「俺は数えきれない程、B級ダンジョンを攻略してきたがこれ程の量の魔水晶が生えているステージは流石に初めてだ」
「はい。私も初めて見ましたよ」
俺とリンドバーグはこの珍しく美しい階層に見入っていた。
「この水晶が高く売れるんだろ? なら一杯とって帰ろうぜ」
「邪魔にならない程度なら採掘してもいいが、俺達は素材を集めに来たんじゃない。ダンジョンを攻略しに来ているんだ。荷物が増えたら重くて戦えないだろ?」
「マスター、もしかして私達より先行している筈の攻略組が未だにダンジョンを攻略出来ていない理由はこの階層が原因なのでは……」
「多分、リンドバーグの予想通りだと思うぞ。この階層で魔水晶を集めているから攻略が止まってしまったんだろう。これは追い抜くチャンスだ」
「なんか勿体ない気もするけどな。攻略した帰り道に取って帰るってのは?」
「ダン、残念だけどダンジョンを攻略後はダンジョンは死んで行くんだ。この水晶もダンジョンマスターを倒したらすぐに力と輝きを失っていくだろう。攻略組が足を止めている理由も、ダンジョンを攻略してしまったらこのお宝を手に入れられないからなんだ」
「ちくしょー。なら諦めるしかないって事かよ」
ダンはわざとらしく地団駄を踏んでみせた。
しかしこの状況はチャンスでもある。
「今回はこの階層のおかげでトップに追いつけたかもしれないんだ。悔しがる前に感謝するべきだな」
「ラベルさん急いだかいがあったね」
「リオンにもこの階層に来るまで無理をさせたが、後もう少しだ一気にダンジョンを攻略するぞ」
俺とリオンはそう言い合うと、ダンジョンの奥へと進んでいった。
★ ★ ★
「ウォォォォォォォォォウォォッ!!」
二十八階層を進み始めて十分位が経過した時、大きな雄たけびを上げながら、二本足で立つ巨大な土の人形が地面から盛り上がって来た。
「全員気を付けろ!! この階層の魔物はゴーレムだ! ゴーレムの身体は土で覆われているので固い。腹部から見えている魔石に直接攻撃を与えない限り倒せないからな」
俺はゴーレムと遭遇した瞬間に相手の特性を全員に伝える。
ゴーレムはB級ダンジョンで現れる魔物の中では最上位クラスである。
A級ダンジョンにも出現する程であった。
倒す方法は腹部に露出している魔石に直接攻撃を与える以外なく、身体の一部を切り落としても直ぐに修復してしまう厄介な魔物である。
剣士なら巨大なゴーレムの懐に入り込まなければ絶対に倒せない。
当然ゴーレムの巨体から繰り出される攻撃は剣で防げるレベルではないので、もし一撃でも喰らえばそれで終わりだ。
遠距離攻撃の場合は、魔法や矢に大量の魔力を込めて攻撃力を高めておかなければ、固い魔石には傷一つ入らない。
連戦が続けば、遠距離職の冒険者はすぐに活動限界に達してしまうだろう。
なのでゴーレム一体に三人で対応するのが安全と言われている。
唯一の救いが、単体や多くても二体位しか現れないということ位だ。
もしゴーレムの群れが現れたなら、レイドでも組まなければ対応は難しい。
「マスター、四人しか居ない我々には分が悪いです。もし連戦になれば人数が少ない分、一人一人の負担が大きくなります。ゴーレムは攻撃力は高いですが、移動速度は遅い。今回は逃げるのが得策でしょう」
「リンドバーク、それは分かっているが…… 少し待ってくれないか? 実は一つだけ試したい事があるんだ」
俺はそう告げると、ジャイアントベアーの魔石を口へ放り込んだ。
ジャイアントベアーは恵まれた巨体と圧倒的な腕力で敵を叩き潰してきた魔物である。
手に入れている数が二つしか無かったので、ここに来るまで試しに使う事ができなかった。
相手が強敵のゴーレムなら、この魔石を試すに最高の相手だ。
「お前の力を俺に見せてくれよ!!」
俺は剣を抜いて構えを取り、魔石の効果が現れるのを待つ。
その後、すぐに俺の身体に変化が起き始める。
まず最初に身体の筋肉が膨張し始めた。
膨張した筋肉が俺の体格を一回り大きくさせたのだ。
音を立てて筋肉の繊維が切れそうになる限界まで膨れ上がった後、皮膚には無数の血管が膨れ上がっていた。
そして大量の血液を身体に送ろうと脈打っているのが感じ取れた。
「うぅぅぅぅうぅぅ!!」
心臓は今まで体験した事が無いほど、速くそして強く鼓動し続けている。
俺は必死に心を落ち着かせようとした。
「ラベルさん、大丈夫!?」
「大丈夫だ。少し離れていてくれ」
俺の異変に気付いたリオンが、咄嗟に声をかけてくる。
俺は近づくリオンを静止してゴーレムに向けて走り出した。
「うぉぉぉぉおおおお!!」
ゴーレムの特性や癖など、手に取るようにわかっている。
長い間ダンジョンに潜り続けてきた経験は伊達ではない。
俺は最初に狙いをゴーレムの関節部分に定める。
いくら全身が固い土で出来たゴーレムと言えども、手足を動かす関節部分は他と比べると攻撃が通りやすい。
肘と膝に狙いを澄ませ、俺は全力で一歩を踏み込むとその勢いのままゴーレムの肘に目掛けて剣を上段から振り下ろした。
俺の剣撃はゴーレムの腕を叩き落していた。
「オォォォオ!!!」
腕をなくしたゴーレムは怒り狂い、その場で暴れ始めた。
それと同時に落ちた腕が砂状となり、切り落とされた腕元へと集まり始める。
「そうなるのは予想済みだ」
今度は膝を切り落とした。
片足となったゴーレムはバランスが保てず、その場に倒れ込んだ。
「仰向けになって魔石が丸見えだぞ!!」
ゴーレムの上に飛び乗ると、俺はそのまま魔石を突き刺し破壊した。
「凄い。あのゴーレムを簡単に倒すとは……」
俺の戦いを後ろから見ていたリンドバーグが驚いている。
俺自身もたった一人でゴーレムを倒せるとは思ってもいなかった。
安全を確認し、スキルを切ると同時に物凄い倦怠感と強烈な痛みが全身を襲って来た。
しかしそんな痛みよりも自分のスキルで魔物と戦える喜びの方が勝り、俺は笑みを浮かべていた。
「さぁ、先を急ごう。最下層まで後二階層だ!!」
今の俺ならダンジョンマスターにだって一人で勝つ事ができるそんな気がしていた。
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