第3話 リオンとの出会い

 ギルドから追放されたが、俺は冒険者になる事を諦めたりしない。

 気持ちを切り替え、すぐに動き始めた。

 この程度の逆境ならどうって事はない。


 ダンジョンに潜っている時は、何度も命を失いかけたんだ。

 ギルドを追放されただけで命を失った訳じゃない。

 なら何度だってやり直せる。


 さっそく俺は中堅クラスのギルドのホームに顔を出し、ギルドに入りたいと頼み込んでみる。


「いゃ~ 貴方は【オールグランド】のラベルさんだろ? ちょっと今は…… 無理かな…… ははは」


 対応してくれたギルドの幹部らしき人は困った態度を取っていた。

 何とも歯がゆい対応だと感じた。

 

「解りました。ありがとうございます」


 その後、交流のあったギルドを幾つか回ったのだが、答えは大体同じだ。


 最後に声を掛けたギルドでその原因を知った。


「本当は俺達もラベルさんに入って貰いたいんだけど、【オールグランド】の新しいギルマスから連絡が入っていてね。アンタをギルドに入れたら敵対行為と見なすって言われちゃってね。この国で最大手の【オールグランド】を敵に回したらやりにくくて仕方ないからね。本当にわるいね」


 まさか他のギルドにまで手を回しているとは思わなかった。

 ハンスの嫌がらせには腹が立つが、俺のせいで他の人に迷惑を掛けるのも申し訳ない。

 仕方なく俺は新しいギルドに入る事を諦めた。


 次に俺が取った行動はフリーのポーターとして、俺をダンジョンに連れて行ってくれる野良パーティーを探す事だった。


 ギルドに入れないなら初心にかえるだけ。

 流石に山ほどいる野良冒険者一人一人にまで、声を掛けてはいないだろう。


 野良冒険者とはどこのギルドにも所属していない冒険者の事を言う。

 その為、ダンジョンに関する情報を得たり、臨時のポーターを探したりする時は野良冒険者達は、ギルド会館で行う様になっていた。

 

 早速、俺はギルド会館に訪れている野良パーティーに声を掛けてみた。

 しかし、何度声を掛けても誰も俺をダンジョンに連れて行ってはくれなかった。

 それは次の日も更に次の日も同じだ。

 それでも俺は諦めず、毎日ギルド会館へ通い続けた。


 すると俺を指さしながら話している者を見付けた。

 その顔には見覚えがある。

 

 その者は【オールグランド】のスカウトマンだった。

 スカウトマンの仕事は有能な野良冒険者を発掘し、ギルドに勧誘する事だ。


 ギルドメンバーが不祥事を起こすと、本人は元より、所属ギルドも処罰を受ける。


 なのでスカウトマンは冒険者を厳選して勧誘していた。


 そのスカウトマンが俺を指さして、一体何を話しているんだろうか?

 きっと碌でもない事だろうとは思うが……


 俺はスカウトマンと別れた野良冒険者に声を掛けてみた。


「すまないが、さっきの男に何を言われたのか教えてくれないか?」


「えっ!? いや……」


「いいじゃない。教えてあげようよ。この人も知っている方がいいと思うし」


「だけど…… そうだな、解った話すよ。実は貴方に関わったら、何処のギルドにも所属出来なくなるから気をつけろって言われた」


「何だって!! 本当なのか?」


「あぁ、各ギルドのスカウトマンが手分けして広めているから、もう殆どの野良冒険者に広まっていると思う。こう言ってはなんだけど、ここじゃ誰も貴方と組んでくれる冒険者はいないと思うぞ。だからダンジョンに潜りたいならこの街から出て行った方がいい」


「姑息な事を…… どれだけ俺の邪魔をしたら気が済むんだ」


 状況は最悪で、周囲を見回しても誰も俺と目を合わせようとしない。

 

 流石にここまでされたら、この街を去った方が良いように思えた。


 仕方なく俺が近くの長椅子に腰を下ろして、今後の対策を考えていると、目の前の野良パーティーから怒鳴りつける声が聞こえてきた。


「俺達を殺すつもりか!! お前の動きは変則的過ぎるんだよ。何度も言わせるなよ!! もっと周りに合わせろよ」


「そうよ。フォローするこっちの身にもなってよね。今日も全滅しかけたんだからね」


「もう、お前とは組んでられない。お前はパーティーから追放だ!!」


 怒鳴っていたのは四人組のパーティー、剣士の少女が残りのメンバーから責められていた。


 少女は言われるがままで、口を閉ざし反論もしなかった。

 パーティーのメンバー達は少女を置いて、そのまま去ってしまう。

 少女はその場に立ち尽くしていたが、小刻みに震えていた。

 強く握り締めた手は爪が食い込み血が滲み出ている。


 俺はその少女の境遇に自分の境遇を重ねていた。

 そして無意識のまま俺は少女に声を掛けていた。


「おい、大丈夫か?」


「貴方は……」


 背後から声を掛けられた少女が振り返る。

 銀色のロングヘアーが宙を舞い、青い大きな瞳が俺を見つめる。

 細く華奢な身体で剣士の体付きには見えない。

 可愛らしい少女であった。

 しかしこの世界はスキル一つで子供が大人に圧勝する世界でもあり、見た目で判断する馬鹿はいない。


「いや、さっきのやり取りを見てしまってな、つい心配で声を掛けただけだ」


「そう…… なら大丈夫。いつもの事だから……」


 少女はいつもの事だと言った。

 なら少女は何度もパーティーから捨てられているって事なのだろうか?


 俺は少女に興味を持った。


「そうか、大丈夫ならいい」


「ええ。私はもっとお金を稼がなくちゃ駄目なの。だからこの程度の事で立ち止まる訳にはいかない」


 少女はお金を欲しているみたいだった。

 冒険者になる者の多くは、地位か名誉、それか大金を求めている。

 だから少女の回答も自然と受け入れた。


 グゥゥ~


 その時、少女のお腹が大きく鳴る。

 少女は鳴るお腹を両手で押さえ、耳を真っ赤に紅潮させながら恥ずかしそうにしていた。


「なぁ…… もしかして腹が減っているのか?」


「そう言えば。昨日から食べた記憶がないわ」


「じゃあ、何か食いにいくか?」


「今は手持ちのお金がない」


「気にするな。こっちから声を掛けたんだ。ご馳走してやるよ」

 

「ご馳走してくれるなら……」


 そうとう腹が減っていたのだろうか?

 少女は初対面の俺に警戒する事も無く了承してくれた。


 俺は行き付けの食堂へと少女を案内する。


 この店の料理は意外と旨い上に値段もリーズナブルで穴場の店だ。

 俺もちょくちょく利用している。

 店は繁盛しており、既に八割位の席が埋まっていた。

 俺達は空いている席を見付けて座り、日替わり定食を注文した。


 注文した料理が並べられると、少女の目が輝き始めた。

 手を合わせて軽く祈ると、がっつきながら定食を食べていた。

 その様子を見た俺も箸を手に取り、定食を食べ始める。


 俺達は無言のまま定食を食べ終えた。

 食事が終わり、一息ついた所で俺は少女に話しかけた。


「俺の名前はラベルって言うんだ。君の名前も聞いていいか?」


「私の名前はリオン」


「リオンか…… 宜しくな」


「貴方の事は知っていた。誰も相手にしてくれない人だってパーティーメンバーが話していたから」


「ちょっと意地の悪い奴に目を付けられていてな、嫌がらせを受けているんだよ。でも俺はその程度の事じゃ負けないぜ。最悪ダンジョンに潜れなくなったとしたら、この街から出ていけばいいだけだからな」


「ラベルさんは強い人なんだね。私ももっと強くならないと」


「そう言えば、リオンは何故パーティーから追い出されたんだ?」


 リオンは少し俯いていたが、吹っ切れた様に語りだす。


「私が変な動きをして、仲間の邪魔をしてるっていつも言われるから……」


「変な動き? それじゃ連携を取れる様に考えて動けばいいだけじゃないか?」


「それじゃ間に合わないの」


「間に合わない? どういう事だ?」


「魔物の動きに間に合わない」


 リオンは不思議な答えを返してきた。

 その真意を出会って間もない俺には悟る事は出来ないと感じた。

 

 だがリオンは動きに問題が在るって事だけは理解できた。

 それにリオンは俺と同じで仲間に捨てられた者だ。

 

 同じ境遇の者として、俺は何とかしてやりたいと想っていた。



「リオンは今フリーなんだよな? 俺はポーターなんだけど、もし良かったら二人でダンジョンに潜ってみないか?」


 たった二人でダンジョンに潜ったとしても効率が良いとは言えない。

 しかも俺は戦う事も出来ないポーターだ。

 更に俺と組んだら街に在る全てのギルドからも相手にされないというボーナス付きである。


 自分で言っちゃなんだが、絶対に関わってはいけない不良物件だろう。


 絶対に断られるだろと予想しながらリオンを誘ったのだが、リオンの反応は俺の予想とは違っていた。

 

「私でいいの? 私は迷惑をかけるかもしれないよ?」


「何を言っているんだ? 俺はポーターだって言っただろ? 俺はリオンのサポートに徹するからリオンは好きに動き回ってくれればいい。それよりリオンの方は大丈夫なのか? 俺と組んだらこの街のギルドから相手にされなくなるかも知れないんだぞ?」


 俺の言葉にリオンは笑みを浮かべる。

 その笑顔はとても可愛らしいと思った。


「幾つものパーティーに捨てられた私に手を差し伸べてくれるのは、もぅラベルさんしか居ないと思うの。だから私からもお願いします。どうか私とパーティーを組んでください」


「あぁ、俺も精一杯サポートさせて貰うよ。こちらこそよろしく頼む」


 俺が手を差し伸べると、リオンは強く握り返してくれた。

 ギルドを追放されて辛い日々が続いたが、こんな俺でも仲間になってもいいと言ってくれる冒険者と出会う事が出来た。

 

 この出会いが無ければ、俺は尻尾を巻いてこの街から逃げ出していたかもしれない。


 別れ際、俺はリオンに尋ねてみる。


「そういえば、今までいくつのパーティーから追い出されたんだ?」


 リオンは開いた手の指を一本づつ折りながら数えていく。


「両手で足りないくらい?」


 俺の予想を上回る数だった……

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