ゾンビ勇者 ー生き返った勇者は本当に勇者なのかー
常二常二
第1話 勇者様、死なないで
ぼんやりと見える背負われた勇者様の背中を追いかける。
先導があると言っても真夜中の山中を駆け降りるのは、怖い。
木の根。蔦。石。岩の窪み。登るときには頼りにしたものが足を取ってくる。
足元ばかりではない。
「俺は忍者だからな。どんくさそうなあんたよりは慣れてる」
と先行することを申し出た隼人が勇者様を抱えながらも、予備動作なく最小限の動きで枝をよけるせいで、私は時々枝に頭を突っ込む。衣服で覆っていない素肌も、ところどころ葉や枝で切り傷が出来ていた。
「きゃぁ!」
足が滑る感覚の後、一瞬顔に衝撃と瞼の裏に閃光を感じた。
口の中にじゃりじゃり広がる青臭い草と鉄の味を精一杯口から追い出していると、唐突に前から口をふさがれる。
「声を出すんじゃねえ。戦闘は俺の領分じゃねえつってんだろうが…!」
私が転んだことに気が付き、戻ってきた隼人の歯をかみつぶし絞り出した声から怒気が伝わってくる。
なんで私がこんな目に合わなきゃいけないのか。そんな気持ちも、隼人の肩越しに勇者様青白くなった顔と、隼人の肩を濡らす吐瀉物が、熱くなった目に映り立ち消える。
投げ散らかしたパーツを拾い集めるように、手、足、手足首と順々に一つ一つ動作を確かめながら立ち上がった。
衝撃で感覚の遠くなった顔の皮膚の表面をなぞる液体は、草に結露した夜露か。血漿が混じった血液か。さっきの涙の名残か。わからないけど、ここまでに負った傷と併せてヒールをかけて、拭った。
文句を言った後、私に手を差し伸べず、山を下り始めた隼人の、もう遠くになった背中を再び追いかけながら、私は勇者様死なないでと強く願っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます