アラフィフのオッサンがうっかり異世界転移させられちゃったらしいよ

猫屋敷虎丸

1 初めまして異世界(1)

「これは…あれか? テンプレってやつか? 白い空間じゃないが…」

 星が瞬く夜空。前後左右、頭上も足下も見渡す限り夜空。そのままフワフワと漂っていると急に強く引っ張られる。

「お?」

 グングンと速度を上げて落ちていく。先程までの無重力状態は何だったのか。

「まるでスカイダイビングだな。パラシュートないけど」

 だが、これで確信する。例の流行り物ではないと。何故なら神様は登場していないし、スキルもギフトも貰っていない。

 落下速度は更に増し、もう目も開けていられず段々と意識も遠くなってくる。

(忘れてた…高所恐怖症だった…フリーホールも苦手だったよな。あー気持ち悪い…)

 意識があったのはそこまで。部屋の明かりを消すように男は気を失った。





 アウグスの冒険者ギルドに所属しているクラウス・シュッテは解体を終えたワイルドボアの内臓や骨を土中に埋め終え、立ち上がりながら伸びをする。燦々と降り注いでいた日差しによって汗が噴き出る。見上げれば太陽は真上にあり、そろそろ昼飯でも食べるかと周囲を見渡す。

「うん、なんだ? 人…だ!!」

 少し先の草叢に倒れ伏す男がおり、慌てて駆け寄る。あと一歩という所で立ち止まり声を掛ける。

「おーい! 大丈夫か!?」

 返事は無いが油断せずに近付き、そっと背中に手を当てる。呼吸はしている。意識は無いようだが、怪我をしている様子はない。やや長めのクセのある黒髪に、服装は白いシャツに紺のズボンと至って普通。いや、普通より上等かもしれない。貴族とか金持ち連中っぽいぞと不安になりながらも男をひっくり返す。

「おい! おい!!」

 男の肩を揺すりながらざっと確認するも、やはり外傷は見当たらない。

(行き倒れか? 周りに荷物がないって事は盗賊に…違うな。土や草が付いて多少汚れているが服は上等なのに剝ぎ取られていない。盗賊はないな)

 肩を揺すったり腕を軽く叩きながら声を掛けていると、男の眉間にこれでもかと深い溝ができ呻き声があがる。

「聞こえるか?しっかりしろ!」

 男がゆっくりと目を開ける。この辺りでは珍しい黒目だ。目が合い、男が驚愕の表情を浮かべる。

「あの、大丈夫か…ですか?」

 これが後にお互いが相棒と呼び合う、根笠瑛斗…エイト・ネカサとクラウス・シュッテのファーストコンタクトだった。

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