妖喰の聖女
平井昂太
第1話「追放処分」
「あなた、今日を限りにこの隊から抜けてくれる?」
宿の一室に呼び出された少女・
凜花たちは、妖怪討伐部隊として各地を旅しながら戦ってきた。
そんなある日に立ち寄った町で宿を取った直後の出来事だ。
「抜ける……というのは、除名処分ということでしょうか……?」
突然のことに驚き、凜花は聞き返してしまう。
そこまで大きな失敗をした覚えはない。
「察しの悪い人ね。あなたみたいな役立たずはアタシの隊にはいらないって言ってるのよ」
隊長の赤城は気色ばんで再度宣告した。
役立たず呼ばわりされても、凜花の方は低姿勢のまま。
「り、理由を聞かせていただけませんか……? 私、なにかまずいことをしてしまったでしょうか……?」
凜花の態度は悪くないにも関わらず、赤城はイラ立ちを隠せないといった様子。
「なにもしてないからよ。あなた今日の任務中、妖怪を何匹倒した?」
「二体だけ……ですね……」
気まずそうに答えた凜花だが、なにも怠けていた訳ではない。
赤城隊において報酬の分配額は倒した妖怪の数に応じて決定される。
凜花はそれなりに名のある家の出身であり、お金に困ってはいなかったので、できるだけ他の隊員が敵を倒せるように動いていたのだ。
もちろん戦いに参加せずにいたのではない。仲間の能力を強化する術や敵を拘束する術を使って補助をしていたし、攻撃を受けそうな仲間をかばったりもしていた。
赤城は隊長として、凜花のそうした働きを見てくれていなかったのだろうか。
「この隊の標語、覚えてるわよね?」
「はい……」
『男女平等』と『女性の地位向上』だ。
「アタシたちは強い女性を目指しているのよ。それなのに、あなたみたいに男に譲ってばっかりいるような女を連れていたら、いつまで経っても男共の好きにさせることになるじゃない」
言いたいことは分からないでもない。
しかし、凜花は男性に媚びを売るような真似はしていない。
敵を倒す役目を譲っていたのは女性隊員に対しても同じであるし、男性隊員に守ってもらおうともしていない。むしろ、男女関係なくこちらが守るような戦い方を選んでいた。
赤城の言い分は、敵を倒した回数だけに着目したものだ。
さらにいえば、赤城が強い女性であるかというと、彼女は主に男性隊員が弱らせた敵にトドメだけ刺すようなせこい戦い方をしており、お世辞にも本当の意味での強さを持っているとは考えられない。
これでは『女性の地位向上』というより、『女性の優遇』だ。それも隊長である赤城が最も得をするという。
実際、報酬の大部分を得ている赤城は、いかにも高級そうな毛皮を巻いている。
対して、凜花が着ている紫を基調とした切り袴の装束は、安物ではないものの華美な装飾は施されていない。
「決して私はそんなつもりでは……」
「黙りなさい。言い訳は聞かないわ」
強くあれと言う割には、おとなしくしていろと。どうすればいいのか。
「とにかく、もう決まったことよ。あなたの部屋は取ってないから、今すぐ帰りなさい」
討伐部隊の人事権はすべて、その隊の隊長が持つ。
異議を唱えたところで、隊長の意思が変わらない限り処分は覆らない。
「そう……ですか……」
元々気が強い方ではない凜花は、受け入れる他なかった。
「二度とアタシの前に顔を出さないでね」
「すみません……。今までお世話になりました」
理不尽な扱いを受けても、きちんと頭を下げてから赤城の部屋を後にする凜花。
廊下に出てから、少々思案する。
(本当はみんなにもあいさつをしていくべきなんだろうけど……、合わせる顔がないよね……)
どの隊でもいえることだが、追放されることになった隊員は、その隊の恥さらしという風に見られる。
さっさと帰るしかないか。
屋外に出ると、冷たい夜風が凜花の長い黒髪を揺らす。
赤城と凜花の容姿は、ある意味対照的なものだった。
といっても、どちらかが醜いのではなく、赤城は派手で目立っており、凜花は清楚で慎ましい雰囲気だということだ。
赤城の容姿は注目を集めやすいため、彼女に惹かれて入隊した男性もいたが、男性に損な役回りをさせる赤城隊の在り方に不満は抱いていないのだろうか。
考えても仕方ない。
こんな時間ではあるが、町を出て実家の方へと歩き出した。
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