第22話 謎へのチケット
「ついておいで」
と言われ、ほいほいとついて行くほど龍之介はお馬鹿さんじゃない。いかのおすし、というのはそれこそ幼稚園の頃から教えられてきた。
「警戒するのはいいことだ。じゃ、こういうのはどうだい?」
そう言って青年がつきだしたのはスマートフォンだった。どこかのネット記事を表示している。
「これ……!」
「その内ニュースになると思うよ」
「そんなのありえないだろ! だって! あんなに!」
言葉にならない。だって、ネット記事に踊る言葉は龍之介の心を揺さぶるのに十分すぎたから。
――― ”政府の怠慢? 官製ゲーム終了か”
「サモンバディーズが無くなる事なんて! あるわけないだろ!?」
「ネット記事を鵜呑みにしないところも、ちゃんとしてるね。大抵の子ども達は目を真っ赤にして泣いてたっていうのに」
「当然だ! 運営がメンテナンスに入ったっていうのは、継続してくれるって事だろ?」
「そんなのただの口実だよ。過去にもメンテナンスに入りました、と言ってそのままサービス終了したゲームなんてごまんとあるんだ。サモンバディーズが例外だなんて誰も言ってないのさ」
確かに、青年が言うのも間違いじゃない。反論したい、けれどどう考えたって青年の方が確実に情報を持っている。
「あんた、運営の一人か?」
乙姫様の仲間、そうとしか考えられない。こんなことを言いだすには運営側の情報が必要だ。けれど、青年はきょとんとした表情をしたあと大声で笑いだした。
「ごめんよ。からかうつもりはなかったんだ。僕達はね、サモンバディーズをただのお勉強アプリにしたくないんだ」
「?」
なにを言っているんだろう、それが龍之介の素直な反応だった。ゲームと銘打って入るけれど、勉強要素もそれなりに食い込んでいる。だから、どう考えても”お勉強ができるゲーム”というイメージしかない。
「分からないのも無理ないか。今回はここまでにしようか。これ、僕のSNSのアカウント。いつも張り付いてるから気になったらいつでも連絡してくれよ」
龍之介のズボンのポケットに無造作にメモ用紙を突っ込んで青年は町の中へと帰っていく。
「なんだったんだ?」
本物のサモンバディーズってなんだ? 今までのが偽物だったということになる。そんなことは無い。だって、偽物だったら運営が出動して何かしてくれる。
(でも、運営が手を回してもサモンバディーズの大会は中止になったんだよな)
カンペキだったんじゃなかったのか。
いいや、違う。
さっきの瑞貴の事だってそうだ。アバターが急に戻って来たなんて怪しい。それに、瑞貴が去って入れ違いにやってきたあの青年。どこかで二人のやり取りを聞いていたからこそ、龍之介に声をかけに来たに違いない。
運営波に情報を持っているなら、龍之介と話していた少年が実力者だったことは分かる。そして、行動ログを見られてしまったのなら、龍之介があの日、エネミーに向かっていた子どもだって分かる。
(……でも、どうしたらいいんだろう)
ここから先が全く分からない。サモンバディーズがこのままだと終わってしまう事だけは分かっている。それはいやだ。だって、まだ何もできてない。★5エネミーを倒すことも、★5の問題を解くことも。【RUN】の記録をもっともっとよくしたいし、【CHOICE】の誤答を減らしたい。
――― 気になったらいつでも連絡してくれよ。
する? でも、相手は何なのか分からない。言動だって怪しいし、相手はそもそも名乗ってない。高校生だけれど、制服じゃないからどこの高校の人かもわからない。
「どうしたら……」
ずっと立ち止まっているわけにもいかないので、龍之介はふらふらと家へと戻ってきた。ただいま、と言ったか言わなかったか分からなかったけれど、二階へ行って自分の部屋のベッドに倒れ込んだ。
そのまま龍之介は夢の中に落ちて行った。夢の中で目が覚める、というのはおかしい気もするけれど、目が覚めた。
がたんごとん、と電車に乗っているようだった。車両の入口に向かってベンチのような椅子が並んでいる。その1つに龍之介は座っていた。
こつこつ、と誰かが歩いてくる。昔どこかで見た古めかしい制服姿の車掌さんがやってくる。手には手袋をはめていて、顔や足元などには黒いもやがかかっているようで顔は見えない。
「お客さん、チケットを」
「チケット?」
確かに、今は電子チケットが主流で紙のチケットはほとんどない。夢の中だけど無賃乗車になってしまう、と思って龍之介は慌ててチケットを探した。
ええっと、どんな形だっけ。
確か正方形じゃなくて、長方形だったよね。
で、裏面は黒だっけ。いや、そうじゃなくてバーコードだっけ?
ばたばたとあちこちを探っている龍之介に車掌さんはため息をついた。
「おもちではないですか」
そう言って車掌さんが指差したのは龍之介がさっき押し込まれた小さなメモ用紙だった。
「なんでっ!?」
夢オチとはこういう事かぁ、と龍之介は思った。丁度お母さんが龍之介を呼んでいたので、ちょうどいい夢の区切りだった。
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