第343話
名残惜しいがネネの頭から手を離すと、ネネはフラフラとしながら部屋の奥に入っていく。
「あれ、食事はとらないのか?」
「後で食べる。……今、お前と一緒にいけば、四人目とバラすようなものだろ」
「まぁ、それはそうだが……」
認めるのか。俺の恋人であると。
疲れているからかヤケに素直なネネが可愛らしいが、あまり構いすぎて眠れなくさせるのは可哀想だし、近くに人がいると安心して眠りにくいようだから、これ以上構うのは諦めるか。
「そう言えば、マスターさんは?」
「クルルのことはバレたばかりだし、流石に自分の部屋で寝てると思う。……どうせバレたんだし呼びに行くか」
もう隠れる必要はないしな。それに……叔父と会ってからの様子がおかしく、今日は大丈夫そうなのか様子を見ておきたい。
そう思いながら廊下に出ると、灰色の髪の少女が窓から外を眺めていた。
「クルル、待っていたのか? 悪いな」
「あっ、ランドロス。いや、待ってたわけじゃないよ。ちょっと考えことをしてたの」
「……変なことは考えるなよ」
「えっ……い、いや、私もいつもえっちなことばかり考えてるわけじゃないよ」
「いや……そういうことを言っているわけじゃなくて……」
いつもそういうことばかり考えているのか……いやまあ……クルルもお年頃だしな。うん。
シャルが微妙そうな目でクルルを見つめてから、思い出したように「あっ」と口にする。
「おはようございます。そう言えば、もうランドロスさんとの関係がバレたってことは、マスターさんも結婚するんですか?」
「ん、んー、えっと、認めてもらえたってことはネネから聞いたんだけど、流石にそんな急には許してもらえないかなぁ。まずは隠してたことをちゃんと謝って、それからゆっくりと話を進めることになるかな。ネネよりも後になると思うよ」
「そうですか……。あっ、これからはマスターさんじゃなくて、名前で呼ぶようにした方がいいですか?」
「どっちでも大丈夫だけど……まぁ、家族だから、名前で呼んでくれた方が嬉しいかな」
シャルは頷き、改めて姿勢を直してペコリと頭を下げる。
「えっと、これからもよろしくお願いします。クルルさん。……そう言えば、クルル・アミラス・エミルって、エミルが家名なんですか?」
「いや、アミラスが家名で、エミルがお父さんの名前をもらったの。だから結婚したら、クルル・ウムルテルア・エミルになるね」
「……ルが多いですね」
「あはは、そうだね」
クルルはあまり昨日の叔父のことは気にしていないように見える。実際気にしていないのか、誤魔化せているだけかは俺には分からないけれど、少なくとも取り繕えないほど取り乱していないことは確かだ。
三人と一緒にギルドの方に戻るといつもよりも人がいない。俺と話していた奴らが、ネネのように今頃寝ているのだろう。
それでも微妙に視線を感じ、少し居心地が悪い中で朝食を食べているとヤンがどすどすと歩いてやってくる。
「おい、ドロ……お前なぁ、よくも……」
「生きていたのか」
「殺す気だったのか。……かなり理不尽な理由で怒られたんだが……小さい頃結婚の約束をしてたとか、昔一緒に風呂に入っていたことがあるとか……今、怒られても困るだろ?」
「いや、それは怒ってるわけじゃないんじゃないか?」
ヤンはそのままドスリと近くに座り、カルアが少し腰を浮かして小さく移動する。
「えっと、何かあったんですか?」
「いや、大したことじゃない。ヤンも寝れてないなら今日の修行は中止にしておくか?」
「あー、いや、あれから少し動きを練習したから、修正をしてほしい」
「まぁいいが……一応軽めにしておくか。怪我をしても治癒魔法を使ってもらえばいいとは言えど、程度によっては時間がかかるしな」
そんな話をしながら食事を終える。
「あ、僕、洗濯物とかしてきますね」
「……そろそろ水も冷たくなるし、俺がやるぞ。下着とかだけ分けておけばいいだろ?」
「大丈夫ですって、孤児院で慣れっこですよ」
「……ヤンの修行の後で手伝いにいくから、俺に見せたくないものからしておいてくれ。ああ、あと、悪いんだがネネが疲れているから何かあったら頼む」
「もう……分かりました」
シャルは渋々と言った様子で頷く。カルアはいつものように気ままに研究とかをして過ごすだろうし、クルルも普段通りか。
昨日はあまりイチャイチャ出来なかったので離れるのは少し寂しいが、あまり長時間するわけでもないのでさっさと初めてさっさと終わらせてしまおう。
三人と別れてから、ヤンを連れていつもの果樹林にいき、眠たい目を擦りながらヤンの動きを見ていく。
「……まぁいいんじゃないか。……でも、身体が少し固いな。もっと柔軟とかした方がよさそうだ。あと、武器ももっと長いものの方がいい」
「長剣とかか?」
「そうだな、もしくは野太刀や槍とか。筋力の強さを生かすなら長物の方がいい。あと、魔法が使えないなら遠距離攻撃の手段も考える必要があるな」
「近寄って切れば良くないか?」
「空飛んで魔法で遠距離攻撃をしてくる奴なんて珍しくないからな。基本は避けるにしても、もしものときの備えとしては必要だ」
軽く欠伸をしながら近くにある石を拾う。
「筋力を生かすなら投擲だな。武器がなくとも近くにある石で事足りるし、片手で出来る。弓矢は両手を使う上にヤンの力を活かせる剛弓だと嵩張るからオススメしない」
「投擲か……ドロはどうやってるんだ? 空間魔法だと遠距離攻撃出来ないよな」
「今だったら空間縮小で近寄って攻撃出来るが……まあ、基本は投擲だったな。空間魔法があるから嵩張っても大丈夫だから、投槍や投げナイフとか、ボウガンや、あと指弾とかも一応そうか」
「指弾?」
「指で物を弾いて飛ばすってだけだ。威力は低いが、見えにくいし隙も少ないからな。ある程度近ければ頭蓋骨を割るぐらいの威力は出る」
ヤンは興味を持ったような表情を見せるが……遠距離攻撃ではあるが飛距離は短いので、正直言って使い勝手は悪い。
普通に投擲術を練習した方がよほどいいだろう。
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