第338話
話し合いで決着が付かないから暴力って……と思いながら、一応盾を取り出してクルルを背に庇う。
「強い奴が必要ってのはこういうことだったんだな」
「うん。流れ弾とは言えど……ギルドマスターって武闘派も多いし、連れてきている人達もトップ層だからね。普通の人が当たったらひとたまりもないよ」
……まぁ、ぱっと見で分かるほど強いのは確かだ。全員何かしら秀でているところがあるが、特に目立つのは口火を切った【ラブリカ迷宮探索私塾】の補佐官と、【炎龍の翼】のギルドマスターであるダマラス、それに【剣刃の洞】の同行者の老人だ。
戦えない奴は俺やクルルのように部屋の端に寄ってその戦いを面白そうに見ている。
「……これ、本当に戦って決まるのか?」
「まぁ半分は憂さ晴らしだよ」
「……もう半分は?」
「勝者は強い発言権を得る」
「お、おう」
やばいなギルドマスターって。
クルルは時間が経ったおかげか少し落ち着いてきた様子を見せるが、少し心配なのは変わらない。
側から離れないように盾を構えながら子供の喧嘩のような戦いを見ていると、ダマラスと目が合う。
何故戦いに参加していない俺を見る……と思っていると、ダマラスは凶暴な笑みを俺へと向ける。
「……こういう場合の最善手って……一番強えやつを真っ先に潰すことだよなぁっ!」
「いや、俺は不参加で……」
そう拒否しようとするが止まる気配はない。こいつ、この機会をいいことにリベンジしようとしているな。
周りを見ると俺とダマラスがぶつかることによる影響を考えてか、一瞬だけ静寂が生まれていた。
後ろにクルルがいることや元々狭い室内であることを考えると空間縮小や拡大で距離を取るのも厳しいものがある。
かと言って雷魔法は人に向かって撃つには過剰な威力がすぎるだろう。普通に剣を振ってもダマラスの魔法で強化された剣には押し負けるだろう。
考えているうちに剣が振られたので、そのまま盾で斜めに受け流し、メイスを取り出して受け流した剣をぶん殴る。
金属音が響き渡るも剣が折れる気配はない。いい武器使ってるな。
「盾術に武器破壊技……!? お前、本当に多芸だな!」
「マジでやる気ないんだが……」
やっぱり狭い空間は戦いにくいし、そもそも俺達は勝っても負けてもどちらにせよ加入希望者なんてほとんど来ないだろうから関係がない話である。
鎖を取り出して脚で操り、口の中に含み針を仕込む。
「今度は鎖か……前の戦いではこんな戦い方をしていなかったよな。いくら手札があるのか暴きたくなってきた」
「……勘弁してくれよ」
機動力が全く使えない状況だと、力負けするダマラス相手に受け続けるのはかなり厳しい。
装備の差から盾が徐々に曲がっていっているし……シャルが無駄遣いを嫌がるから盾が壊れるのは本当に勘弁してほしいんだがな。
脚の鎖でダマラスの脚を絡めとり、顔面に向かってメイスを振り下ろす。おそらく避けられるだろうが、これはフェイクだ。
メイスに意識が向いている中で、口の中の含み針で刺す。威力は低いが意識を散らす程度には十分……と考えているとダマラスの顔面が燃え盛る。
まさか……と思っていると、そのまさかだった。
振り下ろされた鉄の塊に向かって頭突きをぶちかましてした。
いや、これ死んだろ。と思ったのも一瞬、べちゃりとした触感が手に広がり、あまりの熱さにメイスから手を離そうとするが、皮膚が焼き付いていたので異空間倉庫に戻すことで引き剥がす。
……ちょっとばかり、ダマラスのことを舐めすぎたか。
一瞬で鉄を溶かすほどの高火力……近寄るのは危険だが、この状況だと距離も取れないな。
クルルが少し怯えた様子を見せる。……ダマラス、ぶっ飛ばすか。
ダマラスに向かって含み針を連続して放つが火炎に遮られてダメージにはならない。
化け物じみた火力だな。と思いながらダマラスの足元に絡まったままの鎖を引っ張ろうとするが、それも火炎によって溶かされ……と思っていると突然ダマラスの姿が視界から消える。
俺の空間魔法から一瞬で逃れただと!?
と思っていると、下からバシャバシャと音が聞こえる。
「あ、あぶっ、お、溺れ……たす、助けてくれ!?」
……石造の床やその下の地面を溶かして沈んでいた。
何やってんだコイツ……もしかして泳げないのか?
助けようと思わないでもないが、高温で溶けた石に手を突っ込んだら普通に腕が壊れるだろうしな……。周りを見るともう決着が着いたらしく、老人が余裕そうな表情で剣に付いた血を拭っていた。
俺はゆっくりと回復薬を飲んでから、地面で溺れているダマラスを見下ろす。
「ら、ランドロス……助けてあげたら?」
「……いや、まぁ……そうだな」
空間魔法で周りの地面を全部取り除くか。服も焼け溶けていそうだし、クルルには後ろを向いていてもらう。
「ダマラス、とりあえずすぐに魔法解けよ」
そう言ってから異空間倉庫で溶けた地面を回収すると、べしゃりとダマラスが地面の底に落ちてゼーハーと息をする。
絵面が汚ねえなぁ。
とりあえず、捨てるつもりで俺の服をダマラスの近くに落としてから縄を垂らしておく。
ダマラスの連れてきた女性が呆れた顔で暴れて怪我をしていた奴らを治していき、治された奴らがゆっくりと部屋を片付けていく。
それから剣刃の洞の爺さんと目が合う。
……一応、勝ち残ったのは俺とこの爺さんだが……どうしようか、降参の意を示していたらいいのだろうかと思っていると、老人は剣を置いてゆっくりと手を挙げる。
「主とやり合う気はない」
「……俺もないんだが……。これ、どうなるんだ?」
勝った奴が主導権を握るみたいな話だったが、そもそもうちは蚊帳の外だ。
ボリボリと頰をかいてクルルを見ると、仕方なさそうにゆっくりと言う。
「……とりあえず、時間がかかってもいいからゆっくりと話し合おうか。ギルドの利益だけじゃなくて、新人の利益も含めてね」
最初からそうすべきだろうとしか言えない正論によって、議論は再開された。
ダマラスは後ろで溶岩を吐いてぐったりとしていた。
……あいつ、化け物じみた強さなのにアホだな。
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