第290話
カルアやシャルの度重なる誘惑によって、いつもギリギリのところで留まっていた欲望が少しずつ前に出てくる。
理性と欲望がぶつかり合って、なんとか理性が勝っていたという状況。何度も行った話し合いで、理性の源となっていた「痛がらせるのではないか」とか「まだ幼いだろう」とかの言い訳が削れていってしまっていて、押し付けられた柔らかい体や、俺の体に触れる吐息、俺を受け入れてくれるだろうという優しい声、幼くも美しい顔と、その顔が作る色っぽい表情のせいで欲望がどんどんと強くなっていく。
しばらく、緊張している様子のシャルを見つめて、雨の音を忘れてしまっていたことに気がつく。
壁越しに誰かに聞かれてしまうことがないようにゆっくりと小さな声を出す。
「……ここは、少し壁とか薄いしな。あと、流石にいつ人が訪ねてくるか分からないところだとシャルも不安だろう」
「そ、それはそうですけど……。でも、ギルドの寮もそんなに変わらないんじゃないですか? その、みんなで一緒に寝ているわけですし」
「……そういうことをするための宿屋があってな」
連れ込み宿の存在を幼い少女に教えるというのは、少しばかりアウトな気がする。
あどけない女の子にいけないことを教えているような感覚に妙な昂揚を覚えながら、握っている手の間に汗が溜まってベタつくのを感じる。
俺の汗かシャルの汗か、それとも雨天の湿気のせいか、触れ合っているところはイヤにべたついて、けれどもそれに不快感を感じない。
それはシャルにしてもそうなのか、離すどころかむしろ絡ませるように指先を動かして、俺の言葉に小さく頷く。
「そ、そんなところ、あるんですね」
俺の意図するところ……シャルをそこに連れ込んで、そういう行為に至りたいということを察したのか、シャルの手からドキドキとした感触が伝わり、表情から緊張が読み取れる。
「……あっちの国に戻ったら、ギルドに戻る前にデートとか……したいか?」
「そ、それは……ら、ランドロスさんにお任せします」
「俺がどうしたいかは分かっていて、そう言ってるのか?」
それだけ言うと、シャルは顔を真っ赤にして頷く。
シャルを抱き寄せて無言でベタベタといちゃついていると、いつのまにか雷は止んでいた。
やはり人為的なものだったように感じるが、もう他の奴が解決したようだ。
「……まぁ、全部、何でも俺が解決すればいいってもんでもないよな」
放っておけばだいたいのことは他の奴が解決するし……他の人だと解決出来なさそうなことや、俺の周りの人に被害が出そうにないことでもなければ無視しても案外大丈夫か。
「んぅ、そうですよ。ランドロスさんはすごい人なので手が届く範囲が広くて、いろんな人を助けたくなるのは分かるんですけど……。何もかも、ランドロスさん任せなんて良くないです」
「ああ……。もう大丈夫そうだし、流石にそろそろ寝るか」
シャルはニコリと笑ってから、パッと俺に飛びつくようにしてベッドに押し倒す。
「おい、危ないぞ」
「えへへ、危なくないです。ランドロスさん、力持ちですから」
「そういう問題じゃ……まったく、仕方ないやつだな」
ベッドの上でパタパタとしているシャルを落ち着かせるように抱きしめる。
「えへへ、嬉しいことばかりです。お父さんとお母さんが生きていて会えて、結婚も認めてもらえて、ランドロスさんとお父さんも仲良くなったみたいですし、ランドロスさんが何でもかんでも無理しなくなりましたし、その……で、デートの約束もしましたし」
……父親と仲良くなれたかは微妙だが、まぁ……シャルが喜んでいるならいいか。
シャルはよほど嬉しくて落ち着かないのか、ベッドの中でパタパタと動く。
おかげで眠れないが、まぁシャルが嬉しいならいいか。子供っぽくはしゃいでいるのも可愛らしくて止める気にはならない。
「えへへ、ランドロスさんのおかげです。ランドロスさんがいなかったら……先に死んじゃって、お父さんとお母さんを悲しませるところでした」
今もそこそこ悲しませてると思うけどな。とは言わないでおくと、シャルは悪戯げな表情をしながら細い指先を俺の両腋にくっつけて服の上からくすぐる。
「えへへ、こしょこしょー」
「……くすぐったい」
「えへへー、くらえー」
はしゃいでるなぁ。可愛い。
子供っぽい行動をやめさせるのもアレなのでなされるがままくすぐられるが、流石にもぞもぞとしてきたのでシャルの手を掴んで止める。
「くっ、や、やり返すつもりですか?」
そういうつもりはなかったが……。
シャルはどこか期待しているような表情を俺に向ける。子供っぽい細い髪の毛がベッドのシーツの上に広がって、横向きに寝ているシャルの笑顔が俺を捉える。
仕方なくシャルの遊びに乗って、同じように腋の下に手を入れてこしょこしょとシャルをくすぐるとシャルは笑い声を漏らしながら手足をパタパタとさせる。
普段よりもテンションが高い。
年相応よりも幼い感じで俺にくすぐられて喜んでいた。手足をパタパタさせているのが可愛くてつい調子に乗ってくすぐり続けてしまう。
「いひひっ、ら、ランドロスさん、も、もうっ、い、息が出来っ……」
「話せてるなら大丈夫じゃないか?」
「や、そ、そんなことっ……」
可愛いな……と思いながらくすぐっていると、シャルがパタパタとするのをやめて、弱い力で俺の手を離そうとする。
……やりすぎたか。と思って手を離すと、シャルは息を荒くして、赤らんだ顔で俺を見ながら着崩れた服を直すこともせずに睨む。
「い、意地悪……」
「……いや、先にやったのはシャルだし、それに俺はねだられて……」
「えへへ、油断しましたねっ」
シャルはそう言って再び俺に抱きついて、くすぐられて荒い息のまま俺の上に飛び乗る。
そのまま俺の体にギュッと身を寄せたと思うと、ポトリと急に力を緩めた。
不思議に思っているとシャルはそのまますーすーと寝息を立て始める。
「……疲れて寝たのか」
まぁ寝不足だしな。布団をかけようかと思ったがパタパタと暴れたあとなので少し冷ましてやってからの方がいいか。
今日は本当に、子供みたいにはしゃいでたな。いや、実際に子供だけど。
……シャルの柔らかい髪をよしよしと撫でて、着崩れた服を軽く整えてやってから、シャルを上に乗せたまま目を閉じる。
……来てよかったな。
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