第273話
シャルに連れられたまま子供達の前に立たされる。
まぁ元々一応は知り合いなことや、院長が俺のことをよく「お金を支援してくれている人」と話していたおかげであまり警戒もなく受け入れられるが……一部、おそらくシャルを取られたことによって恨みがましい視線を送ってきているやつもいる。
まぁこんな素敵な女の子を独り占めしたら恨まれもするかと思い、挨拶もそこそこにして適当な席に腰掛ける。
シャルの隣に座っていると恋愛話が好きな女の子達に囲まれる。どこの女の子も同じように他人の好いた腫れたに興味があるらしく根掘り葉掘りと聞いてくるので、適当に当たり障りのない範囲で答えていく。
なんて言うか……平和でいいな。いや、小さい女の子に囲まれているのがいいと言う話ではなく、もっと純粋に戦うだとか危機だとか、そういう面倒で辛く苦しいことがないのはいい。
もっと平和な時間が長く続けばいいのに……と思ってしまう。全部解決出来たら、俺も勉強をしてカルアの手伝いをするのもいいかもしれないな。
いや、そもそも迷宮の管理者が知り合いなのに探索するのも妙な感じだし、そうするべきか。
そうしたら時間に余裕が出来たらまたここに来たり、ギルドの子供に色々なことを教えたり……と、考える。悪くない未来だ。
……まぁ、そうするためにも……強くならないとダメだな。カルアが色々と頑張ってくれているが、やはりそれにも限界があるだろうし、そもそもより技術力が高かった古代人達が負けているのだから期待は出来ない。
俺がそう考えていると、女の子に質問攻めにされて参っていたシャルが俺の方を見る。
「……どうかしたんですか?」
「……いや、シャルのことがやっぱり好きだな。と」
俺の言葉に女の子がきゃーきゃーと騒ぎ、シャルが照れながら落ち着くように言う。
守りたい。どうしても、何があっても……守りたい。
カルアに任せて逃げたい気持ちもあるが……いざというときにどんな奴にも勝てるだけの力が欲しい。なんとしてでも、守るために……。
そんなことを考えながら過ごしているうちに夜になり、用意してもらったベッドの上に転がる。
シャルは今日一緒に寝てくれる約束だったが、女の子達ときゃぴきゃぴとしていたのでそのまま疲れて寝てしまうだろう。
久しぶりのひとりの時間。自室でそういう時間が取れたら、カルアやクルルに誘惑されて溜まった欲求不満を解消するのに使うが、流石にそういうわけにもいかない。
ひとりでベッドの上に横になるが、隣に誰もいないのが久しぶりで眠りにくい。
「空間隔離の練習でもするか」
雷の魔法には破壊されるがそれ以外の攻撃には突破されない最強の防御魔法だ。道具頼りか、魔法の師匠であるイユリの補助がなければ使えないが、それを解決出来れば大きな力になるだろう。
練習だから大きな魔力は必要ない。手のひらの上に魔力を放出して空間隔離の術式に沿わせていくが……あまりにも複雑すぎて途中で訳がわからなくなって途切れる。
……イユリ、こんな複雑なのを人の魔力を使って練習もなしに成功させたのか。魔法に関しては本当に化け物じみているな。
魔力こそ多くはないが技術面だけを見れば、勇者パーティの魔法使いであるレンカやルーナ以上なのは疑いようもない。
……よし、やるか。イユリのような凄さは俺にはないが、地道にやっていけば成功させることも出来るはずだ。
そう思いながら暗い部屋の中、ぶつぶつと改善点を口に出しながら反復して練習をし続ける。
シャルがいないから寂しくて寝れないのではなく、あくまで練習をしているから寝ないだけである。
夜が深くなってきても、寂しさを紛らわせるためにひたすら練習を重ねていく。成功こそしないが少しずつ上達していっているのを感じる。
あのときのイユリのことを思い出しながら……としようとしていたとき、扉がトントンと微かにノックされた。
「シャル?」
「あ、あれ? 起きてました?」
俺の声に反応して扉が開き、暗い部屋の中シャルのあどけない顔が見える。
少し驚いたような彼女は、すぐに申し訳なさそうな表情に変わる。
「も、もしかして……お昼に約束してたからですか?」
「……いや、別に。たまたま魔法の練習をしていただけだ」
俺の言葉を信じなかったのか、シャルはわたわたと慌ててぺこぺこと謝りながら俺の元に来て隣に座った。
「す、すみません。その、抜け出そうとしても引き止められてしまって……」
「別に、久しぶりに再会したのに邪魔をする気はない。好きなだけ話してくればいい」
「でも……起きてましたよね?」
「魔法の練習のためだ」
シャルは一瞬だけ納得しかけてから首を捻る。
「……夜にやる意味ありますか?」
「……別にいいだろ」
「暗いのでやりにくいだけかと……。やっぱり待ってました?」
「いや、本当に待っていたわけじゃ……」
俺がそう言うもシャルはあまり信じていないのか不安そうに俺の手を握った。
まぁ、そりゃこんな夜遅くまで起きていたら不思議に思うのは当然か、約束もあったからそれで待っていたと勘違いするのも当たり前だし…….。
仕方ない、と考えてシャルの肩を抱き寄せながらベッドに倒れこむ。
「……隣にシャルがいなかったから、寂しくて眠れなかっただけだ。別に約束がどうとかは関係なく、俺の問題だから気にするな」
シャルはモゾモゾと動きながら赤らんだ顔を俺に向けて、小さな手で俺の服を摘む。
「えっと、その……ご、ごめんなさい?」
「いや、別にシャルは悪くない」
「い、いえ、ランドロスさんが甘えんぼの寂しがり屋さんであることを失念していた僕の責任です」
いや、それはその通りなんだが、面と向かってはるかに歳下の少女に甘えんぼの寂しがりと言われるのは……プライドのようなものが傷つく。
それを誤魔化すために、シャルの小さく暖かな体を抱き寄せながら口を開く。
「……昼、院長に聞いたが、シャルの両親はやっぱり教会の関係者らしい。多分生きているだろう。……いいのか? 俺と一緒で」
「もちろんです。……そもそもの話、僕が隣にいないと眠れない人が僕と離れてどうするんですか。そう言えば、マスターさんやカルアさんとふたりきりのあとはいつも眠たそうにしてますよね」
シャルはクスクスと笑って俺を抱きしめ返す。
クルルとカルアと二人で寝ている時に寝れないのは別の要因……主に性的興奮のせいだが……シャルが嬉しそうなので黙っておくことにする。
もう少し話していたいと思っていたが、シャルのまぶたが重たそうに動き、パチリパチリとゆっくりとまばたきをしていた。
無理に起きている必要はないだろうと思ってシャルの頭の下に腕を入れて腕枕をしながらヨシヨシと頭を撫でる。よほど疲れていたのか、すぐにシャルは寝始めて、その寝顔を満足するまで眺めてから俺も目を閉じた。
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