第241話
少しだけ脱線していた話を戻してカルアの方に目を向けて本題に戻る。
「……ネネと交際して結婚するのは俺としては構わないが……」
「子供を作るのは?」
「それも抵抗はないが……いや、変な意味じゃなくな?」
「変な意味って?」
「……いや、別に。まぁでもな」
果樹に軽く寄りかかりながらため息を吐く。
「同情心で結婚するのはどうなんだ……と、思わなくはないな」
「……んぅ、まぁ恋愛結婚以外も悪くはないと思いますよ? あれでも、ネネさんの方は恋愛感情を持ってるから恋愛結婚ですかね」
「いや、まぁお見合いでも政略でもないんだし恋愛結婚なんじゃないか?」
クルルとはまだ結婚していないが、三人ともめちゃくちゃ大好きで一生一緒にいたくて、離れるのが嫌だから結婚することにしたが……。
ネネは仲間という感覚が強い。裸を見せられたら思いの外、興奮はしたもののやはりそういう感覚は弱い。まぁ男だししっかりと見せられれば反応はするよな。
今もカルアとキスをしてムラムラとしてしまったのにそれを発散させることも出来ていないので、興奮するのは仕方ない。
「まぁ、同情で嫁に……なんてネネにとっても気分はよくないと思う」
俺がそう言うと、カルアは少し迷いながら口を開く。
「両想いでイチャイチャしながら結婚出来るのが一番嬉しいのは嬉しいと思いますけど、私は……ランドロスさんが私のことを好きじゃなかったとしても一緒にいたいですよ。ランドロスさんはそうじゃないですか?」
「……いや、まぁ……それはそうなんだが、全員が全員そうというわけでもないだろ」
プライドとか色々なものがあるように思う。特にネネはそういうことを気にしていそうだ。
「うーん、結局、ネネさんの気持ち次第ですね」
「そもそも俺の何がいいんだって思うけどな」
「言いましょうか?」
「照れるだろうからやめてくれ」
「やれやれです。あ、そう言えば夜から前に私の好きなところを言ってくれるって約束してましたね」
覚えていたのか……。てっきり、管理者が暴れたおかげでうやむやになったかと……。
果樹林の中で布を敷いて腰を下ろし、寒そうにしているカルアを軽く抱き寄せる。
「……全部好きじゃあダメか?」
「ダメです。具体的にどこをどう好きなのか言ってくれないと拗ねますよ」
拗ねたカルアも可愛いだろうからまったくもって脅しにはならないだろう。
「白くて柔らかい髪も綺麗な肌も優しげな蒼い瞳も、くりっとした目も、綺麗な唇も、シュッとした顔立ちも、俺に甘えてくれるところも、俺を甘やかしてくれるところも、仲間想いなところも、とても優しいところ……。言ったらキリがないんだがな……」
「えへへ、もっと欲しいです。私は褒められると伸びるタイプですからね」
「既に伸びきってないか? 救世主だろ」
「じゃあ、褒められると嬉しいタイプですからね」
「それは普通のやつだ」
ボリボリと頰を掻き、照れ臭さを感じながらもカルアの好きなところを口にしていく。
カルアは嬉しそうに身を捩って俺の言葉を聞く。
「……ん、顔や性格ばかりですね」
「声も好きだぞ」
「それだけですか?」
それ以外に何か……と思っていると、カルアが俺の腕を絡めるように持って、薄べったい胸をすりすりと俺に押しつけて、俺の反応を楽しむように顔を覗き込む。
「好きじゃないです?」
「……好きです」
「えへへ、よかったです。大人の女の人の魅力にやられてしまってないかと思ったので」
「……そんなにデレデレはしてはいないつもりだったが……してたか?」
「おっぱいに興奮してました」
「いや見せられたらそりゃ多少は……そもそも、あれ、なんで見せられたんだ? ご褒美?」
「いや、古傷を見せてランドロスさんを引かせるつもりだったみたいですよ」
ああ、古傷か……。そういえば結構あったな。
いや、普通に考えて突然服を脱がれても古傷よりも胸の方に目がいくだろ。
「……もしかしてネネって馬鹿なのか?」
「いや、今回のことに関しては間違いなくランドロスさんが悪いと思いますけどね」
「ええ、もし俺が突然脱いでも傷跡になんか目がいかないだろ?」
俺がそう言うと、カルアは「んー」と迷ったように言う。
「まぁ、その時が来たかと思って覚悟はしますね」
「覚悟はしなくていいが……普通にそうだろ」
「まぁ、女の子なんで傷跡は気になるんじゃないですか? 私も怪我をしたら跡が残るかは気にしますし」
「そんなものか……。じゃあ悪いことをしたな。胸ばかり見て」
カルアは迷ったように口を開く。
「まぁでも、傷だらけの身体にコンプレックスを抱いているんですから、それが気にならないって示せたのはよかったんじゃないですか? おっぱいを見過ぎだと思いましたけど」
カルアが俺の頰を抓る。
「……次は見ないように頑張る」
「また見る機会があるつもりなんですね。……ネネさんもお嫁さんにするなら裸を見るのも仕方ないのでいいですよ」
「いや、まぁ別に積極的にってわけじゃないけどな」
カルアが秋の夜風に冷やされないようにギュッと抱き寄せながら、ゆっくりとその頬にキスをする。
「もしそういうことをするなら、隣で見てていいです?」
「ダメだろ。それは。いや、する気はないけどな。する気はないけど、ダメだろ」
もっと前からそういうことをしたがっていたカルアの誘いを断って、他の女の子とそういう行為をするのは酷いだろう。
というか、言ってることが倒錯的すぎる。
「あー、本当にどうするかなぁ」
「適当にするしかないですよ。私が説得してもいいですけど」
「それは怖いからダメだ」
そんな話をしてからふたりで寮に戻り、静まりかえった寮の廊下で、俺達の足音に混ざって一瞬だけ鼻をすするような声が聞こえた。
「あー、えっと、ランドロスさん」
寮の廊下で、カルアは一歩俺より前に出て仕方なさそうに苦笑いを浮かべる。
「おやすみなさい。また明日」
「……ああ」
寮の廊下でカルアと別れて、俺は自分の顔を軽く張り手してからネネの扉の前に立つ。
トントンとノックしても反応がないことに眉をひそめながら何回もノックをする。
「……ネネ、起きてるか?」
返事はない。けれど、先ほど聞こえたすすり泣く声は間違いなくここから聞こえていて……。
「……扉、開けるぞ」
返事はない。
仕方なく空間拡大で鍵穴の中の空間を広げて、腕を突っ込んで鍵穴の中を弄って錠を開ける。
それから扉を開き、閉め切って真っ暗な部屋の中に入ると、暗い部屋の中、ネネの猫のようなふたつの瞳だけが部屋の中で浮いて見えていた。
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