第235話
カルアが俺の隣にポスリと座る。
少し気まずそうな表情をして……俺の方に目を向ける。
「……大丈夫なんですか?」
「管理者のことなら、一応手段がないわけでもない気もする。……結局のところ、人を食う化け物をどうにか出来たらいいだけだからな。カルア任せになるが、空間魔法でノアの塔のようなものを乱立させて化け物から隠れるとか……もしくは」
「その化け物を倒す……ですか?」
「ああ、まぁ難しいのは確かだろうが、決して説得出来ないわけじゃないはずだ」
ネネのだらりとした黒い尻尾と猫の耳を見て、頰を掻く。
「……まぁ、管理者のことはどうにかなる。俺達からするとアイツは敵だが、アイツからすると俺達は敵じゃないからな。それに、おそらく現実的に可能な代案があれば話を聞いてくれるとは……思う」
適当なことを、ネネが雑な慰めを言っていることは理解している。
その上、今ネネの抱えている問題からは目を逸らしていて最悪だ。
自己嫌悪をしながらも「お前って俺のことが好きなのか?」と尋ねることが出来ずにいた。
下手に口にして傷つけることは避けたい。そう思っていると、カルアがお茶に手を付けてからネネに言う。
「……ランドロスさんのこと好きなんですか?」
「……その男のことは気持ち悪いと思っている」
「気持ち悪いかどうかの話じゃないですよ。そりゃあ、私だって私よりも歳下の女の子にドギマギしてるのを見るとちょっと引くときもありますし」
……いや、好きな女の子にからかわれたらドギマギぐらいするだろう。
……ずっと気持ち悪いと言われていると流石に落ち込むな。
「……鬱陶しいと思っている」
「好きかどうかを聞いてます」
「……嫌いだ」
「好きかどうかを聞いてます」
「だから、嫌いだって……!」
ネネが怒りをあらわにしながら立ち上がり、カルアはソファに座ったまま口を開く。
「……嫌いでも好きなことはあるでしょう」
カルアの言葉を聞いて、ネネは目を逸らしながら言う。
「…………好きじゃない」
「じゃあ、なんでそんな様子なんですか」
「……うるさい」
「うるさいじゃないです。……本当のことを言ってくれないと、話が進まないです」
「……進ませる必要なんてないだろう。私は幸せになんてなりたくない。ランドロスも私のことは嫌いだろう。先生も嫌がるだろうし、マスターも良くは思わない。ヒモも嬉しくないだろう。誰も望んでいないことをなんでする必要がある」
「……いえ、別にランドロスさんに嫁ぐのをオススメしてるわけではないですけど。とりあえず、ハッキリさせないと色々とアレですから……」
ネネは俺の方を見て、ギュッと手を握りしめる。
「こ、こいつの前では言えない」
「……それ、ほとんど言ってるようなものでは……? えっと、じゃあ、隣の部屋で聞きますね」
カルアがネネの手を引いて隣の部屋に移動する。それからコソコソと何かを話したかと思うと戻ってきて、二人が俺の前に座る。
「……えーっと、ランドロスさんはネネさんのことをどう思ってますか?」
「どうって……」
好かれていると思っていなかったので何も考えていなかったというか……。そもそも異性として意識していなかった。
すらっとしたしなやかで長い手足や凛々しい顔立ちは一般的に美人というものなのは理解出来るが……。
異性として見られない。ネネのことは好きだがあくまでも友人や仲間としてであり、恋人や嫁というには……。
「……いいやつだと、思う」
そんな誤魔化す言葉を聞いたネネは気まずそうに目を伏せる。
「……ごめん。ランドロス」
ネネは俺から逃げるように走り出し、部屋からバッと出て行く。
「あっ、ネネさんっ!」
「追いかけて、こなくていい。部屋に帰るだけだっ!」
そんなネネの言葉を無視してカルアが追いかけていく。俺はそれを引き止めることも追いかけることも出来ずにいた。
一人部屋に取り残されて、ぐったりとソファにもたれかかる。……ネネに好かれているなんて考えたこともなかった。
……傷つけただろうか。元の関係には戻れないかもしれないな。
管理者のこともあるが……やはり仲間のことの方が心配だ。
……このままだとネネはギルドにい辛くなってしまうだろうし、ここを辞めてもいく場所がないだろう。
好きとか嫌いとか、そういうことは考えられそうにないが……ネネのことを思えば嫁にもらった方がいいのだろうか。
ハーレムがどうこうといった悩みはもう無視で構わないだろう。俺の印象や風評なんて元々ロクでもない物なわけで今更な話だ。
今はそういう気持ちにはなれないが、俺も動物のオスなわけだから若い女の子の身体を見たり触ったりしたら反応は出来るはずだ。……出来るか?
……いや、それが正しいのだろうか。そんな同情で交際したり結婚するのをネネが望むだろうか。
そもそも幸せになりたくないと言っているし、他の三人と同様に愛せるかも分からない。
頭の中がぐちゃぐちゃとしてきてしまい、カルアの茶を飲んで少し息を落ち着ける。
……なんで俺がモテているのだろうか。特にネネになんて常に悪口を言われたり、文字通り尻に敷かれたりしていた記憶しかない。
ネネからの想いなど迷宮鼠の誰かに相談出来るようなことでもなく、俺がちゃんと答えを出さなければならないだろう。
まず……優先順位を考えよう。今の三人は第一優先だ。次にネネとして、まぁ俺自身はどうでもいいだろう。
……ネネの好みは王子様とか言ってたし、カルアに頼んで兄弟を紹介してもらって……。いや、自分の人生を捨ててまで俺を庇おうとしていたな。そうなると代わりを用意したらということはなさそうだ。
……やっぱり後から異性として見れるようになるのを期待して結婚とか交際をすればいいのか?
いけるか? 俺はいけるのか? ……土壇場で「やっぱり反応しない」とかなったら余計に傷つけないか?
惚れ薬みたいな物がないだろうか。そういう便利な物があれば問題ないが……。
傷つけずにフるような方法はあるか? いや、そんな物があるはずないし……奇行をして嫌われるか?
そんなことを考えていると、カルアが部屋に戻ってきて俺の正面に座る。
「……大丈夫そうだったか?」
「……いえ、好意をバラされたことがよほどショックだったらしく……。人のことをヒモ呼ばわりはしてきますが、仲間想いの人ですから……とても気を使っているみたいで。あと、ランドロスさんが管理者に襲われたこともあって、取り繕うのも上手く出来ないみたいで……」
「……そうか。……悪い、カルアはどう思う?」
カルアは困ったように言う。
「幸せになりたくないというのは、多分本心かと。……それと横恋慕に強い罪悪感を覚えているみたいで……このまま放置していたら、思い悩んでしまいそうだなぁと」
「……だよな」
大切な仲間なので放置は出来ない。……クルルも似たような状況だったが、クルルには俺も反応出来たし、異性としての好意もあった。
……自分のことを信じて、ロリじゃなくてと反応すると期待するしかないか……?
もしもネネがここから出ていくなんてことがあれば最悪だし、上手くいくかどうかは後回しにして、ひとまず嫁にもらうべきなのか?
正解が分からない。
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