第207話
呼ばれたままに応接室に入ると、マスターと先ほどの男たちが向かい合って座っていた。
特別剣呑な雰囲気ではないけれど微妙な空気を感じる。
マスターは慣れた様子で俺を迎える。
「あ、ランドロス、ごめんね呼び出して」
「あー、何か用…………ですか?」
一応、上手くはないが敬語を使って返事をするとマスターがぽすぽすとソファの隣を叩く。
座れという指示だろうと判断して隣に座り、チラリとマスターに目を向けると、彼女は普段よりも凛々しくしっかりとした表情で口を開く。
「おおよその話は終わったんだけどね。一応は視察って形だからギルド員からも話を聞きたいって」
ああ……シルガの話ではないのか、よかった。
「……俺でいいのか? ……ですか? 俺よりもギルドの内情について詳しい人はたくさんいると思いますが」
「ああ、うん。むしろ私みたいに産まれたときからここにいたら変なところとかには気づきにくいからね」
「変なところって……」
目の前のロリギルドマスター以上に変な存在はいないと思うが……。
と思っていると、目の前の一番豪華な服の男が俺の方に握手を求める。
「一応、ギルドの管理をさせてもらっているものだ。【異空】のランドロスだったかな。この前の魔物の侵攻からの復興作業には感謝している」
「え、あ、ああ、はい」
一瞬マスターに目を向けると頷いたので握手をすると、男はほんの少し不思議そうな表情をして、マスターが説明をしていく。
「ああ、ランドロスは別の国から来てから日が浅いので、人間と握手をしたりすることには慣れていないんです」
「ああ、そういうことか。……まぁ失礼なことを聞いていくことになるけど、気にしないでもらえると助かる」
俺が頷くと男はいくつかのことを聞いていく。
ギルドの雰囲気、俺の収入、復興の手伝いは誰の指示によるものか、この国の雰囲気、迷宮内であった事件について、と色々と聞かれて、特に隠すことなく答えていく。
「ふむ……やっぱり珍しいギルドで話を聞くのは面白いな」
「……そんなに珍しい感じなんですか?」
「まぁそうだな。ギルドと一言で言っても色々な形態があるが、ここはここでほとんど全てのことが完結しているからな」
「……はあ、そうなんですか」
「じゃあギルドの中も見ていっていいかな?」
「はい。案内しますね」
マスターはそう言ってから近くに控えていた、いつもは受付をしている女性を呼ぶ。
それから男達は彼女についてぞろぞろと移動していく。
「ごめんね、急に呼んで。大丈夫だった?」
「大丈夫だが、なんで俺を呼んだんだ?」
「最近入った人の方が良かったの」
「カルアは?」
「……私がカルアを呼んでくる状況を考えてみて」
「それはかわいい……。ではなく、まぁ……そうだな」
美少女ふたりと密室というのは、あまり良くないだろう。普通の男だったらどちらかを好きになってしまう。
「……いや、多分ランドロスが考えているようなことじゃなくてね。子供ふたりって何言っても説得力に欠けるから」
「ああ、そういうことか」
まぁ、俺はマスターが歳の割にしっかりしていることやカルアが救世主系女子なのを知っているが、他のやつは知らないからそうなるな。
「まぁ、基本的には税金関係だから心配しなくて大丈夫だよ。今回は……一応ランドロスの人なりを知るというのもあったみたいだけど」
「ああ、そうか。多少目立っていたからな」
「私は、ランドロスが優しいことを知ってるけどね」
クルルが甘えるように俺の胸にぽすりともたれかかり、目を閉じる。仕方ない奴だと思いながら、その小さな唇に顔を寄せて──。
「ああ、すまない。どうやらペンを忘れてしまったようで……」
マスターからバッと離れて目が合う。
「……」
「……」
「…………あ、ペンですね。え、えっと、あ、机の上に」
マスターはとてとてと歩いてペンを手に取り、男に渡してからとてとてと俺の方に戻ってくる。
「……」
「……」
微妙な空気が広がってから扉が閉じて男が出て行く。
「……あれ、バレてないと思います?」
「いや、バレてはいると思うが……」
「……ですよね。バレますよね。バレないわけがないですよね」
「やっぱりまずいのか?」
「い、いえ、別にギルドマスターとそのメンバーの恋愛だなんてさして珍しいものでもありませんので……。年齢に差があるのがちょっと引かれただけだと思います」
「あと……こんなところでキスしようとしてたことだな」
「それも……問題にはならないので……。バレてめちゃくちゃ恥ずかしいだけですね」
そうか、めちゃくちゃ恥ずかしいだけか。
ならセーフだろうか。……とりあえず、恥ずかしさで慌てているクルルがかわいい。
頭を撫でていると、クルルは不満そうに俺の腹をつつく。
「……ランドロス、今日迷宮いくの?」
「ああ、昼からな。……一応、商人とカルアを連れた三人で」
「変なパーティだね。……じゃあ、その……また、イチャイチャ出来ないから。ね?」
ギュッと抱きしめられて、顔を上げてこちらを見る。さっき失敗したばかりだが……まぁいいかと思って、その唇に唇を押し当てる。
カルアやシャルにしたような舌を入れるキスは出来ないが……それでもクルルの好意が強く感じられて心地よい。
「……えへへ」
「……ギルドの中でするのはこれで終わりにしような」
「えっ、で、でも……その、したくなったらどうするの?」
「……夜にしよう」
「夜だけじゃ我慢出来ないよ」
「じゃあ、朝も」
「……そ、それなら……でも、毎日ね?」
俺が頷くと、クルルも満足したように俺の方に体を寄せてから立ち上がる。
「じゃあ、またね」
「ああ、俺も戻るか」
またシャルが困っているかもしれないしな。
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