第202話

 それにしてもペットか……。

 シルガ、どういう気持ちだったのだろうか。

 やっぱり、俺のクルルに惚れるぐらいだったのでロリコンだろうし、喜びながらペットをしていたのだろうな。


 ミエナが小声で「羨ましい」と呟く。

 ……女性の好みは似てるけど性癖に細かい違いがあるな。俺は飼われたくはない。むしろシャルとかを部屋で飼いたい派である。

 あと、カルアを好き勝手に動かないように鎖とかに繋いでおきたい。間違いなく何らかの方法で抜け出されるだろうけど。


「……キミカちゃん、シルガがいなくなって寂しい?」

「……うん。少しは」

「……私がシルガの代わりになろうか?」


 何言ってんだこいつ。

 キミカは微妙そうな表情をミエナに向ける。


「え、ええ……」

「……あー、友人になりたいって意味らしい。ミエナ、少し言葉足らずなことがあってな」

「あ……と、友達……ん……でも、その、それはこの街では許されてないから」

「……ペットは?」

「ペットはセーフ」


 いや、むしろアウトだろ。道徳的にダメだろ。


「……そ、そっか。友達……ダメかぁ」


 ミエナはフラれたと思ったようで、小さく微笑むような表情をするが、とても辛そうだ。


「……シルガからギルドについて聞いたか?」

「ギルド?」

「ああ、この塔の中を探索する人の寄り合いみたいな組織でな」

「……ううん、聞いたこと、なかったな。……ここ、塔なの?」

「ああ、良ければまた見にくるか? ……とは言っても、時間ないか」

「……ううん、見てみたい」


 あまり良くないことなのだとは分かっているが……ミエナが辛そうなのは嫌だし、キミカも寂しそうに見えた。

 少し連れて歩くぐらいは大丈夫だろう。


「ミエナ、案内とか頼めるか?」

「え、う、うん! もちろん!」


 嬉しそうに返事をしたミエナの長い耳の近くに口を寄せる。


「変なことはするなよ? あと、絡まれる可能性もあるからしっかりしろよ?」

「う、うん。ありがとう」

「あと、キミカも同性に興味を持てるとは限らないからな。むしろ可能性は低いからな?」

「う、うん。分かってる」

「同性に興味があっても普通にフラれる可能性もあるからな?」

「うん。大丈夫」


 真面目に上手くいくとは到底思えないんだよな。応援はするし、お膳立てはするが……。一応、ミエナが変なことをしないように二人が出かけるときに後ろから尾行した方がいいだろうか。


 あとフラれたミエナを慰める会ぐらいは開いてやるか……。

 クルルが慰めたらまたクルルの方に来てしまいそうなので、この前の小人の子が接客してくれるお店に行くか。メレクも連行して。


 多少話してこの街の地図のようなものを書いてもらって、キミカが眠たそうにし始めたので帰ることにする。


 最後に数ページ読んでから閉じて、不意に……多少事情を知っていそうな人物を思い出す。

 魔王とは迷宮から出てくる、と、聖剣が言っていて、実際にシルガは迷宮から出てきていた。


 ……もしかして、俺に力を分け与えてくれていた魔王も知っているのではないだろうか。


 頭の中で「魔王、いるか?」と声をかけてみるが反応はない。……まぁ、いるわけがないか。そんなので反応するようだったら怖い。


 そう思いながらミエナと二人でギルドに帰り、他に人のいないギルドの中でギュッと手を握られる。


「あ、ありがとうランドロスっ!」

「……あんまり期待するなよ? 多分、シルガとそこそこいい感じだった……というか、シルガの方は興味なさそうだが、キミカの方は……多分好きだったんじゃないか?」

「……そうかもね。とりあえず、嬉しいのは嬉しいから、ちょっとお酒でも飲んじゃおっかなぁ」


 そう言ったミエナは上を向く。


「ネネも飲む?」


 真っ暗な上から降りてきたネネは寝巻きの薄手の白い着物を着ていた。


「何で寝巻きなんだ?」

「……マスターにお前がいないからと、パジャマパーティとやらに誘われた。お前の話題ばかりで不快だったから逃げてきた」

「ああ、なるほど……どんなこと話してた?」

「言うか、馬鹿。……酒を飲むのか。……まぁ、今日は付き合うか」


 真ん中の木の下にある席に座り、俺がランプと酒とグラスとつまみになりそうなものを取り出す。


 明かりが付いたことで、ミエナもネネの格好に気がついたのかワタワタと動く。


「ね、ネネ、男のランドロスもいるんだから、その格好は……」

「どうかした?」

「え、えっちじゃない? ね、ランドロス」

「俺は気にならないが……」


 ミエナ、見境ないな。ロリじゃないのに。

 ……いや普通は薄手の寝巻きだったら気にするものか?


 特にネネは着替えるつもりもないようなのでそのまま酒を飲む。


「あー、美味しい。いい趣味してるね、ランドロス」

「あまり飲み過ぎるなよ?」

「ランドロスはもっと飲みなよ。この前も全然飲んでなかったし、うりうり」

「……酒で失敗してるからなぁ」

「カルアに飲まされたときのこと?」

「ああ」

「……わりと普段通りだったと思うけど。ネネもはい、どーぞ」


 そういえばあのときもネネはほとんど飲んでいなかったな。

 ……ネネが酔うような姿は想像出来ないな。いくら飲んでもけろっとしてそうだ。


「……そう言えば、結婚式とかはいつするんだ」

「あー、それなぁ。シャルが元いた孤児院の奴等に見せたいらしいんだけど、今は行く道がな」

「ああ、続々と来ていて色々と難しそうだな。出入りもかなり厳しくなってきているしな」

「俺は衛兵には多少信用もあるが……小さい女の子に関しては何故だか全くと言っていいほど信用がないからな。不思議と」

「私もそうなんだよね。不思議なこともあるもんだよね」

「いや、衛兵はただ仕事をしてるだけだと思うが」


 俺は三人が好きで仕方ないだけで、別に他の女の子に手を出したりしていないのに。

 ネネは他に人がいないという状況だからか、珍しく落ち着いた様子でごくごくと酒を飲んでいく。


「そう言えば、サクさん子供出来たかもって」

「……えっ、マジか。めでたいな。メレクも言ってくれたらよかったのに。というか、そんなときに連れまわしてしまったぞ、俺」

「あ、そんなにアレじゃないよ。可能性があるだけらしいから」

「そ、そうなのか?」

「うん。出来てたら二ヶ月ぐらいだって」


 女性や子供のあれこれは分からないが……。メレク、俺が結婚したことを報告しなかったことは不満そうにしていたのに、自分は話さないのか。


「めでたいことだな。そうか……あのメレクが父親か」

「どの立場から言ってるの、ランド」

「いや、友人として」

「あんまり言いふらしたりしないようにね。勘違いかもしれないから」

「ああ、分かった。……そういや、ネネは白馬見つかったか?」

「……何で馬を探していると思った?」

「間違えた。王子様に跨った白馬だ」

「ランドロス、お前もう酔っているな。……あんなの適当に言っただけで、別に本気じゃないぞ」


 そうなのかと思いながらミエナに勧められるまま酒を飲んでいると、ミエナが「あっ」と口を開く。


「そう言えば、明日、国の人がギルドの視察に来るらしいよ?」

「視察? ……あ、まずいな。商人を呼んでる。アイツがいたら面倒なのが同時にきてすごくめんどくさい」

「むしろ普通に人が出入りしているのは開放性があるから印象もいいんじゃない?」


 どうだろうか。

 そもそも何でギルドを見に来るんだろうか。最近目立つことが多いからだとしたら……俺がいた方がいいのか?

 まぁ、何でもいいか。

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