第198話

 ふたりで入った布団の中、シャルのスベスベとしたふとももに手が挟まれて、細身ながら柔らかい不思議な感触に夢中になってしまう。


 寝られないのに夢中……というしょうもないことは頭に浮かばず、シャルの方に目を向けると顔を真っ赤にした彼女がポツリと口にする。


「……そ、その……触っていただいて、いいです」

「い、いいのか? ……いや、違う。どうしたんだ、こんな」


 思わず何も考えずにシャルの脚を触りまわしてしまうところだったが、咄嗟に正気に戻って尋ねる。


「……そ、その、さっき怒りすぎてしまったので、落ち込んでいるかもと……」

「いや、さっきのは明らかに俺とカルアが悪かった。……さ、触りたいが、そのな……無理に我慢する必要はないぞ」

「いやなのに、触らせてるわけじゃないです。……恥ずかしいだけで、触り合うのは、好きですよ。その、ちゅーも好きですし……」


 顔を赤らめて、スッと俺の方に身を寄せる。馬鹿みたいに広いベッドの上だというのに、ひとり用の狭いときと同じような状況になってしまう。


 ゆっくりと手をシャルのふとももの間から引き抜くと、ぴくりとシャルの体が動く。


「あ、あの……」

「別に、無理に二人に張り合わなくていいんだぞ?」

「そ、そういう、張り合うというわけでは……」


 シャルはそう言ってから、ぽすりと俺の胸に顔を埋める。


「……やっぱり、ほかの女の子とイチャイチャしてるランドロスさんを見たら「僕もそれをしたい」とぐらいは、思ってしまいます」

「……えっと、したいのか?」


 舌を入れるようなキスをしたいということだろうか。

 俺の問いにシャルは答えるようなことはせずに顔を真っ赤にしたままギュッと俺の身体を抱きしめて、言い訳をするように小さな声を呟くように言っていく。


「そ、その……夫婦でするのが普通でしたら、僕もその、妻としてするべきかと思うわけでして……。決して、あのような行為に興味があるわけではないというか……」

「……したくないなら無理にとは……」


 と、俺が口にしてすると、シャルの手がギュッと俺の服を摘まみ、潤んだ瞳を俺の方に向ける。


「い、意地悪、言わないでください」


 意地悪を言ったか? いや、言ってないよな。全く言っていないはずで……。

 恥ずかしそうにしているシャルを見てやっとその言葉の意味を理解するが、あまりに可愛いせいでもう少し恥ずかしがっている姿を見ていたいと考えてしまう。


「意地悪?」

「……わ、わかっていて、言ってません?」

「全然?」

「わ、分かってますよね? ……その、意地悪、嫌です」

「悪い。可愛くてな」

「ご、ごまかされたりしませんから。ん、んぅ……」


 薄く赤く色づいた頰が俺の方に向いて、甘えるように俺に体が擦り付けられる。自覚しているのか、それとも自覚もなく本能的にしているのか、薄くも小さくも幼くもそれで微かに女性らしい柔らかさのある身体。


「……なんだ、ランドロスさんもドキドキ、してるじゃないですか」

「当たり前だろ。好きな女の子と引っ付いているんだから」

「……ちゅーするのも、緊張しますか?」

「ああ」

「……さっき、脚を触ったの、どうでした?」


 今度はシャルが悪戯な表情を浮かべて、反応に困っている俺の頰をふにふにと突く。


「……き、キスをしたいんじゃなかったのか?」

「そんなこと言ってないですよ? ……したかったんですか?」


 や、やり返してきた。

 俺が「そんなことはない」と言えば「じゃあ、しなくてもいいですか?」と言い返される。したくないと言えば言い勝てるかもしれないが、それでしないようになってしまうのはとても辛い。


「それは……まぁ、したかった……けど」

「えへへ、じゃあ、脚触るの、どうでした?」

「……い、いや、言わないとダメか?」

「言わないとちゅーしてあげないです」

「……いや、その……柔らかくて、スベスベしていたな、と」

「……どうでした?」

「……いや、それは……緊張していたせいで、あまり……」


 シャルの手が俺の手を再び握って、自分のふとももに当てさせる。俺をからかいつつも羞恥を感じているのか、手に重ねられている手や俺の手が触れているふとももが熱くなっていく。


「どう、です?」

「ど、どうと……言われても」


 いつもは膝丈よりも下にあるシャルのスカートが布団の中でめくれ上がっていることが腕に触れることで気がつく。


「嬉しいです?」

「……嬉しい、けど」

「えへへ、そうですか」


 シャルは俺を誘惑しているという事実に気がついているのだろうか。手が導かれて、ゆっくりとスカートを持ち上げながら上がっていき、見えないので正確には分からないが、おそらく下着のすぐそばにまで手がやってくる。


 親指の先に、微かに柔かい布地の感触を覚える。

 指を微かに動かすとスカートの布とは違うことに気がつく。


「す、好きに触ってもいいですよ?」


 シャルの言葉を聞いて柔らかい布の上に指を這わせて、布の下に隠された柔らかい臀部の感触を指先に感じて、シャルの潤んだ瞳と真っ赤な顔に手を止める。


「……お、お尻は、ダメです。脚の話です」

「……わ、悪い」

「……ランドロスさん、胸が好きで、脚が好きで、お尻も好きって……どこもかしこもですね」


 ゆっくりと手を下ろして脚をすりすりと触りまわしていくと、シャルはこそばゆそうに身を捩る。

 シャルは布団の中でめくれたスカートを戻そうとしているが俺の手が邪魔になって戻し切れていない。


 俺の吐息もシャルのくぐもった声を少しずつ大きくなっていき、不意にシャルの顔が俺の方に向けられる。

 俺の服をちょいちょいと摘んで、目を閉じて俺の方に唇を向ける。


 いつものように唇を付けて、ゆっくりと離す。それからまたくっつけて離して、と、いつものついばむようなキスをしていると、シャルはキスをしながら、また、くいっと俺の服を引っ張った。


 向き合って寝るような体勢から、押し倒すような体勢に変わって、唇で柔らかい唇を開かせて、ゆっくりと舌先をシャルの唇に触れさせる。


 シャルは不思議と唇を少し動かしてはむはむと俺の舌先を唇で甘噛みして、それからツンツンと舌先同士を触れさせ合う。


 中に入れようとすると、シャルの舌をぶつかって思わず舌を引かせる。そうするとシャルの小さな舌が俺の唇をペロペロと舐めて、それからゆっくりと俺の口の中に入れていきすぐに舌を抜いて、キスを中断する。


「……あ、あの、その」


 シャルは顔を真っ赤にしながら俺を見つめる。


「どうかしたのか?」

「こ、これ、ちょっと、その、えっちな行為なんじゃ、ないでしょうか?」


 ……今更じゃないかと思いながらシャルに尋ねる。


「……なんでだ?」

「な、なんでって……そ、その、き、気持ちいいじゃないですか。男女でする気持ちいいことって、エッチなことですよね?」

「……ま、まぁ……わりと、そうかもな」


 もうしてくれないのだと思っていると、シャルはもう一度俺の方を見て指先で俺の服を引いて俺を誘う。

 ……性的な行為であるとわかってもさせてくれるのか。

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