第195話
「ランドロスさん、これからどうしますか?」
「写真を撮りに行くのと……一度ギルドに戻って食事を取るぐらいか? あまり長居する予定はないが一応、夕方から…」
「写真?」
「ああ、昨日、カルアとシャルが写真を撮ってきてな。せっかくだから、これからアルバムにしておこうかという話で……」
クルルに答えると、クルルはちょんちょんと俺の服の裾を引いて背伸びをして俺の方に耳を近づける。
「あ、あの写真を他の人に見せるのはダメだよ?」
「分かってる。というか……見せられるわけないだろ」
「な、ならいいけど。……お昼に一度戻るなら、お昼からは仕事しようかな。ランドロスも夕方から動くなら一度仮眠したら? 昨日、そんなに寝れてないよね」
クルルに提案されて、一応カルアとシャルに目を向ける
「いいと思いますよ。無理をして体を壊すのも良くないです。まぁ、引越し作業をすることになるので、そんなに長い時間は取れませんが」
「ああ、荷物を移すのにも時間かかるか」
「普通よりかは早いと思いますけどね」
もうちょっとデートを楽しみたかった。
シャルに甘えてカルアと楽しく話してクルルにドギマギとさせられて……としたかったが、まぁ仕方ない。
また幾らでも機会はあるだろうしな。
カルアとシャルが行ったらしい写真屋に行くと、愛想の良いおばちゃんに迎えられて、カルアが色々と話してからすぐに写真を撮ることになった。
手慣れた様子で変な道具を並べていき、椅子を前に置く。
「こういうのは私も初めてだね。ギルドで撮るのはだいたいミエナがしてたから」
「ああ……まぁ、そうだな、これからいつまで保つかは分からないけどな」
今は復興やら何やらで仲良くなったが、ほとぼりが冷めれば少しずつ元に戻るだろう。完全に元に戻ることはないとは思うが、これぐらい普通に出歩ける状況が続くとも限らない。
「ん……まぁ、でも、大丈夫だと思うよ。ほら、なんだかんだで国のお役人さん達は元々そんなに気にしてなかったし、長く住んでる人は気にしてないから。これからもちゃんと助け合っていたら、大丈夫」
そうだろうか。……まぁ、そうだといいな。
お手本をするようにカルアがちょこんと座って、パシャリ、パシャリと写真を撮られる。続いてシャル、クルルと撮っていき、その様子をぼーっと見ているとカルアに手を引っ張られる。
「えっ、いや、俺はいい。見返しても楽しくないしな」
「私が後で見てニヤニヤしたいんです。ほら、座ってください。髪も整えて……」
ペタペタとボサボサの頭を直そうとするが、どうにも治らないらしくわしゃわしゃと撫でてから俺の前から離れる。
「撮りますよー」
そう言われるが、どうしたらいいのか分からずに前を向いていると、カルアがパタパタと動いて「ほら、笑ってください」と俺に指示をするが、普段からだらしなく鼻の下を伸ばす以外の笑みなど浮かべたことはないので上手く笑みを作れない。
「不器用ですかっ! 普段もうちょっと柔らかく笑ってますよ!」
「そ、そう言われても……」
「変顔してあげましょうか?」
「やめろよ。せっかくの可愛い顔を……」
無理矢理頰を上げて笑ってみせるが下手くそらしく、シャルが仕方なさそうに俺の方を見て笑う。
それに釣られて少し口角を上げた瞬間、パシャリ、と音が鳴る。
「まったく、やれば出来るじゃないですか」
「……出来てたか?」
「バッチリです。三十点です」
「それはバッチリじゃないな。かなり点数低いよな」
「じゃあ、四人で撮りましょうか。あ、そのあと二人でも撮りたいです」
「……俺、自分の写真なんて見たくないんだが」
「ワガママ言わないでください。まったく」
ぽすぽすと頭を叩かれて四人で写真を撮る。俺を中心にして三人がべったりとひっついているという状況で、写真を撮っているおばちゃんも少し苦笑いを浮かべていた。
「お兄さん色男ですね」
「……そうでもないと思う」
「あはは、モテモテじゃない」
ああ、俺が三人ともに手を出しているとは思っておらず、三人の引率に連れてきたと思われているようだ。
まぁ事実を知られるよりかはいいと思って苦笑いを返しながら頷き、三人と順番に二人での写真を撮っていく。
「カルア、このカメラと写真ってどういう仕組みなんだ?」
「普通に魔法ですよ。かなり昔に迷宮で落ちていたものを真似して作ったそうです。かなり複雑というか、真似は出来ても仕組みはほとんど分かっていないみたいなので時間があったら研究してみようかと思ってます。あ、前に植物魔法を教えた人のところの中心的な商品なんですよ」
へえ、と感心していると、封筒に入った写真を渡されて四人でそれを眺める。
カルアはお行儀よく座っていると、やはりお姫様だなと思わされるぐらいには気品がある。まぁ普段が奇行や変な発言が多いせいで少しアレなだけで、やっぱりとても顔が整っていて綺麗だ。
シャルも温和で優しく母性のあるのが見ているだけで伝わってくるし、落ち着いた服装でも隠しきれないほどの可愛らしさと魅力が溢れている。
クルルの写真を見ようとした瞬間、クルルにパッと取りあげられる。
「あ、おい、どうした?」
「……あ、えっと……見比べられたら、その……二人ほど可愛くないかと思って」
「そんなことないと思いますよ。僕よりも美人さんです」
「クルルもめちゃくちゃ可愛いと思っているが……」
容姿に劣等感でもあるのかと思ってからカルアとシャルを見る。めちゃくちゃ可愛い。
「……クルル、分かるぞ。二人ともめちゃくちゃ可愛いもんな。……でもな、クルルもめちゃくちゃ可愛いからな」
「く、比べたりしない?」
「ああ……というか、改めて見返すと……俺、あれだな」
四人で撮った写真を見る。三人ともめちゃくちゃ可愛いのに、俺はアレだな。全然可愛くない。いや、当然だけど、きゃぴきゃぴした雰囲気から浮きまくっている。
「カッコいいですよ?」
「……ありがとう」
まぁ、容姿なんて割とどうでもいいしな。三人の容姿は好きだけど別に美人でなくても好きになっていただろうしな。
シャルに求婚したときも、虫刺されと飢餓でひどいことになっていたけどめちゃくちゃ好きだった。
多分三人もそんな感じなのだろう。そもそも、好かれたのは仲良くなってからだったので、別に顔が好きだったというわけでもないだろう。
好きな人の顔だから好きになるというか……。
写真をみんなで見たあと、異空間倉庫の中にしまってギルドに戻って四人で食事をする。
それからクルルとは一度別れて、寮の管理人から鍵を受け取り、引っ越しの作業を開始した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます