第146話

 ランドロスさんクイズ……?

 なんだ、ランドロスさんクイズとは。


「……ほう、ランドロスさんクイズですか」

「ん、まぁ、それでいいならいいけど。シャルは一番最初に出会ったと言っても一緒にいた時間は少ないし、カルアは自分のことを話したがるから、聞き手になることが多い私が一番有利だね」


 まずランドロスさんクイズというものが何かを教えてもらいたい。

 こそこそと隣にいたカルアに尋ねると、どうやら俺がいない間に俺についての情報共有と自慢のし合いも兼ねてクイズ形式で遊びながらやっていたらしい。


 今回の場合、一人ずつ順番に俺についての問題を出し合い、出題者を含めた三人全員が紙に書いて解答し、俺が正解を付けていく。二巡して合計六問のうち一番正解数の多いものが勝ちらしい。


 ……えっ、こんな遊びみたいなノリで決めていいのか? と思ったが、本人達が納得するならそれでいいか。


「ランドロスさんへの愛を測る真剣勝負です。自分の番には他の二人が分からないランドロスさんの秘密を暴露するわけですね」

「……えっ、俺だけダメージを負わないか? それ」

「では、私からいかせていただきます」


 ……無視? えっ、俺への愛を測る勝負の途中で俺を無視……?


「では、第一問です。……ランドロスさんの本名はなんでしょう」

「……えっ、あっ……な、長すぎて覚えてない……。いや、聞いたことはあるから、なんとか思い出せば……」


 クルルは困ったように俺の方をチラチラと見る。

 まぁ俺もうろ覚えなぐらいだから仕方ない。


 三人は書き終える。出題者のカルアは当然正解の『ランドロス・ヨグ・ウムルテルア・マテリアト・アブソルト・ネル・ソトース・フォート・ネスボイド・ルィウタ・マリス』と書いており、シャルも迷った様子はあり、何度か書き直しているが正解していた。


 一番外れていそうなクルルの方に目を向ける。クルルの持っている紙には『ランドロス・アミラス』と書いてあった。

 ……クルル、こいつ、分からないからと力技で俺を婿養子に来させることで解決しようとしている……!


「……ええっと、カルアとシャルが正解で」

「えっ、い、いや、コレを正解にしない?」

「婿養子に入るのは別にいいけど、少なくとも現在の名前はそれじゃないだろ」

「くっ……」


 まぁ、普通は一度や二度見聞きしただけでは覚えられないよな。

 カルアは勝ち誇りながらも、シャルも正解するとは思っていなかったのか少しだけ悔しそうにしていた。


「じゃあ、次は私が問題を出すね。……絶対に他の二人が知らなくて、私だけが知ってること……。ランドロスは身体を洗うとき何処から洗う?」

「……待て、クルルはなんでそれを知ってるんだ」

「……か、風の噂で」

「そんなことが噂になって堪るか。どんな変なところから身体を洗い始めたら噂が立つんだよ」

「と、とにかく、覗いたわけじゃないから」


 覗かれていたのか。……いや、いいんだけど、別に、見せてと頼まれたら見せるし、問題はないんだけど……。

 俺がそう葛藤していると三人は書き終える。


 シャルは『頭』と書いていて、ふたりは『左腕』と書いていた。


「……カルア?」

「……ふふ、ここまでは私だけ二問とも正解で一歩有利と言ったところですね」

「カルア?」

「では、シャルさん、問題をどうぞ」

「カルア? おい、聞いてるのか? さっきから無視は酷いぞ。魔族汁出すぞ」


 ……そんなに俺の風呂が見たいなら一緒に入ればいいんじゃないだろうか。カルア達も俺の裸が見れて、俺もカルア達の裸を見れてお互いに得である。


 俺から目を逸らしているカルアをジトリとした目で見るシャルは「おほん」と咳き込んでから問題を出す。


「……では、ランドロスさんの一番好きな食べ物はなんでしょうか」

「へ? そんな簡単な問題でいいんですか? いつもギルドで一緒に食べているから簡単ですよ?」


 シャルは自身ありげに頷き、三人それぞれ解答を書いていく。


 カルアとクルルはそれぞれ『お肉』『羊肉』と書いており、シャルだけ『リンゴ』と書いていた。

 クルルはシャルの解答に小さく首を傾げる。


「ギルドにもリンゴのデザートはたくさんあるけど、ランドロスが注文したところや食べてるところは見たことないけど……」


 まぁ、俺はだいたい肉を中心にして食べていて、確かにその中でも羊肉は好みの風味であるし、甘いものを自分から食べることはあまり多くないが……。


「……まぁ、一番というなら、シャルが正解だな」

「へ? な、なんでですっ?」


 カルアが不満の声をあげて、シャルは少し自慢げに「ふふん」と笑う。


「……あのですね。僕とランドロスさんの出会いは、森でランドロスさんに果物を食べさせてあげたところからなんです。その果物がリンゴなんですよ。よく食べるから一番好きというのは安易な考えでしたね」

「ぐ、ぐぬぬぬ……ず、ずっこいですね。ま、まぁ、今のところは私とシャルさんで同率で一位。悪くない状況です」


 シャルは「覗きを働いていた人にずっこいとは言われたくないです」と言いながら俺の肩に身を寄せる。

 シャルはいちいち言うことが正しいな。


「……ふむ、まぁここは私も大人げなくいきましょうか。第四問です。ランドロスさんの一番好きな女性の部位は?」

「……それ、俺自身把握していないんだが」


 ……おっぱい? いや、お尻……。いや、うなじとかも好きだな。俺自身把握していないものを問題として出されても……。


 そう思っているとクルルから順に発表していく。『恥ずかしいところ』…………どこだよっ! いや、分かるけどっ! 男なので当然ながら好きだけどっ! ……くそ、でも外れてはいない気がする。とてもとても興味がある。


 シャルの方を見ると『おっぱい』と書いてあった。


「……俺ってそこまで性欲に負けてる印象あるのか?」

「えっ、せ、性欲と言いますか、その……甘えんぼさんなので、そうかなって」

「……まぁ、甘えたいのはそうなんだけど」


 シャルにまでえっちな男と思われているのかと思った。

 カルアの方を見ると『心』と書いてあった。

 …………えっ、それは卑怯じゃないか? この場でそれを正解にする以外の手があるのだろうか。


「……じゃあ、カルアが正解で」

「ええっ、ず、ずるいですっ! 身体の部位のことだと思いますよっ!」

「ずるくないです。世の中というのは厳しいものなんです」


 カルアは勝ち誇る。クルルはもう引き分けか負けが確定していたが、あまり気にした様子ではなさそうだ。

 まぁ、元々俺とシャルが結婚すると決まっているときから交際が始まったので元々諦めがついているのだろう。


 クルルはパチパチと瞬きをしてから口を開く。


「……じゃあ、んー、そうだね。一応引き分けからの延長戦を狙ってみようかな。絶対に知らないことを言おうかな。……ランドロスが迷宮鼠に入るのを誘ったふたりは誰?」


 ……お、大人げない。あまりにも。正解出来るはずがない。


「……ふたり組でランドロスさんをスカウトしたんですか。……ランドロスさんは案外人見知りですし、多分今も結構交友がある仲のはず……」


 カルアはそんな推理のしようもないはずのことをぶつぶつと言って考え始める。

 シャルは目を閉じてむむむっと眉を顰める。


 まずクルルが答えである『ミエナとメレク』という紙を見せた瞬間、カルアがベッドの上で「やったー!」と飛び跳ねる。


「や、やりました! 理不尽なクイズに勝ちました! コレで私の四問正解! 優勝です!」


 カルアが投げ出した紙には綺麗な文字で『メレクさんとミエナさん』と書いており、間違いなく正解していた。

 シャルは『マスターさんとミエナさん』と書いていて、間違えである。


 残るのはあと一問で、シャルとクルルは二問正解、カルアはこの時点で四問正解なので、最後の問題がどうであろうとカルアの勝ちが決まった。


 カルアは俺にべったりと張り付いて、すりすりとした後、満足そうに「ふぅ」と息を吐いた。


「……まぁ、それはそうとして、シャルさんが一番最初でいいと思いますよ。そんなに順番にはこだわっていなかったので」

「……へ……いいんですか!?」


 涙目になっていたシャルは驚いてカルアを見る。


「はい。元々横恋慕で申し訳ないと思っていましたし。それに私……シャルさんのことも大好きですからね」

「か、カルアさん……! 僕もカルアさんのこと大好きですっ!」


 ……じゃあなんでこんな茶番をした。喉の奥から出かかった言葉を俺は飲み込んだ。


「あ、私は最後でいいよ。というか、ギルドのみんなにランドロスと交際してることとか伝えてないのに結婚するわけにもいかないから、現実的に一番最後になるしかないしね」


 ……じゃあなんでこんな茶番をした。

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