第144話
カルアとマスターは昼の間はずっと忙しく動いていて、俺はギルドの中に生えた木の下の床を修繕していく。
シャルもカルアの手伝いでたくさんメモを取っていたりとしていく。
ミエナとイユリはカルアが購入した土地に果樹をたくさん植えにいくらしい。
「そう言えば、野菜じゃなくて果樹なんだな」
「ええ、まぁそうですね。んー、予定ではもっと時間があったので、技術者をたくさん育ててから本格的な軌道に乗せるつもりだったんですけど、とりあえずの食料の大量生産が必要なんで」
カルアと話しながら割れた床を綺麗に切っていく。
木の周りの床を完全に塞いだら、木が育ち幹が太くなった時に壊れるか。いや、でも隙間があると子供が落ちるかもしれないしな。
……うーん、どうすべきか。若干の隙間を持たせるだけに留めて、落ちないことを優先しておくか。
「大量生産ならそれこそ幹とかがある分、食えるところが少ない果樹よりも野菜の方が魔力の効率がいいんじゃないのか?」
「果樹なら私達の手がなくても、木さえあれば新しいのが生えてくるので別の人に任せられるじゃないですか」
「……まぁ季節にもよるけど、そうか」
「道具とやり方を与えてという安易な道もありますが、結局はそれだと道具の生産を私が担うことになりますし、道具が争いの種になるだけですからね。ちゃんと理論を理解している人をたくさん育てるのが、遠回りですが重要なことです。今回の果樹は移民さんの飢えをマシにするためでもありますが、同時に研究者の気を引くためのものでもあるんです」
……本当にカルアは富や名誉に興味がないんだな。
独り占めして土地をたくさん買って大量に食料を生産したら安定して大金持ちになれるだろう。
もしくは直接国に話を持ちかければ、これほどの発明ならば賞賛されてかなりの地位を約束してもらえるはずだ。
そのどちらでもなく、技術を人に惜しみなく分け与えるというのは……本当に、ただ飢えのない世界を作るためだけなのだろう。
カルアは本当に欲がないな。……いや、先ほどの様子を思うと性欲はあるか。
カルアには性欲しかないな……。あれ、この表現だとなんか悪口みたいになっていないか?
俺は不器用で物を作るのにはあまり向いていないため結構な時間をかけて床を直しているとイユリ達が戻ってくる。
カルアが帰ってきたイユリと話し合い、今後の方針を決めているようだが、俺にはよく分からない。
とりあえず、近くの椅子に座ってシャルに果物を剥いてもらって食べさせてもらう。
甘くて美味い。純粋に美味いというのもあるが、思い出の味だから、余計に美味いと思うのだろう」
「難しい話をしてますねー。はい、あーん。美味しいですか?」
「ああ、美味い。……旅をしていたとき、辛くなったらよく食べていた」
「そんなに好きなんですか? この果実のこと」
「それもあるが……シャルと初めて会ったときの味だからな」
照れたような表情を浮かべたシャルは自分の指先をツンツンとして照れを隠しながら、小さく呟く。
「そ、そうですか」
「ああ、とても好きな味だ」
「……思い出すと、ちょっとあの孤児院に帰りたくなってきました。もうないですけど」
「……新しい方の孤児院に帰るのも……どこから来たのか定かではないが、難民が発生しているみたいだから、今は避けた方がいい。多少情報が入ってからな」
「分かってますよ。はい、あーん」
美味い。……あのときのように身体を支えてもらいながら食べさせてもらいたいが、流石にギルドの中でそれは頼みにくい。まぁ「あーん」をしてもらっている時点でかなりダメな気がするが……それはそれである。
好きな女の子に思い出の果物を「あーん」と食べさせてもらうほどの幸せがこの世にあるだろうか。
シャルのふとももに手を伸ばそうとして「めっ」と怒られながらも果物を食べる。
げへへ、幸せだ。もう一生働かずにこうして過ごしたい。
……まぁ、そうも言っていられないんだが。
シャルとふたりで出会いの日を再現して楽しんでいると、果物で腹がいっぱいになってしまって夕飯が入りそうにない。
いや、でもご飯はちゃんと食べないとシャルに怒られるし……料理を残そうとするとシャルにかなり本気で怒られるから意地でも腹に詰め込まないとな……。
そんな時間を過ごしているうちに日が暮れて、四人で俺の部屋に集合する。
いつものことのため慣れ始めたが、一人でも少し手狭な空間に四人という状況。
今から真面目な話し合いをするのだが、少女三人のいい匂いが鼻腔に入って集中出来そうにない。
クルルは今日もワンピース型の寝巻きで、俺の対面で膝を抱えるようにして座っているため、可愛らしい薄桃色の下着が見えてしまっている。
「おほん、では、改めまして、第一回ウムルテルア家会議を始めます。議長は僕、シャルが務めさせていただきます」
ベッドの上にちょこんと正座をしたシャルが口火を切る。
具体的にどんな話をするつもりだったのかは俺も把握しておらず、クルルの下着とうちももに見惚れつつもシャルの話に耳を傾ける。
「まずなんでこういう会議を行う必要があるか、ということですが。……あまり責めるようなことは言いたくないんですけど……。皆さん自由すぎますっ!」
シャルはビシッと厳しい目つきでカルアを見つめる。
「カルアさん僕達にひとつも相談することなくランドロスさんを騙して婚姻届を提出しようとしてましたね」
「……騙してないです」
「不機嫌なフリをして書かせましたね」
「……フリじゃないです」
カルアはシャルから目を逸らしながら叱られるのから逃れようとする。
シャルは溜息を吐いてからクルルを見る。
「マスターさん、現在進行形でランドロスさんにパンツを見せて誘惑してますね」
「……誘惑してない」
「じゃあなんでそんな丈の短いスカートのパジャマで三角座りしてるんです。というか、ランドロスさんの視線が向いているの気がついてますよね。隠してください」
「……見られてることに気がついてない」
指摘されているのにその言い訳は無理があるだろ。
まぁ、俺は出来る限り見ておきたいので何も言わないが。
クルルは俺にパンツを見せて顔を赤くしながら反論する。
「……シャルも、今日の日中、ずっと果物をあーんして食べさせていたじゃないか」
「き、昨日、ランドロスさんはマスターさんとデートしたあと、カルアさんと夜中とお昼までずっと一緒にいたじゃないですか。それに比べると全然時間少ないぐらいです」
「えっ、昨夜は研究してたからほとんど話してないですし、朝の間も一緒に寝てただけですよ。……私はまだランドロスさんとちゅー……キスもしてないですし、エッチなこともしてないです。むしろ一番割を食っているかと」
カルアの反論に続いてクルルも反論する。
「……それを言うなら、一番最後に交際することになった私が一番恋人として接する時間が短いように思うけど。ずっと一緒に寝たりイチャイチャとしてたよね」
「そ、その分は仕方ないじゃないですかっ。と、とにかくです、このままではダメです。アピールやアプローチが過激化する一途です」
おほん、と、シャルが今日の本題を切り出す。
「僕だって、お二人がしてるようなことをやりたいとは思ってるんです。でも、際限なくそういうアピールばかりしてたら……他の人よりすごいこと、他の人よりもたくさんランドロスさんに見られること、ということになっていって……最終的に、行くところまで行きつけば、みんなでランドロスさんに裸を見せて誘惑合戦をしたりすることになりますよっ!」
「そ、そこまで過激化するでしょうか」
「します。ランドロスさんに一番に見られたいというのは、絶対に三人に共通して存在している感情です。現在でも、以前よりかなり過激になっています。どこかでちゃんと止めないとダメです」
…………俺からすると、その過激化は止まってほしくないが……言うに言えない状況である。
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