第136話
ミエナから確かに感じる殺気。
隠すつもりのない強すぎる怒気は俺に向けられていて、全身からダラダラと汗が流れ出てくる。
「……ランド。……私はね。君がね、とても憎い。とてもとても憎い。……分かるかな?」
「あ、ああ、いや、でもな、その……な?」
違う。違うから許してほしい。いや、何も違わないけど。ミエナにバレないようにと気を使ってクルルと交際していたけど……違うんだ。
全然、違うんだ、そういうつもりは……まぁあったんだけど、違う。こ、殺されたくない。
明らかにミエナはブチ切れている。マスターを取り返すために殺すことも厭わないという表情をしていて、ミエナが今すぐに俺を攻撃していないのは……俺のためを思ってのことではない。
「……マスターに、手を出したの?」
探っている。俺がマスターに何をしたのかを……今、俺が殺されていないのは情報を探るためである。
俺がマスターにどれだけのことをしたのか……だ。
「いや、それは、そんなことは、決して……」
「マスターの、マスターの純潔は無事?」
気持ちの悪い執着を見せるロリコンエルフは俺に尋ねる。マスターはミエナの言葉にドン引きしながら頷く。
「な、何もしてないよ。それに、その……誘ったのは私からだから、ランドロスは何も悪くないよ」
「……マスターには聞いていません。私は、そこのロリコン野郎に聞いているんです」
「……ミエナは……私の幸せの応援をしてくれないの?」
「そ、そんなことっ! 私はいつもマスターの幸せを考えているんですっ! マスターはランドに騙されてるんですよっ! ランドはもう二人も幼女に手を出してるんですよ!? それも一人は母性のある!!」
こ、コイツ……このロリコンエルフ、もしかしてシャルのことも密かに狙っていた……!? ええ、母性のある女児なら誰でもいいのかよ。
とんでもないロリコンエルフだな。
「し、知ってるよ。それに、カルアもシャルも私のことは知ってるから、ミエナが口を出すことじゃないよ!」
「ろ、ロリっ子ハーレムなんてダメに決まってますっ! 社会的な良俗から反しまくってますっ!」
ミエナの言葉の端々から同族の匂いがしてくる。
「……ミエナ、お前……もしマスターに告白されたら、デートしないか? まだ子供だからと断るのか?」
「そ、それは……」
「今の俺みたいに、連れ込み宿に誘われたらどうなんだ?」
「そ、そんなの……!」
「我慢なんて出来ないよな? 手を出すだろ? 後先考えることなく、今の欲望をぶつけてしまうだろ? ……ミエナ、お前に俺を批判する権利なんてあるのか?」
ミエナは俺を睨みながら、普段では出さないような大きな声を出す。
「う、うるさいっ! 三人も幼女に手を出す奴なんて批判されて当然だよっ!」
「……じゃあ、ミエナはシャルに好かれて断れるのか?」
「そ、それは……その……で、でも、一番好きなのはマスターで……」
「ほら、シャルと付き合える機会があれば手を出すつもりだったんだ。お前は……!」
「ぐ、ぐぐ、ぐぬぬ……」
とんでもないロリコンエルフだ。
「……カルアに告白されて断れるか?」
「…………か、顔は確かにめちゃくちゃ可愛いし好みだけど」
「結構、頭も撫でてくれるぞ」
「そ、そんな羨ましいことをしてるのにマスターにまでっ!! ず、ずるい! 私も、私も……優しいちっちゃい女の子に囲まれて甘えながらえっちなことしたかったよっ!!!!」
ミエナは恥も外聞も捨てて叫ぶ。
「そうだよ! これはただの嫉妬だよ! 好きな女の子をとられて! ちょっといいなって思ってた子も全部持っていかれてるっ! だから、嫉妬して、羨ましくて、羨ましくて! 理不尽だとしてもっ!私は絶対にランドを許せない!」
り、理不尽だ。他の奴ならばまだしも、同じ状況なら間違いなく手を出していたミエナに責められるいわれなんてあるのだろうか。
「……ミエナ、私はランドロスのことが好きで、結婚も考えてる。だからね、その、ミエナの気持ちには応えられないよ」
「ぐぬぬ……ぐぬぬ……! ランドに騙されているんですっ! 認めない、私は11年待ってたのに、こんな突然……認めないからっ!」
「……11年? 産まれた時から好きだったのか?」
「……あっ」
ミエナは顔を青くして誤魔化すように首を横に振る。
「ち、違う。間違えただけっ、好きになったのは、えっと……ご、5年前からだからっ!」
なんだその間違いは、と、思っていると、クルルは少し寂しそうに口を開く。
「……ミエナは、元々は私のお母さんが好きだったの」
「ち、違うからっ! べ、別にセイラちゃんの面影を追ってるわけじゃなくて……ち、違うの、違う……私は、マスターが本当に、本当に好きで……」
「……それを疑ってるわけじゃないよ。私のことは私のことで好きなのも知ってるから、大丈夫だよ」
「い、今のは……本当に、違うの……マスターは、その……セイラちゃんの子供だからとかじゃなくて」
ミエナはワタワタと手足を動かしたかと思うと、突然走って逃げていく。
「あ、み、ミエナっ!」
クルルは引き留めようとするが、魔法使いとはいえども探索者の脚に子供が追いつけるはずはなく一瞬で引き離されていく。
ミエナの青白い顔がヤケに印象に残っていて……。これ、ミエナはいなくなったけど、クルルと宿に入って情事に耽溺出来るような空気じゃないな。
いや、するつもりはなかったけれど……全然、一切、これっぽっちも……。
いや……本当はクルルの押しに負けて仕方なくという感じの空気感にしようという卑怯な考えをしていたけど……形だけはちゃんと止めるつもりだった。
クルルと目が合い、俺は頷く。
「……追いかけるか」
「う、うん……ごめん、追い詰めていたみたい……」
「いや……あれは、クルルがどうとか言うようにも見えなかった」
最後に逃げたのは失恋というものではなく……本心を暴かれることを怯えているからのように見えた。
……クルルの母親か。……まぁ、長命なエルフなのだから、色々あって当然か。
五倍の寿命……人が自分を置いて成長して老いていく。……それは一体、どういう気持ちなのだろうか。
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