第126話

 まぁ、それはさておきとして、デートの計画を立てるには、確かにどんな子なのかを考える必要はあるだろう。


「……話は戻るが、どんな女の子かという話だったな」

「ええ、まぁそうですね。相談に乗るにはそれぐらいは知らないと」


 クルルはどんな女の子か……小さくて可愛い灰色の髪が綺麗で白く細長い手足が魅力的だ。全体的に小さく華奢な姿で笑顔が可憐で素敵な女の子だ。


 ピンク色が好きなのか、パンツはピンク色のことが多い。……俺は何故自分のところのギルドマスターの下着について詳しいのだろうか。

 まぁ、重要なのは容姿ではなく、ましてやパンツなどでもない。性格や人格、好みなどだろう。


「……まぁ、真面目な子だな。あと面倒見が良くて責任感が強い。……好きなものとかは……分からないな。幾分、自分の気持ちを押し込める癖がある子でな。ああ、でも人の気持ちには敏感で気を使いがちだから……あまり気を遣わなくて済むような場所がいいかもしれないな」

「ふむ……好きなこととか知らないんですかい?」


 好きなことか……最近のクルルの好きなことは、部屋で俺にパンツや胸元を見せること……いや、ダメだな。参考にならない。


「特にないな。あまり趣味も……ないようだしな」


 どうしよう。クルルと見せ合うという情事に耽るのが一番いい気がしてきた。いや、ダメだけど。ダメなのは分かっているけど、それがお互い一番幸せになれるのではないだろうか。


「まぁ、でしたら普通のところに回るのが一番ではないですかね」

「普通のところ……【剣刃の洞】の近くとかか?」

「あそこは確かに若い人がよく行ってますね。悪くはないと思いますが、よく知ってましたね」

「まぁ……多少はな。何があるんだ?」

「軽食や服飾店、まぁ後は普通に探索者用の武器や防具などの店、保存食などの各種、迷宮探索のための店が多いですね。後はギルドがいくつか……まぁそんなところですね」

「……楽しいのか? そんなところに行って」

「さあ……アタシに聞かれましても。恋人と一緒に回るのが楽しいのでは?」


 ……真っ当なことを言うな。なんでコイツ突然マトモなことを言ったりおかしなことを言ったりするんだ? どっちかにしろよ。


「……でもなぁ……もし失敗して嫌われるのが怖い」

「あのね、旦那。恋愛は商売と同じですよ?」

「……商人」

「恋愛も商売も……んんっ、あー、ちょっと何かいいことを言おうと思ったんですが、いい感じの言葉が思い浮かばないんでちょっと待っててもらっていいですか?」

「……商人?」

「よく考えたらアタシって恋愛経験ないのでアドバイス出来ることなんてなかったですね。ははは」

「商人!?」


 今の、完全に良いことを言う流れで、それに励まされて前向きにデートをする計画を立てる流れだっただろ。

 なんか言えよ。何か適当なことでも勝手にこっちで良い感じに解釈するからなんか言えよ。


「まぁ、恋愛も戦闘も同じですよ」

「……おう」

「適当に言ってみましたがアタシはどっちもやったことがないので何も分からないですね。ははっ」

「帰れ」


 商人が帰っていき、俺のことを冷めた目で見る女性の衛兵が俺を牢屋に戻す。若干、牢屋に押すときの力が強くなっているのは勘違いではないだろう。


 牢屋で待っていたガルネロは俺を見て声をかける。


「おう、おかえり。誰だったんだ? 件の子供か?」

「友人がきただけだった。……デートの計画を相談していたんだが、全く役に立たなかった」

「……お前、一回捕まってるんだから懲りろよな。デートか、この国だとどんなところに行くんだ?」

「……したことがないから分からない」

「…………えっ、お前、一緒に出かけたこともないのに手を出したのか」


 ガルネロはドン引きした表情を俺に向ける。

 いや、違う。誤解だ。微妙に付いた手を出したという嘘のせいでおかしなことになってるが実際は出していない。


「違うんだ。手を出したってのは、交際を始めたという意味でな」

「じゃあなんで捕まったんだ?」

「身分が違ったからだよ。まぁ、反省しろ程度の話だ」


 まぁカルアとはかなり身分が違う。というか、あの子は本物のお姫様だしな。

 ガルネロはボリボリと頭を掻きながらベッドに寝転ぶ。


「はぁ……思ったよりかはマトモなやつだな。まぁ手を出さなくても性欲は性欲か。で、懲りずに交際は続けると」

「当たり前だ。まぁ、デートをするのは別の子だが。……ガルネロはそういうの詳しくないよな。モテなさそうだし、妻もいないんだろ」

「……お前な、遊び人のガルネロったぁ俺のことよ? デートなんて百戦錬磨だ」

「その見た目で?」

「……失礼すぎないか? まぁ、この見た目で女を落とせる程度にはな、俺に魅力があるってことだ」

「……それは凄まじいな。……少し参考に聞いていいか?」

「凄まじいという評価はおかしくないか? 褒めてるフリして貶してるよな? まぁいいか」


 ガルネロはおほんと息を吐き出し、自慢げに話し始める。若干腹立つ表情ではあるが、それでも重要な情報を吐いてくれる男だ。

 檻を背にしてガルネロの話に集中する。


「まずな、女は花が好きだ。だからデート前に花を買いに行く、花屋に予算を伝えて見繕ってもらえばいい。素人が選ぶのより間違いなくいいからな」

「なるほどな。その道の専門家に任せるということか」

「おう、で、デートの開始と共に花を渡す。それと同時にお金を渡す」


 ……金? なんでだ?

 少し首を傾げながらガルネロの話を聞く。


「花束を渡したら出掛けるのに邪魔じゃないか?」

「ああ、それは店に置いていくから大丈夫だ」

「店?」

「それで、まぁはじめはそのまま一緒に歩いてな。飯を食いに行くだろ。飯は奢れよ。んで、会計の時に女にも金を渡す」


 また金を……どういうことだろうか。


「そのあと女が物を欲しがるからそれを買いに行く」

「……はぁ……なるほど?」

「んで、物を買って金を渡す」

「ずいぶんと金がかかるんだな。デートって」

「まぁその後はお楽しみよ」


 ガルネロは下品にげへへと笑いながら続きを話す。


「連れ込み宿に連れ込んでな、金を払う」

「……ガルネロ、その何か行動する度に挿入する金を払う行為はなんなんだ。何かの儀式か何かなのか?」

「いや、ツケをやりすぎて前金を払わないとついて来てくれないから」

「素人じゃないのかよ! ……お前に相談したのが馬鹿だった」

「留置所で拘留されてるところで知り合った奴に相談するのは間違いなく馬鹿だと思うぞ」


 確かにその通りなのだが、相談を受けたガルネロには言われたくない。

 くそ、全然参考にならない。というか、クルルが奢りとか物を買ってやったりとか、そう簡単に受け取ってくれるとは思えない。


 そう考えていると、再び衛兵の女性に声をかけられる。また面会を希望する人がやってきたらしい。

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