Neo Tokyo Site04:カメラを止めるな! −Side by Side−

@HasumiChouji

プロローグ

前夜祭

 居酒屋の中から出て来た2つの集団が路上で喧嘩を始めてから一〇分以上が過ぎていた。

 どちらの集団も十数名。男女入り交じっているが、やや男性が多く、皆、十代後半から三十代前半ぐらいの年齢だった。

 だが……その格好だけは異様だった。

 片方は……全員がストリート・ファッション風のジャージ。そこまでは……まだ普通だ……。

 もう片方は……髪型こそ今風だが、時代劇の侍装束風の和装。

 やがて……銃声が轟いた。「侍」の1人が懐から拳銃を取り出し発砲したのだ。

 だが、その拳銃で狙われたストリート・ファッション風の一団の1人は、ブレイクダンスを思わせる華麗な動きで銃弾を避け、そして中指を立てた両手を見せながら、馬鹿にしたような表情で舌を出していた。

「クソ……ふざけ……」

 だが……その時、拳銃を使った「侍」の体が派手に宙を舞った。

 その「侍」と戦っていた女も……新たに現われた者達を「敵」と認識したようで……目の前に居る巨漢……いや……巨女の太股に廻し蹴りを叩き込んだ。

 だが……蹴りを入れた女の胴体ほどの太さの太股はビクともせず、廻し蹴りを易々と弾き返した。

 「侍」の中にも、刀を抜いて斬り付ける者が居たが……法被はっぴとTシャツを切っただけで……刃は筋肉の鎧に食い込む事さえ出来なかった。

「これは……これは……『新宿』と『渋谷』の自警団……『四谷百人組』と『原宿Heads』の皆さんですか……」

、このまで、よくお越しで……」

からの長旅の直後とお見受けしますが、ここまで元気が有るとは……若いってのはいいもんですな」

 その2人は、一卵性双生児のように良く似ていたが……片方はポニーテールの男で、もう片方は短髪の女だった。

 共に一九〇㎝近い身長に……少なく見積っても体重は一三〇㎏を超えるであろう筋肉の塊。

 十一月の後半…………にも関わらず、上半身はTシャツにサテンの法被はっぴだけしか着ていない。

 法被はっぴの背中には仁王の絵が描かれ……女の方が口を開けた阿仁王、男の方が口を閉じた吽仁王だった。

「あ……あんたら……まさか……」

「この『浅草』で他所よその皆さんが『祭』をやるのも結構ですが……」

「『浅草』の『祭』は……俺達『二十八部衆』を通せやッ‼ 判ったかッ⁉」

 言うまでもなく、「本当の関東」の「本当の浅草」は……十年前の富士山の噴火で事実上壊滅し……再建の目処さえ立っていない。

 ここは……日本に4つ存在し、現在、5つ目と6つ目が建設中の「東京」の名を騙る人工島の1つ。「Site04」こと通称「台東区」で最大の港を有するこの東京の玄関口……通称「浅草」地区だった。

「明日だったっけな、相棒?」

「ああ……多分……『上野』と『入谷』の決闘の見物に来たんだろ」

「『渋谷・新宿区』にも『本土』のヤクザが進出しようとしてるって噂なのに……呑気なもんだな」

 2人の「生身の金剛力士」は散り散りになって逃げていく2つの集団を眺めながら、そう呟いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る