タンポポ

空落

プロローグ

プロローグ1

 戦いの果てにある光景とは、美しいものなのだろうか。

 目の前の光景を見る前ならば、自分が勝者である場合は美しいものだろうと、なんの面白みもないことを答えただろう。

 そして今の俺は、目の前の光景を見た後の俺は、こう答える。勝者だろうが敗者だろうが関係なく美しく見える、と。だって、戦いという呪縛から解放されたのだから。

 目の前の光景がはたして戦いの果てにある光景なのか。それは俺にもわからない。俺は目の前に広がっている死体の山を見て、なぜかそう思っただけだ。

 戦いの果ての光景__命を懸けた戦いの後に俺が見たものは、それは正義も悪も勝者も敗者も関係なく、全ての生き残った者が見る、なぜか美しいと感じてしまうが、それは死体の山でしかない。俺は別に戦ったわけではない。ただ目の前の光景を見ただけだ。それだけなのに、まだ17歳である俺はそんな悟ったようなことを、目の前に広がっている光景を見て、そう、思ったのだ__。

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 ......む、朝が来た。身体を起こす。目を開く。その瞬間自分の目に入ってくる光に驚いて目を細める。そんないつも通りの、もう朝の日課と言ってもいいのではないかと思ってしまうくらいには毎日毎日続けている反応 (反射だというツッコミはなしで) をしてから自分の身体の違和感に気付く。

(汗が、ひどい)

 確かに今はまだ9月だ。寝汗をかくことは不自然ではないだろう。昨日も寝汗をかいていた。しかし今日はひどい。幸いにも今日は秋分の日。学校に遅刻するなどということもないのでゆっくりとシャワーを浴びることができる。

 現在の時刻は8時半。シャワーを浴びて朝食を用意すればちょうど和希かずきが起きてくるだろう。

 俺は最近決まったアレを祝って素数を数えながらシャワーを浴び、食パンにマヨとレタス、目玉焼きという朝食界の伝説ボスとも言えるだろうものを用意して、コーヒーを淹れていると

「おはよ~」

 という間の抜けているが、いやだからこそ聞いた者を癒す効果のありそうなこえが聞こえてきた。

「おはよう、和希。寝起きなのは俺も承知している......その上で頼む。伝説ボスを倒してくれ......!」

「朝ご飯だ~、いただきまーす」

 和希は俺の素晴らしいボケをスルーしてトーストを食べている。......長男だが悲しい。

 まあ、和希がマイペースなのは今に始まったことでもない。

 気を取り直して和希の前に砂糖を2つ入れたコーヒーを置く。

 「はいよ、和希。コーヒー、いつものな」

 「あ~、ありがとー、お兄ちゃん」

 ぐはっ......。

 ありがとう&お兄ちゃん。これだけでこのざまか......俺も衰えたな......。

 などと、これまたいつも通りの反射をする。(反応だという(ry)

 和希が朝食を食べ終え、食器を洗い終わったのだが、

「何をしようかな......」

 暇だ。俺としては一日中和希を眺めている、というのが理想的な祝日の過ごし方なのだが、和希は友達の家に遊びに行った。和希が家にいたとしてもそんなことをしてしまっては和希に嫌われてしまう。和希に嫌われたら一ヶ月は寝込むだろう。


 “閑話休題”


 改めて今日をどう過ごすか考える。

 俺は決して友人がいないわけではないのだが、L○NEを知らないので一緒に遊びに行くということもできない。......友達がいるのは本当だ。

 さて、今日はこのまま惰眠を貪ってもいいがせっかくの祝日を無駄に過ごした気分になるのは嫌だ。

 だからといって勉強をするつもりもない。

「......散歩にでも行くか」

 実に健康的だ。しかし散歩をするにしてもどこに行こうか。俺の住んでいる巴形市は都会というわけではない。どこに行ってもそれなりに緑がある。散歩にはもってこいだが、特に目的もなく遊びまわるということは難しい。そんなありふれた都市だ。まあ俺には遊びまわるような金もない。そうでもなければ俺のような年の青年が祝日を過ごす手段として、行く当てもなく散歩をするという選択をすることはないだろう。

「山にしよう」

 近くに小さな山がある、そこにしよう。

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 目を開く。暗い。夜か。しかも屋外。何故?

 俺は山に散歩しに行きあまりに天気がよかったから横になったんだ。そしてそのまま眠ってしまった。なるほど、大体わかった。

 ......帰るか。ガサゴソと音を立てながら立ち上がる。

「わっ」

 声がした。おそらく、女性。こんな時間に......?

「な、なにやつ」

「なにやつて」

 そんな時代劇とかでしか聞かないようなことを言ったのは、黒く長い髪の、不覚にも俺が和希にも劣らないと思ってしまう、美少女だった。

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