第4話 指輪、勘違い
「指輪のサイズ?」
とうとう来たなと俺は内心で思った。俺と正輝は付き合ってもう十年。同棲して八年。男同士で結婚できるはずもないが、常々正輝は二人の絆の証明になるようなものを欲しがっていた。
「調べたこと無いから分からんぞ」
そう言うと、通販で買ったというリングサイズを計る道具まで持ち出して、正輝は俺の横で目を輝かせている。俺は諦めることにした。そういうものを──特にペアリングなんて身に着けるのは柄じゃない。けれど正輝が喜ぶなら仕方ない。
「分かった、次の日曜日な」
そう言うと、正輝は俺に抱きついて喜んだ。
日曜日当日。前々から目をつけていたという店に男二人して入る。店員は特に驚きもせずに、俺たちの相手をしてくれた。正輝に任せて……と思ったがそうも行かない。腕をぐいっと引き寄せられて、あれが良いだのこれを見せてくれだの散々引っ張り回された。結局はお互いの間を取って、流線型のシンプルな指輪を選んだ。……値段に少々笑顔も引きつったがここが見せどころだ。俺は自身の財布から、カードを出して店員へと差し出す。
「支払いはカードで」
「現金で」
二人の声が重なった。
え? とお互いを見やると、正輝の手には先日バイト代を貯めたんだと嬉しそうに見せてくれた銀行の紙袋が握られている。てっきり、好きなバイクのパーツでも買うのかと思っていたら……。
「俺が欲しがったんだし、俺が買うよ」
当然のように言う正輝が愛しかった。とんだ勘違いだ。
「俺に買わせてくれ」
そう言うと、正輝が一瞬驚いた顔をしてから、はにかんだ笑みを浮かべて頷いた。
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