大空へ見送るラストエンディング 2

 ある時、ある村に少女がいました。とても美しい心を持った少女は村の人気者だった。その村に、ある時、大国の王子が迷い込んだ。水浴びをしていた少女は王子を見つけ、正しい道へと案内した。王子は少女の心遣いに惹かれ、それから定期的にあることになりました。

 そんなある日、少女の友人がゴブリンに誘拐されることが起きた。その出来事により、村の近くにゴブリンの群れが近くに来ていることが判明した。悲しんだ少女を見た王子は、そのゴブリン退治へと赴くのだった。


 1階は大きい部屋が少しあり、そこにたどり着くまでの廊下が長い造りとなっている。大広間で話をした後、少女と一緒に大物のキャラクターを探すことになった。その時に、1章の簡単な概要を少女が聞いた。王子のゴブリン退治の話しだという。少女は手元に、元となった物語が書かれた紙の束をいくつか持っており、それをもとに話をしていた。他の細かい記憶などは曖昧ではっきり思い出せないようで、なにかきっかけなどがあれば思い出せるかもしれないとのことだ。

 いくつかの部屋を見たが、大物らしき存在は確認できず、なんとなくでデカく長い廊下を歩いていた。

 

「大物がいる場所は分からないんだよね」

《うん、分からない》

「そっか。……あの、君はなんで魔法で紙を作って会話してるの? しゃべれない?」

《そう、今は喋れない。1階にいる大物のゴブリンに声をとられちゃった》

「それは大変だ。でも、声を奪う魔法ね。なんか興味あるかも」

《まあ、声を奪った力は本来のゴブリンにはなかった力だったんだけどね。声が出ないから、歌も歌えなくて寂しくて》

「へえ、歌を歌うのが好きなんだ。確かに、物語の少女にはよく聞く話だけどね」

《確かに。まあ、私の場合は鼻歌がメインだよ。そんな歌って踊るなんて出来ない。寝相悪くて踊っているようにひどくなってたってことはあったな》

「寝相が悪いんだ。全然イメージつかないけど、でも、それはそれでかわいくていいと思う。お腹丸出しでぼりぼりとかいてるんだ」

《さ、流石にそれはない、と思いたい……》


 そんな談笑をしていると、気付いたら2階に続く階段の近くまで来ていた。だが、2階に続く階段の前には、通れないように鉄格子が設置されていた。完全に天井と地面を突き抜けているため、飛んでいくこともできない。魔法でこじ開けようと考えたが、全く傷もつかない。徹には、鍵を使う必要あるみたいだ。


《もしかしたら、1階の大物を倒さないとだめなのかもしれない》

「あ、君もこうなっているのは知らなかったの?」

《いつもはここまで来る前に大物に見つかっていたからね。むしろ、今回は道中で大物に会わなかったのが不思議なくらい》

「そうだったんだ。まあ、運は良い方だから、それが良かったのかな」


 2階に上がるには1階の大物を倒さなければいけない。それなら、意地でも1階の大物を探さなければいけない。そう意気込み、探していない部屋へと向かった。


 大きな中央開きのドアが、そこにはあった。ここからでも感じる、強大な存在からにじみ出る魔力の渦。ここに大物がいることは間違いないだろう。私たちはお互いの視線を見て頷き、そしてそのドアの中へと入っていく。中はかなり広い倉庫のようだった。物は壁際に追いやられ、お国は、ゴブリンの大物が確かにいた。こいつが、例の1章に出てくる、キングなのだろう。私の一回りほど大きいだろうか、筋肉隆々の太い体を持ち、こん棒を片手に持っている。


「まだあきらめていないのか、少女よ」

 

 そのゴブリンは喋れるようで、そう問いかける。少女が話せないのは知っているようで、少女からの返答は待たず、ゴブリン・キングは後方に置いてあった瓶を手に持ち、私に向けて問いかける。


「これが少女の声が入った瓶だ。美しい声なのだ。とろけてしまうほどにな」

「それ、口説き文句ならもうちょっと考えた方がいいかもね。それじゃあ、声も返してもらおうかな」

「ふ、そうか。さて、お前はどの程度やってくれるんだろうな。ここまで来てるなら、大体の状況は知っているんだろう。物語の王子みたいに倒してくれるのか、見ものだな」

「へえ、案外、そういう風に思ってるものなんだ。てっきり、消えたくない、倒されたくないって、泣きべそかくのかと思った」

「我々が怒りに燃えているのは、最後まで終わらなかったからだ。物語上、俺は王子に倒された存在。でも、物語が終わらないという地獄に見かねたのさ。このまま力をつけて作者を殺してこの物語のエンディングを迎えてやろうとするのさ。まだそこまでの力はないがな」

「ふーん。なんか、それはそれで報われないね。本来物語上では倒されると分かっていながら、こうやって抵抗を続けるなんて」

「そう、思うのなら、ぜひともお前がエンディングを迎えさせるんだな。俺はただ、自分たちの物語にエンディングを与えるにふさわしいものか、ここで区別するだけだ」


 ゴブリン・キングはそう言い、少女の声が入った瓶を後方の木箱の上に置き、こん棒を地面に叩きつける。舞い上がる砂煙。こん棒を担ぎ、こちらに向かってくるゴブリン・キング。その砂煙が開戦の合図だと気付き、私も構えた。


《キングってつくけど、必ず弱点はあるはず。私は隠れながらそれを探すよ》

「分かった。ま、弱点分かんなくても、強引にやってみることも考えてみるよ」


 そう言って、少女は箱の影に消えていく。ゴブリン・キングはただやみくもにこちらに来るのではなく、こん棒を持っていない片方の手で短剣を投げ飛ばし、牽制をしながら近づいてくる。私は箒を操り、短剣を避けて雷と風の小魔法でこちらも牽制する。体格がデカいため、小魔法程度ではびくともしないが、気を散らす程度は可能だった。ゴブリン・キングの間合いに入る前に、風魔法と雷魔法で地面をえぐり、避けきれずにバランスを崩した隙に、今度は氷の中魔法で打撃武器を形どり、足元を払う。バランスを完全に崩して倒れ込むゴブリン・キングは、倒れる寸前に小型こん棒を私の方へと投げる。箒で避ける余裕がなかった私は、魔法壁でそれを防いだ。しかし、あの体躯から思い切り投げられた威力は、バランスを崩している状態でも十分すぎる威力で、直撃は防げたが、痛みはや衝撃は魔法壁を通して私の体に流れ込む。


「っく……!」

「キングの力を甘く見るなよ」


 私が少し怯んだすきに、素早く体勢を立て直して接近してきたゴブリン・キングが打撃の応酬をしてくる。箒の操作と魔法壁、属性魔法を使い、攻守を平行してやっていくが、やはり魔法壁の時はダメージ軽減程度でそれは痛みと疲労という形で私の体力を削っていく。このままではいずれ消耗してしまうと思い、うまく行くかは分からないが、魔法壁を盾として受けるのでなく、角度をつけて受け流すことを考える。ゴブリン・キングが再び投げ道具を使い、大振りの縦振りを仕掛けようとしていた。投げ道具を風魔法で強引に弾き飛ばし、そして降りかかるこん棒に軌道上に、私の外側に少し角度を付けた魔法壁を設置する。こん棒は、魔法壁にぶつかり、そしてそれは勢いのまま、魔法壁の角度に合わせて外側へと軌道がそれ、地面に激突した。その一瞬の隙に、風と雷の中魔法で獣と人間の拳へと形どり、四方八方よりゴブリン・キングを襲撃する。風魔法により辺りは強風にさらされ、雷魔法により強固だったゴブリン・キングの肌に傷がつき、顔面に最期の魔法の拳を入れて吹き飛ばした。 魔法により納、箱に納められていた紙が舞い上がり、紙時雨となって舞い落ちる。少女がその紙の束の中に飛び込み、ある一枚を手に取った。中身を確認した彼女は、私に向けて大きく手を振る。

私は箒に乗り、ゴブリン・キングを牽制しながら彼女の傍に行く。


《やっぱりあった。あいつの弱体化について。それは、私の声なんだ》

「声、ね。ということは、声を取り戻せばいいってことだね。それなら、多分簡単だ。ちょっと待ってて」


 そういい、再び箒で宙を舞い、ゴブリン・キングの後方に置いてあ瓶を見据えた。そして、突破力のある大魔法を唱える。


「彼方の呻き、遥かなる来訪は粛清の道を指し示す。『インベイス・エンリル』」


 箒の先端より発動された大魔法は、青緑のオーラを纏い、ゴブリン・キングの方へと飛来する。軌道上のすべてを弾き飛ばすほどの凶風の弾丸は、ゴブリン・キングを巻き込み、後方の声の入れられた瓶へと一直線に飛んでいく。荒れ狂う水性の如し風に弾かれ、粉砕した瓶から、七色のオーラが飛び出し、それは少女の方へと飛んでいく。七色に包まれた彼女は、その小さな口を開く。そこからは、まさに奥底まではっきり見える川の透明感を宿した声が聞こえ、それはやがて、心地よい鼻歌に変わる。


「ぐっ! くそっ!」


 ゴブリン・キングがその鼻歌を聞き始めた途端、苦しみ始めた。こん棒も地面に落とすほどに苦しむ隙を見逃さず、大魔法を唱える。ゴブリン・キングはそれを阻止しようと短剣やそこらに落ちているものを私の方へと投げて来た。それらをすべて避けきり、大魔法を発動する。


「汝の心は彼方に、我が光は我が手に、すべてのものに祝福と追放の灯をここに。『バニッシュメント・シリウス』」


 箒の先端より放たれた光の球体は、輝きを増していき、そして部屋全体を覆うほどの輝きを放つ。そして、その光は最後には広範囲に炸裂した。光が離散して残ったのは、壁に飛ばされ、所どころが焦げ、力なくうなだれるゴブリン・キングの姿だった。


「『そのゴブリン・キングは美しく魔力の宿った少女の声を聴くと弱体化してしまう。少女の鼻歌で苦しんでいるゴブリン。キングの体を、王子の剣が貫く。そうして、ゴブリン・キングは退治されました』」


 少女は手に持った紙の最期を呼んで、持っていた物語の束にまぎれさせた。少女の姿は、会った時よりも彩を取り戻し、表情も普通に見えるようになっていた。にこやかな中に寂しさや申し訳なさも含まれているような、そんな表情を持ち、私に語り掛けた。


「……色々と思い出してきたよ。――このゴブリン・キングは、なぜ私の友人を誘拐したと思う?」

「……まあ、取って食うためではないのかもとは思ってる」

「一目ぼれだったんだって。でも、彼女に近づくためには、誘拐するしか方法を知らなかったんだ。お話しして、時間をかけるということを知らなかったんだ。誘拐が人間に対して間違ったコミュニケーションだったと、理解はしていたけど、それをするしか、方法を知らなかったし、気持ちを抑えられなかったんだ」


 少女はゴブリン・キングの傍らにしゃがみ、そこに落ちていた2階へのカギを手にする。そのカギとは、花と木の枝で作られた、自然素材のティアラだった。それは、ゴブリン・キングが、誘拐した少女に渡すはずだったプレゼントだった。


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