大空より迸る怒りの空
空は曇天。今にも雨が降り出しそうな湿気た風が強く吹く中、わたしは今日ものんびりと空を移動していた。鳥たちは群れを成して低空飛行をして休める木々を探している。
(今日はそろそろ宿探さないとまずいかな。野宿が続いて飽きて来たし、お湯も浴びたいし)
そんなぼやきも心の中で吐き出して、空を仰ぎ見ていた。青空も好きだけど、曇天も好き。
世界が薄暗くなり、冷たい雨が世界を冷やしていく。そして、その雨がまた自然の匂いを感じさせてくれる。一番いいシチュエーションは、雨上がりの快晴だ。だが、様子を見るに、今回は雨上がりの快晴は拝めなさそうなので、ありのままの気象状況に浸ろう。
ふと、地上から何人かの男の声が聞こえ、空から大地へ視線を移した。その移した先には、盗賊団と思われる集団と、そして、顔なじみの旅人がいた。旅人は男に両手を掴まれ、身動きが取れない状態だった。そして、5人ほどの男たちがその旅人を囲い、何かを話している。
「こいつだな。俺たちが奪った大事な荷物を壊しやがったの」
「そうだぜ。こいつのせいで俺たちの道が消えちまった。約束された未来の組織も消えたのさ」
「本当に許せねえな。簡単に殺すのも惜しい。どうしてやるか」
「ひとまず満足するまで殴ろうぜ。おら!!」
そんな会話をして、そして男たちは旅人をこぞって殴り始めた。旅人から飛び散る血が、男たちの足元を濡らしていっている。その光景を見たわたしは、心の中に静かな怒りの雷を覚え、そして、突風を巻き起こして着地した。男たちは吹き飛び、支えを失った旅人は膝から地面へ座り込んだ。
男たちはすぐに身を起こし、そして悪態をつく。
「てめえ、そいつの仲間だな。いい度胸してるじゃねえの。魔法が使えるからってなめんなよ」
「御託はいいから早くかかってきなよ。そこの人はわたしの友人。何があったかは知らないけど、寄ってたかって殴ったし、もう何されても文句は言わせないからさ」
わたしは天候を変化させ、あられを降らせる。そのあられを全て先鋭化させ、男たちの頭上へと降らせた。接近してくる男たち4人はその槍となったあられに脚や肩を貫かれ、動けなくなった。ただ一人、大口を叩いていた輩は、人ひとり覆うほどの盾をいつの間にか手に持ち、防いでいた。そのまま、男はボウガンを持ち、わたしに向けて一発、撃つ。わたしは再び突風を巻き起こし、その矢を弾き飛ばした。そして、虹色に輝く弧を出現させ、それを魔法によって刃物化、それを使って男の持っていた盾を真っ二つに切断した。
男はひるむことなくボウガンを撃ち出したが、それらはすべてあっけなくあられの槍に折られ、最後には男も足をあられに貫かれて私の目の前に倒れ込んだ。
「ま、盗賊団なんてしょせんこの程度でしょ。もうわたしを怒らせない方が良いと思うよ。めったに怒らないけど、今回のように、友人とか、暴力的なことをされたらとことん仕返すタイプだから」
もはや痛みで声も出せないであろう男に吐きセリフを伝え、そして友人の旅人へと駆け寄った。彼は口や鼻から血を流していたが、何とか息はしていた。わたしはすぐに箒の後ろ側へ乗せ、スピード重視のスカイラインモードに変形させて近くの村まで飛んだのだった。
すっかり陽も落ち、夜の店が花開く時間帯。わたしと友人の旅人は酒屋に居た。わたしは度数の低いカクテル、友人の旅人はエールビールを片手に、乾きものをつまみにして飲んでいた。
なんとか近くの村まで到着し、そこで治療を受けさせてもらった。傷は簡単な処置で治るものであり、なんとか回復した彼は、酒を飲もうと誘って来たので、暇だったしその誘いに乗ったのだ。
「いやあ、マジで助かったわ! アルマリアが来なかったらマジで死んでたかもな!」
「そんな笑顔で言うことじゃないよ全く。わたしが来なかったら、本当に死んでたかもしれないんだから。それで、一体なんであんな盗賊団に襲われてたの?」
「ああ、こりゃ、あんまり大声では話せねえがな。ギルドからもらった秘匿依頼があったんだよ。案外、ギルドからも認められてるみたいで嬉しくてよ、2つ返事で受けることになったのさ。それが、「ある盗賊団が奪った荷物を破壊しろ」ってもんでよ」
「そうだったんだ。でも、なんかその依頼、旅人じゃなくて、傭兵ギルドとか、そっちの方があってたんじゃないの? なんでわざわざ旅人ギルドにそんな重要そうな依頼を持ち込んだんだろう」
「そんんあの知らねえよ。それに、案外旅人ギルドにもこんなヤバい依頼はわんさか入るぜ。ただ、ほかのギルドにも平行して募集してるから、旅人たちが見る前に募集が終わるってだけよ。そんで、俺はその荷物を見事に破壊したんだけど……」
「どじって捕まったってことかね」
「ご明察!」
「簡単に想像できるよ。なるほどね。ちなみに、その荷物ってなんだったの?」
「……それは、マジでうかつに言えないようなもんだったのさ」
「そうなんだ。それじゃあ、なおのこと知りたい」
「……魔導器だった。それも、貴重な素材で作られたものさ。そう、それは人が持てる大砲さ」
「なるほどね。なかなか価値のありそうな感じがする。でも、その盗賊団はそれを持って何をしようとしてたんだろ?」
「さあ、そこまでは今回じゃ分からなかった。ただ一つ言えるのは、今回の一件は、多分氷山の一角のようなもんだろ。近いうちに盗賊団同士の抗争でも始まるんじゃねえのか?」
「……そうかな。まあ、ひとまずはあんたが無事だったんだし、まだまだ飲んでいこう。当然、あんたの奢りでさ」
盗賊団が持っていた兵器級魔導器。それがどんなことを意味しているのかは、大体予想は出来ていた。末端の盗賊団のような小規模組織は大規模組織の傘下に入ることを夢見る。そして、そんな大規模組織は、今後の活動の上で必要なものを貢物として受け取る。それが兵器級魔導器であるなら、それを使う予定があるということだ。相手が誰であれ、いずれ大きな戦闘を起こす可能性があるということだ。そもそも、依頼主は一体なぜ旅人ギルドに、しかも破壊を依頼したのだろうか。持ち主であるなら、奪い返すことも依頼として来てもおかしくはない。なら、依頼主は持ち主ではなかったのか、色々な推測は出来るが、お酒が入った頭で考えるのも億劫だったので、今回は深く関g萎えないようにした。
今回は破壊されたようだが、今後のことも考えて、国境なき騎士団へ報告しておいた方がよさそうだ。そう考えたわたしは、翌日、ピアスの暗号連絡を使って、騎士団長へと連絡をして、寝入る友人を置き、村を離れたのだった。
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