私的短編集

@koimenosio

脇役

 開幕を告げるブザー音が劇場で鳴り響いた。

 始まる雑踏。その中心で会話を始めるヒロインと主人公。

 脇役の私はその様子を袖近くの雑踏から眺めていた。

「今日は一体何の用?」

「先日言っていた通り映画でも一緒にどうかと思ってね」

マクガフィンを提示する登場人物達。

 一通り談笑を終えると袖へと去っていった。

 その先に待っている不幸を知らないかのように。

 私は「脇役」。この舞台上において目立つ動きも勝手なセリフも許されない脇役以上の制約を抱えた脇役以下の脇役。

 とはいえ私もこの場に立つ以上役者の端くれだ。「この物語」の台本を渡され、当然結末も知っている。

 しかし私はその結末がどうしても受容出来なかった。健気なヒロインには報われて欲しかったのだ。

 そんな私は自身を抑えられず彼女たちを止めるべく舞台袖に駆け出した。

 しかし、私の行動に気づいたスタッフが目の前に立ちはだかった。

「お前、本場中だぞ!何やってんだ!」

どいてくれ!

「こいつを押さえろ!退場させろ」

スタッフの指示で他のスタッフが袖から出てきた。

 取り押さえられた私は間もなく退場させられ降板させられた。

 脇役どころか彼女と同じ世界からも追放させられたのだ。

 もう舞台に立つことも出来なくなった私の辿る道は一つしかなかった。



「そんな・・・嘘だ・・・」

 倒れたヒロインを抱き上げる主人公。顔からは涙がこぼれうなだれていた。

 腕の中のヒロインは閉じた目を開くことは無い。

 終幕を告げるブザーが鳴り、照明は静かに光を失っていった。

 そんな静まり返る劇場内に一つの拍手が鳴り響いていた。客席には一人の人影。スタンディングオベーションを送るその影は張り付いた笑顔を劇場に向けた元脇役だった。

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