宇宙人奥さん

堀川士朗

宇宙人奥さん


 「宇宙人奥さん」


        堀川士朗



お台場のデートの時だった。

シトラスの香りがする彼女。

僕のプロポーズの言葉はこうだった。


「タエさん。銀河と銀河の距離を越えて、新たな家庭を築いていきたい。毎日君といたい。一秒一秒を積み重ねていきたい。僕は、君の作るみそ汁が飲みたい」

「まあ!うれぺぃ。こんな28光年歳の行かずゴケゴケ・ゴーケゴケの私だけど、まぁせいぜい、違った、末々どうか幸せにして下さいね。よろティコ♥️♥️♥️」


そう。僕の奥さんは、宇宙人だったのです。



朝。

奥さんは旦那さんを呼びました。


「あなたのひと~。ご飯のくだりよ~」


奥さんの名前はタエ・タエダエ・ウタウターエ・へポクライデス。

スタイルが良くてとても美人の地球年齢で28歳の女性です。

チョッチュ星へポクライデス王朝の紅蓮の三姉妹の三女です。

旦那さんは24歳。

物流で働いています。

新婚ほやほやの二人。


「今日は、肝吸いサラダと隙あらば風スパイシー納豆おみそ汁ードルを作ったわ。麺は縮れ麺のアルデンテ。ちょい足しレシピで中にムール貝を潜ませております」

「うわああ…。謎の創作料理をありがとう。タエちゃんの作る朝食はいつも美味しいよ。朝から胃にガツンときて」

「モンマスうれぺぃ」


奥さんは赤紫グリーン色に頬を赤らめました。


「ウフフ。グヘ♥️♥️」


奥さんは旦那さんに優しくキスをしました。

朝日が二人を照らしています。

おやおや。遅刻しちゃいますよ。



奥さんは長く美しい銀色の髪を束ね、ほうきでお部屋をお掃除しながら歌を唄っています。


「♪生肉を食べると~ノドに良いらしいよ~。ラララ~ちょっとしたライフハックだねー。あ~あ~あこがれの~輝けるへポクライデス王朝~。(間奏)屏風の虎を~出してごらん一休~。ではお殿様~沖縄ちんすこうをご用意下さい~(縄だけにね~)。ラララ~とんだトンチ野郎だねー。あ~あ~あこがれの~輝けるへポクライデス王朝~」

「おはよう。ご機嫌だね。何の歌だい?それは」

「あらあなたのひと、おはよう。へポクライデス王朝の国歌よ」

「そっか」

「ふるさとを思い出していたの」

「たまには帰ったらどうだい?」

「王様であるお父様にも会いたいな。でも、往復だけで二週間以上かかるのんた。なのだから、そしたらあなたのひとは寂しがるでしょう?」

「うん。君がいないと僕はとっても寂しい」

「なのだからチョッチュ星には行かないわ。今日は久しぶりに外食にしましょう。おそば屋さんのカツ丼が食べたい」

「うん」


春になって、また消費税が上がって、奥さんはパートタイムで働き出しました。

スーパーまるたまのレジ係です。

こないだ店長さんに、客あしらいが良いとほめられました。



「あなたのひと、お腹が。お腹の中で赤ちゃんが暴れて、そりゃあもう大騒ぎさ」

「なんだか古いなぁ。80年代ぽい」

「片腹痛いわ。産まれようとしたら自主的に産まれます」

「大丈夫かい?病院に行こう!」

「いいぜメーン。全くの同意見だメーン」

「おやおや今度はヒップホッパーになったよ。どこから日本語を仕入れているのだろうか。さぁ病院に行こう!」


二人は産婦人科病院に行き、奥さんは入院。その日の内に赤ちゃんが産まれました。

卵で。

卵は無反応で、一週間割れませんでした。



「男の子かな?女の子かな?」


旦那さんはソワソワしていました。

あんまりにも割れないので奥さんはトンカチで卵を割りました。

中からかわいらしい赤ちゃんが出て来ました。

銀色の髪をしていました。

シトラスの匂いのする赤ちゃんはパッチリ目を開いてパパとママを見て何か言いたそうでした。


二人は赤ちゃんを『キンペーちゃん』と名づけました。

キンペーちゃんにはおちんちんがついていました。


「男の子だね」

「分からないのんた。途中女の子になったりドルマになったりするから、私の星の子供たちは。私も8歳まで男の子だったのんた」

「そういうもんなの?」

「うん。なのだから、そういうもんなの」

「ドルマって何?」

「説明がモインドくさい」

「ちぇっ」

「正直モインドくさい」



キンペーちゃんは0光年才児で、天才なのでもうしゃべれるけど、まだおねしょをします。

赤ちゃんだから。


ある日、ベビーベッドでハイハイとゴロンゴロンをしていたキンペーちゃんは、かわいらしい声で旦那さんにこう言いました。


「パパ。浮気はダメだよ」

「え?浮気なんかしてないよ」

「そうかな。浮気するとママ悲しむよ」

「……」


キンペーちゃんは少し先の未来が分かるのです。



二人とも何かと忙しいので、赤ちゃんのキンペーちゃんは保育園に預ける事にしました。

園長先生と奥さんがお話をしています。


「タエさんよろしくお願い致します。責任を持ってお子様をお預かり致します」

「園長先生、ちぇだいさつが遅れました。私、キンペーちゃんの母親。タエ・タエダエ・ウタウターエ・へポクライデス。地球年齢で28歳のんた。チョッチュ星へポクライデス王朝の紅蓮の三姉妹の三女です。なのだから、キンペーちゃんをどうかよろティコお願い致します」


キンペーちゃんは他の赤ちゃんと仲良く遊びました。

さすがに多変数関数や代数方程式の数学問題を解いたりした時は保育士さんたちからポカ~ンとされましたが、明るい良い子なのですぐにみんなの人気者になりました。

移動動物園が来た時は、なぜだかキンペーちゃんの周りにだけモルモットやウサギが集まりました。


夕方。

奥さんがママチャリでお迎えに来ると、キンペーちゃんはうれしさいっぱいにほほえんで、オレンジピンク色に頬を赤らめました。



その夜は帰りが遅かったのです。

仕事で忙しくてそのストレスから、同僚に誘われて旦那さんはガールズバーに行ってしまいました。

そしてその事は、すぐに奥さんにバレてしまいました。

亜空間テレパシーが使えるからです。


「まあ!ガールズバーと言ったら、東西南北のガールズが大挙してたむろしているところじゃない!?そんな紛う方なきガールズのガールズによるガールズのためのガールズバーにあなたのひとが行っていたなんてっ!きっ、きっ、きっ、キエーッ!┃<#◑↑㎜‰㌶㍊$(ToT)ЖЮ( 。゚Д゚。)《«┤≡∉♀♂♀∮!けがらわしいっ!」

「タエちゃん、ごめんよ!許してくれー!」

「きっ、キエーッ!キエ-ッ!」


奥さんがキエーッ!と叫ぶと窓ガラスに細かいヒビが入って、テレビが壊れました。

これが恐るべき電磁パルスです。


「触らないでのんた!キンペーちゃん、さあ行くわよっ!」


奥さんはキンペーちゃんを連れて、宇宙船を操縦して実家のチョッチュ星に帰ってしまいました。



それから二週間以上経ちました。

旦那さんはヒゲもそらず、仕事も休んで毎晩シクシク、ストロング系の酎ハイばかり飲んで泣いています。


「僕はなんてバカだったんだろう……。タエちゃんが子育てで大変だった時期に、あんなとこに行ってしまったなんて……ああ。僕は独りぼっちじゃ何も出来ない。ああ。悲しいよ。寂しいよ。タエちゃん。キンペーちゃん……」


その夜。

旦那さんが寝ていると、夜中にヒュンヒュンポワンポワンと大きな音が聞こえてきました。

外に出ると……。

奥さんの宇宙船が駐車場に止まっています!


「ああ、タエ……。タエちゃん!キンペーちゃん!」

「ただいま。実は、私が地球で生活している間にチョッチュ星で革命って言うかクーデターが起きちゃってたので帰ってきました。なのだから、あなたのひと、これからもよろティコ♥️」


旦那さんは奥さんとキンペーちゃんを抱きしめました。

シトラスの匂いがフワッとしました。



                          おしまい

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宇宙人奥さん 堀川士朗 @shiro4646

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