第13話 山賊討伐3

 翌日、〈夜の狐〉完全討伐という大きめの依頼を達成した俺たちは、報酬ががっぽり入ったのでまた酒場で宴を開いている。


 ドラゴとギドーが馬鹿話をして笑い、ソニアはそれを話半分に聞きながらちびちびとお酒を飲み、ルドルフは難しそうな本を読みながら飯を食っている。その間俺はぼーっと昨日の〈夜の狐〉討伐について考えを巡らせていた。


 人を殺してしまったことが、そんなにもショックだったのだろうか? それもあるだろう。


 だが俺は……あの筋肉男と同じ欲望を持っていながら、俺はアイツを殺し、俺はこうしてのうのうと生きている。それは本当に正しいことなのだろうか? そうぼんやりと考えていた。


(……これはただの考えすぎなのかもしれない。)

(アイツはレイプをした。いや、ヒナにはギリギリでしていないが、さらわれた女性や、他にも似たようなことをやっているだろう。)

(……だが俺はしていない。童貞だからな。それだけの話ではないのか?)

(だからあいつは死んで当然で、俺はあいつを殺した。それで全く問題ないのではないか?)

(ただ……実際にレイプしていないというだけで、俺はこのままでいいのだろうか?)

(気絶するヒナを見ながら抜いたのはどうなんだ?)

(レイプ願望があることについてはどうなんだ?)

(……俺は一体、何に悩んでいるんだ?)

(あぁ、分かった。認めよう、俺はあの筋肉男たちと同類だ。)

(そして、それを認めたくなかったために、ただそれだけのために筋肉男たちを殺したのだ。そんな自己中な俺にうんざりしていたのだ。)

(……。)

(……違うな。)

(筋肉男たちを殺したことが引っかかっているんじゃない。)

(……なんだ? 何が俺をこんなに悩ませているんだ? 俺の心に引っかかっているものは何なのだ?)

(……いや、そもそも俺は別にレイプなんてしたくない。)

(でも俺はヒナをレイプする妄想で抜いていたことも事実だ。)

(俺が○ックスするという妄想をするとき、レイプという形をとってしまうのだ。)

(それは……こんな俺が○ックスできる可能性があるのは、普通に女の子と仲良くなってイチャラブ展開に至るよりも、レイプする方が実現可能性が高いからそうなってしまうのだ。)

(ヒナとだって俺の力ではあれ以上の関係に発展させることはできなかった。本当は……俺だって本当はイチャラブ展開に持ち込みたかったのに!)

(……なんだ? 俺は人を殺しておいて結局自分のことしか考えられないのか?)


「おい、カガミュート! 何そんな辛気臭い顔してんだよ! ほら、飲めっ!」


 ドラゴが脇に座って肩を組んでくる。俺はそれに適当に愛想笑いをするしかなかった。


「もしかして、初めて人を殺したことで凹んでんのか? まあ、俺も初めてん時はちったぁそういうことも考えたかもしんねぇけどよ、山賊って奴は魔物と一緒ってもんよ。気に病むこたぁねえ。俺たちに害をなす奴ぁはみんな敵よ」


「あぁ……」


 それでもほうける俺を見て、ドラゴはギドーと何やらコソコソと話し始める。そして2人で何かを決めたらしい。


「おい、カガミュート。ついてきな。いいとこに連れてってやるぜ」


◇ ◇ ◇


「ここだ。着いたぜ」


 ドラゴとギドーに半ば無理やり連れてこられた場所は、酒場から歩いてすぐの裏道だ。ドラゴとギドーは慣れたように目の前にあるドアを開けて建物の中に入っていくが、勝手に入っていい場所なんだろうか? 建物の裏口のように見えるし、何か看板があるわけでもない。


 中に入ると受付があり、三十代前後で顔に大きな火傷の痕が残る女性がタバコを吸いながら座っていた。彼女は炎のように赤い短髪で、眼光が鋭く、目を合わせたら殺されてしまいそうな威圧感を放っている。


「よぉ。3人別々でよろしく頼むぜ。こいつの分は俺が出す」


 ドラゴは俺を指差してそう言い、お金をジャラジャラと受付に載せる。ギドーも同じように金を払った。


「いつものでいいかい?」


「あぁ」


「3番、4番、8番の部屋を使ってくんな。場所は……言わなくても分かるか」


「もちろんだ」


 ドラゴとギドーは勝手知ったるなんとやらという風情で二階に上がっていき、俺はその後ろを着いていく。


(ここは……なんなんだ?)

(行ったことないから分からないが、もしかしてだけど……もしかしすると……)


 二階のある部屋の前にたどり着くと、ドラゴは俺の肩をバンバンと強く叩く。


「男っつうもんはな。大抵の悩みは○ックスしたら解決するもんだ。ガハハ! おらっ、これは俺の奢りだ。楽しんできな」


 そう言ってドラゴは俺を部屋の中へと押し込む。


「カガミュート、また後でな。終わったら酒場に集合な」


 ギドーもウインクしながらそう言い残してドアを閉めた。ドラゴとギドーが別の部屋へと向かう足音が聞こえる。


(……おいおい! マジかよ!)

(この部屋、水桶とベッドしかないんだけど!? つまり、そういうこと!?)

(……ここって、風俗ってこと!?!?)

(風俗っていうか、この世界なら娼館とでも言うのか……? いや、そんなことはどうでもいい。マジかよ!)

(ついに、俺は……童貞を卒業しちゃうのか!?)

(……いや、風俗で卒業だったら、素人童貞ってやつ?)

(いや、それもどうでもいいことだ。どうすりゃ良いんだ? 速攻で射精したらダメだよな? こういう時は先に一発抜いといた方がいいんだっけか!?)

(……俺、汗臭くない? 大丈夫かな? さっきまで酒を飲んでいたんだ。口も臭いかもしれない。) 

(クソっ、こんなことなら酒なんて飲んでないで、バスロマ○を入れた湯に浸かって鰻でも食ってりゃよかった!)

(鰻なんてこの世界にないか! ってか必要もないかもしれない。だってもうなぜかビンビンだから!)


 コンコン。


 ドアがノックされる。


「は、は、はひっ」


 何とか返事をしようとして、声が裏返る。ドアを開けに行こうかと思ったが、こんなに股間をもっこりさせた状態で「いらっしゃい」なんてどの口が言えるんだ……? 恥ずかしすぎる。


 ガチャリ。


 ドアが開かれ、


「こんばんわですー。わはー」


 ———ヒナ?


「わはー! カガミュートおにーさんですー!」


 ……そんな、なんでここに……ヒナがいるんだ?


 さっきまであんなに元気だった俺のちんこが、くたりとしぼんでいくのがわかった。

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