第10章 十月十九日(土) 〜 5(5)
5(5)
――おまえ、付き合ってるやつとかいるの?
確か、そんな感じの声が聞こえて、由子は斜め後ろに目を向けた。すると一列後ろに幸一がいる。慌てて向き直った由子の耳に、それからすぐに答えであろう声が届いた。
「ん? いるよ。中学からずっとね」
「名前は? 名前は何ちゃん?」
「直美って言うんだ。しかしおたくがそれを聞いてどうすんだよ。まあとにかくさ、俺はコンパには行かないよ……多分、これからもずっとだから……」
それはあまりに何気なく、どうってことのない口調だった。
――直美? なんで、あの子が彼と?
もちろん別の直美かもしれないのだ。ただどっちしても、由子にとっては同じことだ。
――彼女、いるんだ……。
そんな現実を胸に抱えて、由子はその後、けっこう荒れた。
「それからはね、わたしガンガン遊んじゃったわよ」
そんなふうに言いながら、由子の顔は笑ってなどいない。
「そうか、死んだなんて、知らないものね……」
美津子がポツリとそう言って、フーッと大きくため息を吐いた。それからゆっくり由子の顔に目を向けて、少し語気を強めて聞いたのだった。
「それじゃあ彼は、由子が一学年上にいるって、ずっと知らないままだったの?」
「それは、どうなんだろう。もしかしたら気付いてたかも知れないわ。でも結局、一度掛け違えたボタンはさ、二度と元には戻らないってことよね」
気持ち、酔いから醒めた印象で、そう言って由子は寂しそうに笑った。
ところが美津子の方はそこそこハイになっていて、
「そんなら由子! 一回ぜんぶボタン外しちゃいなさい! それでね、まったく新しい服に着替えちゃう! どう? これで決まりしょ?」
さらにそんな勢いのまま、村上久子が言っていた意味を必死になって語り始めた。
――彼ならそんなことをきっと、今でもしっかり胸に刻み込んでいる。
サンタクロースが現れるのを、今の今まで待っている?
実際に、そんなことがあり得るか?
それから二人は、そんな可能性についてけんけんがくがく論じ始める。そうしていよいよベロンベロンになって、由子の口から決意の言葉が飛び出した。
「本当にそうならよ? そんなことで好きになってくれるなら、わたしぜんぜんオッケーだわ! いいのよ、結婚なんかしなくても、それだって、ぜんぜんいいって言ってんの! わかる? ずっとなのよ……小学校四年生の頃から、わたしはずっと、あいつのこと好きなんだから……」
――だから、あなたはどうするの!?
そんな顔をして見つめる美津子へ、さらに由子は続けて言った。
「そんなことでいいんなら、いくらでもなってあげるわよ! サンタにでもなんでも、なってやろうじゃない!」
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