第10章  十月十九日(土) 〜 2(3)

 2(3)




「由子ほどじゃないけど、よく見りゃ美津子もゆかりも、もの凄いカッコじゃないか?」

 ――あれ、由子なんだ……。

「なんだってまた、あんな格好で来ちゃったんだ? だいたい俺、美津子のあんな服見たことないぜ?」

 そんな幸喜の見つめる先で、美津子はスパンコール付きのワンピース姿。そんな姿は由子以上に、ライトに反射して輝いて見えている。一方ゆかりは、透けているように見えるレース生地で、これでもかというくらい全身をぴったり締め付けていた。

 やがてそんな三人が、ゆっくり幸喜らに近付いてくる。美津子とゆかりに限っては、きっとこんな状況を楽しんでいるのだ。その歩き方からいつもと違って、胸を張り、さっそうと歩く姿はそれなりだ。ところが赤いワンピースの由子の方は、早々に帽子を脱いでしまって、下を向いたまま恥ずかしそうに歩いている。

「おお、由子! メリークリスマス!」

 幸喜が高々と手を上げて、そんな由子に大声を上げた。すると由子は一気に駆け寄り、やはり下を向いたまま必死に告げる。

「もう! そんな大声出さないでよ!」

 見れば彼女一人だけ、ワンピースの丈がひと際短い。そんな裾に両手を添えて、由子は必死に声を抑え、それでも力を込めて幸喜に言った。

「こっちはね、ただでさえチョー恥ずかしいんだから!」

「何言ってるのよ! かわいいじゃない! きっとさ、ショートカットの由子だから似合うのよ。こんなのわたしが着ちゃったら、場末のホステスになっちゃうわ」

 すると美津子が顔を突き出し、由子の後ろからそう言って笑った。

 そんな美津子の言葉は、確かに一理あるのだった。美津子とゆかりは二人とも、長い髪に軽いパーマを掛けている。さらに美津子は痩せていて、一方ゆかりといえば、日々ダイエットを口にしながら痩せる気配はまるでない。ならば場末のホステスは言い過ぎとしても、由子のように「かわいい」などとはならないだろう。

「何がかわいいよ! わたしは三十七歳なのよ? まったもう! どうせバカにしてるんでしょ? いいわよ、笑いなさいよ! どうぞ思いっきり笑ってください!」

 満面の笑みの幸喜らに向け、由子はそう言って胸を張り、笑わば笑えと仁王立ちをして見せた。するとやっぱり真っ先に、幸喜が笑いながらに声にする。

「いや、バカになんてしてないって!」

「何よ! もう充分笑ってるじゃないの!」

「違うって! まあ聞けっての。いつものおまえって、だいたいジーパンにTシャツって感じだろ? それがいきなりこれだもん、誰だって笑っちゃうくらい驚くだろ? たださあ、どうしていきなり、サンタさんになっちゃってるの?」

 そんな幸喜の問い掛けに、慌てて顔を美津子に向ける。

 すると口角だけをキュッと上げ、由子を見つめながらに美津子は言った。

「そうよ、彼女は今夜一晩、れっきとしたサンタクロースなの、ね、由子!」

 そう言って、首を思いっきり傾ける美津子に、由子はただただ苦笑いを見せた。

 それからきっかり三十分後、定刻通りに同期会は始まる。やがて次回幹事も決定し、そこで幹事の役目もほぼほぼ終わりだ。

「美津子、お疲れ様でした」

 マイクを置いて戻った美津子に、明るい声でゆかりが言った。一方幸喜はその場に留まり、次回幹事らと何やらわいわい話している。

「あれ? 由子は?」

 席に着くなり、美津子が由子の所在を聞いた。

「さっきから、ずっとあんな感じよ……」

 ゆかりが見つめる先には、笑顔を見せ合う幸一と由子の姿があった。さっきまでの恥ずかしそうな印象は消え、由子が背筋をしっかり伸ばし、剥き出しの脚を見せつけている。

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