第4章 本田幸一 〜 1

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「死んだって言うんだ、あいつ……それも高校ん時だって……」

 清水隆って覚えてるだろ? 原悠治が突然そう言って、続いての言葉がこれだった。

「なんでだよ!? どうしてそんな大事件が、俺たちまで伝わらなかったんだ? あいつ高校どこだっけ? 死んだなんて、誰かから絶対伝わるだろう? 普通ならさあ……」

 冗談じゃない――という顔をして、向井幸喜が矢継ぎ早の反応を見せる。

「そんなことわからないよ! 中学ん時の奴と偶然会って、聞いたばかりの話なんだ。そいつなんて、高校まで一緒だってのにさ、あいつがどんな理由で死んだとか、ぜんぜん知らないって言うんだぜ!」

「まあ、高校の頃は、実際みんなバラバラだったからな。小学校の頃いくら仲良しでもさ、中学、高校って新しい友達がどんどん増えていくだろ? だから意外とね、俺たちまで伝わらなかったりするんじゃないか? まあ、お宅らみたいに、親同士まで仲良しってなれば、当然話は違うんだろうけど……」

 だから仕方がないんだと、本田幸一が話を受けて静かに言った。

 そこはいつもと変わらず居酒屋〝五郎〟で、あいも変わらず同じ席だ。

 しかし普段とは大きく違って、幸喜も悠治もこれっぽっちも酔っていない。

 そして普段なら、まだ診療中のはずの幸一が、五時という早い時刻にもかかわらず現れている。

「すまない、例の頼まれていた件、やっぱりダメだったよ」

 矢野直美のことを病院に尋ねて欲しい。そんな依頼が果たせなかったと、幸一がわざわざ朝一番、幸喜へ電話を掛けてきたのだ。

 さらに午後から休診にすると付け加え、

「どうだい? 今晩……」

 と、珍しく幸喜を喜ばせていた。

 清水隆とは、幸喜、悠治と仲が良く、幸一も四年生までならよく遊んだ仲だった。

 一度も同期会に姿を見せず、未だどこにいるのかわからない。ところが今日になって突然、高校時代に亡くなっていたと判明した。

「でも、早過ぎるよな……高校生でなんて、ちょっと、勘弁して欲しい」

 悠治が憂鬱そうな顔を見せ、一気にグラスのビールを飲み干した。

「そう言えば、実は例の同級生もさ……同じ頃、やっぱり亡くなってたらしいんだ」

「誰だよ、例の同級生って? 」

 一気に酔いの回ったような顔で、悠治がすぐに幸喜の声に反応する。

 そこで矢野直美が同級生だったことや、六年生の夏休みにいなくなったことなど、基本的なところだけを幸喜は二人に話して聞かせた。

「それで、中学に一度も通うことなく十五歳で亡くなった。きっと美津子はもっと詳しく聞いてきたんだろうけど、俺はまだ、こんなことくらいしか聞けてなくてさ……」

 実際幸喜の方にも、美津子に尋ねたいことがまだまだたくさんあったのだ。しかし美津子の口がなんとも重く、そうそう多くは聞き出せない。

「でもさ、同級生が若くして死ぬってのはショックだろうけど、そこまでするって変じゃないか? 美津子だって、二十年以上前に会ったきりなんだろ?」

 そう言って首をひねる悠治に対し、幸一は難しい顔をしたままでいる。

 そんな二人を前にして、幸喜はふと、由子の言葉を思い出した。

 ――でもやっぱり一番は、美津子が辛く当たってたのが、きっと影響してたんだよね。 

 そんなのが事実だったとして、そうなった原因の一つには、

 ――それでもあなたには、覚えていて欲しかったな……。 

 幸喜が関係しているんだと、由子は確かに言ったのだ。

 そんなことを思い出し、幸喜はボソっと声にした。

「実はさ、この間、由子から聞いたんだけど……」

 一旦そこで言葉を止めて、大きく息を吸い込んだ時だ。

「もうやめよう! そんな二十年以上も前の話! 」

 いきなり幸一の声が響き渡った。

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