第13話父からの報告
「カメリア、ジェイデン、実はね、子供が出来たんだよ」
お父様の部屋へジェイデン様と一緒に行くと、思いもしない突然の報告を受けた。
お父様の言葉を頭の中で反芻して考える。
子供……
ゲームの中でカメリアとジェイデン様には兄弟なんていなかったはず……
という事はつまり子供が出来たのはお父様とマリア様では無い。
そう考えて子供を作る相手が居ても可笑しくない人物と言えば、この中ではお父様の傍付きのセバスティアンしか考えられない。
メイとドオルは成人しているとはいえまだ若いし、恋人が居る様なそぶりも見たことは無い。
そう思い至った私はセバスティアンの方へと笑顔を向けた。
「セバスティアン、おめでとうございます。男の子ですか? 女の子ですか? 今度会わせてくださいね」
私が声を掛ければジェイデン様もキラキラした純粋な可愛らしい笑顔をセバスティアンに向けた。
「セバスティアンおめでとうございます。僕も会いたいです」
良かった良かったとジェイデン様と手を取り合い喜んでいると、お父様が一つ咳ばらいをした。
「あー……カメリア、ジェイデン、セバスティアンは男なんだ……だからセバスティアンに子供が出来たわけでは無いんだよ」
「そうですね。でしたら奥様にお子様が出来たのですね。セバスティアンおめでとうございます」
「おめでとうございます」
セバスティアンはお父様の後ろでフフフ……と小さな笑みを浮かべている。
嬉しくって思わず頬が緩んでしまったのだろう。
普段のセバスティアンは完璧執事と言った表情で、薄っすらと笑顔を浮かべているが本気で笑って居る訳ではない。
私とジェイデン様の言葉に素の笑みがこぼれてしまった様だった。
「あー……カメリア、ジェイデン、セバスティアンは結婚をしていない……つまり子供が出来たのはセバスティアンでは無いんだ」
「まあ、そうですか、では他の使用人ですか? それとも……まさかメイかドオルでは無いですよね?」
「えっ……?」
私の言葉にジェイデン様は驚き、後ろに控えているメイとドオルの方へと視線を向けた。
ジェイデン様はこの屋敷に来たときよりも表情が豊かになり、一瞬も見逃せない。
この驚いた顔がまた可愛くって、撫でまわしたくなる衝動に駆られる。
そんな邪な気持ちを抑えるためにメイとドオルに私も視線を送れば、二人とも笑いながら首を振っていた。
子供が出来たのは自分たちでは無いと言っているのだろう。
つまり子供が出来たのは二人でも無いという事なので他の使用人のようだ。
なのになぜ私とジェイデン様がお父様に呼び出されたかが分からない。
もしかしてお祝いの言葉でも伝えなさいという事なのだろうか。
侯爵家の子供としてそれは喜んでさせて頂くけれど。
そんな事を考えて居るとお父様は困ったような表情を浮かべたあと、マリア様と手を取り合って見つめ合った。
二人のそんな仲睦まじい様子を見るととても嬉しくなる。
私達家族の仲が良ければジェイデン様が傷つくことは無くなるだろう。
ジェイデン様には幸せをたっぷりと味わって貰いたい。
ゲームの中のような孤独なジェイデン様には私がいる限り、絶対にさせはしないと思って居る。
「カメリア、ジェイデン、子供が出来たのは私とマリアになんだよ。二人には弟か妹が出来る。その子とも仲良くしてくれるかな?」
お父様の衝撃発言を受けて、私の頭の中は真っ白になった。
だってゲームの中でカメリアとジェイデン様に兄弟なんていない。
なのに子供が出来た。
兄弟が出来る。
出来てしまう。
これはどう言う事なのだろうか……
そこで一番最初に浮かんだことはゲーム補正。
私がマリア様とジェイデン様を虐めないと決めたため、マリア様が亡くなる可能性が無くなった。
そしてジェイデン様の心にも傷が付く事も無くなるだろう。
けれどそれでは冷酷無慈悲なキャラクターのジェイデン様でも無くなる。
それはもしかしたら柔らかいマリア様のような雰囲気を持つヒロインにも惹かれなくなってしまうのかもしれない。
だからそのためのゲーム補正。
つまりマリア様は子供を産むと亡くなるという事では無いだろうか。
そう思いついた瞬間。
心臓が激しいほどドクドクと鳴り始めた。
冷たい汗が頬を流れて行くのが自分でも分かる。
マリア様が亡くなるかもしれない……
ジェイデン様が傷つくかもしれない……
そんなの絶対にダメ!!
「私……私……」
恐怖を感じた私の目からは沢山の涙が流れ出ていた。
お父様もマリア様も驚いている。
それもそうだろう、私はこれ迄お父様の前で泣いた事など殆どない。
世間で感情の無い令嬢と噂されるぐらいだ。
そんな私が突然涙を流し震えだしたのだ、二人が心配する事は当たり前の事だった。
「リア、どうしたの?」
ジェイデン様が私の顔を覗き込んできた。
素直で可愛くて純粋なジェイデン様を見ると胸がズキンッと酷く痛んだ。
どんなに頑張ってもジェイデン様を傷付けるエピソードを回避することは出来ないのだろうか。
私が絶対に幸せにすると意気込んでいたことは、ただの弱者の遠吠えだったのだろうか。
所詮私もこの世界のキャラクターの一人、ゲームの効力には抗えないという事なのかもしれない。
そう思いついた瞬間、私はお父様の部屋を飛び出していた。
もうどうしていいのか自分でも分からなかった。
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