愛しの魔王様
白猫なお
婚約破棄
第1話婚約破棄でございますか?
「エヴァリーナ・ウイステリア侯爵令嬢! 私はこの国の王子として、悪女であるお前との婚約破棄をこの場にて申し渡す!」
多くの貴族の子息、令嬢が通う大国にある学園の卒業パーティーの席で、この国の王子であるベルザリオ・パフォーマセスの大きな声が会場内に響いた。
ベルザリオ王子とエヴァリーナ侯爵令嬢は幼いころからの婚約者であり、この学園を卒業後、すぐに結婚することになっていた。
婚約破棄と言うただならぬ言葉を聞き、今まさにこの会場に集まる生徒たちの驚きは隠せない状態で、教員達まで王子の御乱心に大慌てだ。
まさか卒業パーティーのような祝いの席で、この様な不祥事をこの国の王子が起こすなどとは誰も信じられなかっただろう。婚約解消ならいざ知らず、婚約破棄を大勢の前で宣言するなど、醜聞も甚だしいところだからだ。
ベルザリオはこの国のたった一人の王子という事もあり、幼い頃から甘やかされ、少し我儘な部分を持っていた。それをどう担うかを父親である王と、国の重鎮達が考えた結果、白羽の矢が立ったのが侯爵令嬢のエヴァリーナだった。
エヴァリーナは幼いころから優秀と噂され、見た目も美しく、完璧なご令嬢と周りから褒め称えられるそんな少女だった。そんな誰もが認める彼女の事を、ベルザリオはどうしても愛することが出来なかった。
王子である自分よりも優秀で、父親である王やこの国の重鎮達からも信用されている。誰もがエヴァリーナが居ればこの国は安泰だと噂する。
この国を率いていくのは王子である私なのに!
王子としてのプライドからか、ベルザリオはいつしかエヴァリーナの事を妬み、憎むようになっていた。
「まあ、ベルザリオ様、この様な場所で婚約破棄とは穏やかではございませんわね。悪女とは……理由をお伺いしても宜しいですか?」
落ち着き払った様子のエヴァリーナを見ると、またベルザリオの劣等感が刺される。
この期に及んでもエヴァリーナはまだ未来の王妃気取りだ。
いつもそうだった。
口煩く国政を学べと言ってきたり、王子として振る舞えと言ってきたりと、自分を小馬鹿にするようなエヴァリーナの様子にベルザリオは辟易していた。
可愛げのないエヴァリーナとは結婚など無理だと、ベルザリオは婚約破棄をする計画を学園に入ってからずっと練っていた。
それが今日やっと叶う。
やっとエヴァリーナに見下される日々から解放される。
そう思うベルザリオの胸は、明るい未来に向けて高揚し、高鳴っていた。
「婚約破棄の理由? ふん、賢いと言われているお前だが、どうやらそう言った事は分からないらしいな……まあ、良い、教えてやろう。それは学園内におけるお前のあくどい虐めが原因だ。お前のような悪女をこの国の王妃にはさせられぬ! 王妃に相応しいのはここに居る心優しいレーナ・フルボディンヌ嬢だ。お前が私の愛を失う事を恐れ、いじめた相手でもある……どうだ、悪事がバレて言葉も無いだろう」
レーナ・フルボディンヌと呼ばれた令嬢は、男爵令嬢で、学園内でいつもベルザリオと行動を共にしていた少女だ。
生まれは平民らしいが、この学園入学前に父親である男爵家に引き取られたようだ。
その為貴族のマナーが理解できておらず、王子であるベルザリオに余りにも親しげに近寄るため、多くの子息、令嬢から陰口を言われていた少女でもあった。
王子として劣等感をもつベルザリオとそんなレーナは自然と惹かれ合い、恋に落ちた様だが、皆学園内で二人が逢瀬に励む姿を見ても、あまり気に留めていなかった。
そもそもベルザリオの婚約者は侯爵家の娘であるエヴァリーナであり、男爵令嬢のレーナとは比べようがない。いずれレーナの事は妾妃にでもするのではないかというのが一般的な生徒たちの考えだった。
それがまさかこの様な場で婚約破棄を言い渡し、その上レーナを王妃にするなどとベルザリオが言いだすなどとは誰も思って居なかったことだ。
この場に居る全員が余りの王子の愚かさに呆気に取られていたことだけは確かだった。
「私がいじめをしていたと?」
婚約破棄を宣言されても落ち着いていたエヴァリーナがここで初めて目を見開いた。
その様子にベルザリオはやっとエヴァリーナの事を追い詰められたと内心喜んでいた。
だが、レーナを王妃にする為にはエヴァリーナがこの国に居ては困る。
父親やこの国の重鎮たちに気に入られているエヴァリーナが何かを訴えれば、今度はレーナの立場が悪くなる可能性もある。
今日この場には王も国の役員達も来ていない。
学園の教師と生徒達だけの集まりだ。
その為王子であるベルザリオの立場が一番高い状態だった。
誰にも邪魔されずにエヴァリーナの生末を決めるのは、今この場しか無いとベルザリオは意気込んでいた。
「ふん、エヴァリーナ、言い逃れは見苦しいぞ、こちらには証拠が揃っている。よってお前を国外追放とし、魔法の国へと貢物として送ることに決めた。ハハハッ、せいぜいあちらの王に奴隷として尽くすが良い」
してやったりと、王子にあるまじき醜い笑みを浮かべながら、ベルザリオは高らかに笑った。その隣に立つ男爵令嬢のレーナも勝ち誇った笑みをエヴァリーナに向けている。
いずれ王妃になるであろうエヴァリーナがいてこその大国だとずっとそう言われてきた。
そんな誰もが認める優秀なエヴァリーナを出し抜けることが出来たのだ。
ベルザリオは自分の王子としての評価がこの場に居る生徒や教師達から益々落ちている事など気付きもせず。ただ今この瞬間に満足していた。
「ベルザリオ様、いえ、婚約は破棄されましたので殿下とお呼びさせて頂きましょうか……」
「な、なんだ、今更言い訳など私は聞く気は無いぞ!」
「まあ、言い訳など、フフフ……私はそんな小さな事は致しませんわ」
「ふん、なら良い、では罪を認めるという事だな!」
「フフフ……ええ、そうですわね。私の罪と言えば罪になるかもしれませんわ……」
「……何が言いたい?」
「ええ、ではここで答え合わせを致しましょうか」
落ち着き払ったエヴァリーナの言葉に、ベルザリオは思考が追いつかなかった。
ここ迄追い詰めたのに何故エヴァリーナは笑って居られるのか。
その答えがこれから明かされることとなる。
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