界境怪談-カイザカイカイダン-
伊藤無銘
第1話 界境駅
境界線の境界を逆さまにして「かいざかい」って読むんだ。
それがこの街の名前だよ。
何もない街だね。
これといって名所があるわけでも遊ぶ場所があるわけでもない。
でもそれほど田舎ってわけでもないんだ。
車を持ってなくても困らない程度には開けてる。
駅の周りは結構栄えてるよ。
昔ながらの商店街がまだ残ってるんだな。
少し離れた所にショッピングモールもあるけど、うまい具合に共存できているらしい。
東京駅からなら一時間くらいだ。
一度乗り換えないといけないけどね。
混雑を避ければ四十分くらいで着くと思うよ。
ただ電車で来るならうっかり乗り過ごしたりしないよう注意することだね。
とんでもない所まで行っちゃうかもしれないからさ。
路線図に乗ってない?
うん、そうなんだよな。
理由は知らないよ。
電車に詳しいわけじゃないからね。
一つ前の駅にも書いてないんだ。
でもあるんだよ。
界境駅。
普通の駅だよ。
降りる人は少ないけど、無人駅みたいなのじゃないんだ。
改札の外にはコンビニも入ってるし、エレベーターとエスカレーターもある。
ホームドアは、まだ付いてなかったかな。
電車を降りたらすぐに階段を登った方がいい。
そうじゃないと後ろから声をかけられるんだ。
それも一人や二人じゃない。
おーい、おーい、って大勢の声で呼ばれるんだよ。
たぶん風が通り抜ける音がそう聞こえるだけなんだろうけど、気味が悪いから。
イヤホンで音楽でも聴きながら降りたらいいよ。
気味の悪い声を聞かずに済むからね。
間違っても後ろを振り返ったりしちゃいけない。
階段を登る途中なんかでホームの方を振り返りとね、線路からこう、たくさんの腕が飛び出して来て手招きしてるような気がするんだ。
まあそんな気がするってだけだけどさ。
そうそう。
改札を出た先は通路になってて、突き当たりに駅長室があるんだけどね。
その隣にもう一つ白い扉があるんだよ。
いつもは閉まってるんだけどたまに開いてることがあるんだ。
扉の向こうには下へ降りて行く階段がある。
だけどそこは出口じゃないんだ。
降りて行っても駅からは出られないよ。
その先に何があるかって?
知らないよ。
知りたいとも思わないね。
駅の外から見てもどこへ繋がってるのかはわからないんだ。
そんでそこから少し右に進んで、見えてくる階段を降りれば駅からは出られるよ。
駅を出たらすぐ正面に交番があるから、行きたい場所があったらそこで聞けばいい。
でもさ、本当に何もない街だよ?
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