未練

@tootika

第1話

「唯はなりたいもんとかある?」

クラスメイトの島崎イオリが言った時、私はすでに余命宣告を受けていた。

放課後の帰り道。今日は「将来の夢」というテーマで作文の宿題が出ている。私は悩んでないのに悩んでいるフリをして、イオリはどう?と聞き返す。

「んー」

「何書くか迷ってる?」

「やりたいことが多すぎる!」

「ああそっちか」

「唯はあれじゃない?写真撮るの上手いし写真家とか新聞記者とか」

「新聞記者…いいかも」

「スクープをカメラにおさめろ!っ的なね」

「うん、面白そう」

「唯に取材されてみてぇ、将来の夢それにしよっかなー」

少し辛くなる。イオリは私の余命を知らない。

犯罪の計画が出来たら教えてよというと、

アイドルとしてかもしれないじゃん!と口を尖らせた。こういう会話をしていると、やっぱり言わない方がいいなと思う。自分勝手だとも、思う。

イオリと別れて家へ向かう。大きな車だと通れなさそうな細い道を通る。少し遠回りになるが、家と家の間以上のものは何もないこの静けさが私は好きだ。それに今日は遠回りしたい理由もあるのだ。

「よぉ、待ってたぜお嬢ちゃん」

これである。イケメンでもギリ許されないこのセリフの発言主は、昨日会ったばかりの髭面のおじさんである。昨日会ったばかりなのに、私の家に住み着こうとしている。ママやパパはおじさんのことを知らない。どうやら私にしか見えないらしい。食べるものや場所の心配も必要ない。おじさんは体を持っていないのだ。

昨日、私は初めて幽霊を見た。死期が近いことをこんな形で実感することになるとは、思ってもみなかった。


これは未来を諦めた少女と、諦められなかった幽霊の話である。

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